フォトジャーナリスト安田菜津紀さん手記 グアテマラ訪問記 ─後編─
2019.10.07 UP

フォトジャーナリスト安田菜津紀さん手記 グアテマラ訪問記 ─後編─

LOCAL

10月11日は「国際ガールズ・デー」です。
女の子の権利が保障される社会を目指して、世界に広く呼びかける日です。
女の子を支援する、さまざまな活動を行ってきた国際NGO『プラン・インターナショナル』。
そのグアテマラの活動地で出会ったある女の子の物語を、安田菜津紀さんがレポートします。

 首都・グアテマラ市から車で3時間ほど離れた、バハ・ベラパス県プルハ市。青々とした木々のトンネルを駆け抜けると、山間に広がる静かな集落へとたどり着いた。人口5400人ほどの小さな町は、住民の多くが先住民であるマヤの人々であり、彼らの中で受け継がれてきた言葉を話す。トウモロコシやコーヒーの栽培を軸としたのどかな生活が広がる一方、閉鎖的なコミュニティの中で困難を抱える女性たちの声にも、取材中に触れることとなった。

プルハ市の山々。風が吹き抜けると、森のざわめきと共に鳥たちの心地よい声が響く。
プルハ市の山々。風が吹き抜けると、森のざわめきと共に鳥たちの心地よい声が響く。

 グアテマラに限らず、中米には「マチスモ」と呼ばれる男性優位の価値観が根強く残っているといわれる。「学校に何しに行くんだ? どうせ彼氏をつくって妊娠するんだろう」。父や兄からそう言われ、学校に行くことを反対された経験のある子は、滞在中に話を聞かせてくれた女の子たちの中で、1人や2人ではなかった。実際に早すぎる妊娠の問題はあるが、それは女性たちが性に関する知識を得る機会が限られていること、自己決定の機会が乏しいことの表れでもある。

 ロンディさん(18歳)は10代半ばから国際NGO『プラン・インターナショナル』のワークショップや研修に参加してきた女性たちの1人だ。

 「私の父はかつて、教育の力を信じていなかったと思います。私や妹は『女性は静かでいるべきだ』としつけられ、自分の意思を伝えることすら難しかったんです」

自宅の敷地にある、花でいっぱいの自慢の庭に立つロンディさん。
自宅の敷地にある、花でいっぱいの自慢の庭に立つロンディさん。

 ほかの女性たちがそうであったように、『プラン・インターナショナル』の活動を通して初めて、自分には教育を受ける権利があると知り、自身の考えをなるべく家族に伝えようと試みた。父は反発したが、母は背中を押してくれ、ロンディさんは学校に通い続けた。

 父親のオリオ・カカオさんは、当時の心境をこう語る。「あの頃、近所でも14〜15歳で妊娠している女の子たちを見ていたので、心配な気持ちもあったんです。勉強に打ち込んできたロンディを今は誇りに思っているし、妹たちにも同じ教育を受けさせたいと今は思っています」。

自宅で学校の宿題をこなすロンディさんの弟と妹。
自宅で学校の宿題をこなすロンディさんの弟と妹。

 ロンディさんは今、県庁の総務課で職員給与支払いや履歴書を確認する仕事に就いている。責任ある立場を任せられている一方、医師になるという、さらなる夢に向かって進んでいる。「私の家族で生まれたこの変化は、きっとほかの家庭でも実現できるはず」と自信を持って語る。

プルハ市中心地のマーケット。日用品に加え、市内で育てられた瑞々しい野菜などが並ぶ。
プルハ市中心地のマーケット。日用品に加え、市内で育てられた瑞々しい野菜などが並ぶ。

 ロンディさんたちに続きワークショップに参加してきた女の子たちからは、「知識を得ることは、生まれ変わることと同じだった」という言葉が聞かれた。偏見は無意識にはびこるものだからこそ、知らず知らずのうちに社会の中に根づいてしまうことがある。女性たち自身、何かしらの抑圧を「当たり前」だと思い、そもそも「NO」と伝えていいものだと思ったことさえなかったかもしれない。だからこそ知り、気づき、そして伝えることが、変化への扉を開くことになるのだ。

「フォトジャーナリスト 安田菜津紀が出会ったグアテマラの女の子たち」写真展
https://plan-international.jp/girl/idg2019

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs & text by Natsuki Yasuda

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