「遠くの世界でよろしくやってる人」と思われないように。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ
2019.10.13 UP

ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ 「遠くの世界でよろしくやってる人」と思われないように。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ

DIVERSITY

 先月、母校の中学で講演をした。どうやら今年の道徳のテーマが「性の多様性」だったらしく、大学時代のバレーボールサークルの後輩が担任をしたこともあり、つないでくれたのだ。久しぶりに足を運んだ学びは僕が記憶していたよりもずっと緑に囲まれていて、静かだった。中学時代を振り返ると、とても騒々しいものだったように思うが、それは環境のせいというより、僕のせいだったのだろう。久しぶりに自分の下駄箱の前に立つと、当時の自分が四方八方に向けて発していたいら立ちを思い出し、恥ずかしくなって肩をすぼめた。

 講演会場となった視聴覚室に入ると、200人ほどの中学三年生が席に着いてざわめき合っていた。幾人かの女子生徒たちが教室の端で出番を待つ僕の存在に気づくと、こちらを指さしてキャッキャと騒いだ。僕はと言えば、この教室で卒業生の落語家の方の話を聞いたことを思い出していた。その時は「校則を破り、毎日下校途中に落語を聞きに行った話」を聞かされたのだが、校則第一と口うるさく言っていた校長が、それを楽しそうに聞いているのがムカついてまともに話が入ってこなかったのだ。本当に僕は、面倒くさい少年だった。

 ぼんやりとしているのもつかの間で、すぐに講演は始まった。見渡すと僕が教えてもらっていた先生たちもチラホラと見ていて、珍しく緊張した。なんだかんだ僕にとって彼らは今も先生なのだ。自分もかわいいところがあるなと思った。

 お話ししたのは、LGBTについて持っておいてほしい基礎知識、僕の一人の当事者としてのライフヒストリー、「やる気あり美」の活動についてだ。講演を通じて一番ウケがよかったのは僕らが作ったアニメや動画だったが、刺さった話は、「LGBTは11人に1人もいて、皆の周囲にいないのではなく、見えていないだけ」という話だった。なぜ見えていないのかと言えば、皆が何の気なしに口にする「ホモかよ」「レズみたい」「女のくせに」「男のくせに」といった言葉の影響が大きい、と話した。「そんな言葉が飛び交っている環境じゃ、自分だったら言わなくない?」と聞くと、みんな頷いてくれた。

 講演は滞りなく終わり、今回は受講後の感想文を共有してもらえた。そこにはいろいろな意見・感想があったが、一番多かったのは「LGBTのことは知っていたが、LGBTに対してネガティブな気持ちを持っている人が(当事者も非当事者も)いると知らなかった」という声だった。彼らの気持ちを声にするなら「なんでダメなの? 別にいいんじゃない?」といったところだろうか。

 だが一方で、先ほども言ったとおり、「そんなにLGBTの人がいると知らなかった」という声、そして「自分もLGBTだったら、悩むことになるのかと思うと怖くなった」という声も多かった。これらの声を一つに合わせると「社会からLGBTは受け入れられていいと思うけど、自分とは関係ないと思っていた。関係があると知った今、怖くなった」になるだろう。そういう意味では彼らの「いいんじゃない?」は「無関心」に近いものだったのかもしれない。

 でも、それは彼らの周囲にカミングアウトしている当事者がいないのだろうし、仕方のないことだし、僕はそれよりも「怖くなった」という声に驚いていた。というのも、これまで高校・中学で行った講演でそんな声は上がらなかったからだ。これは、彼らが「LGBT」というテーマを「遠い世界の話」と思ってはいない、ということを示している。それだけでも大きな社会の前進を感じたのだ。

 彼らの間で、これからどう「LGBT」が話題に挙がるのか、そしてそれが、教室のどこかにいる当事者の少年少女たちの気持ちにどんな影響を及ぼすのかはとても気になるが、どうかそれがポジティブなものであってほしい。今回のことを経て、僕はますます講演に意義を感じてしまったので、全国の教職員の皆様、どうぞご依頼のほどよろしくお願いいたします(笑)。

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文・太田尚樹
イラスト・井上 涼

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。