銀行が造った、革新的な複合施設。アムステルダム市民が集う『CIRCL』。
2019.10.15 UP

銀行が造った、革新的な複合施設。アムステルダム市民が集う『CIRCL』。

SUSTAINABILITY

「地域住民が気軽に立ち寄りたくなる銀行があってもいいんじゃないか」。オランダのメガバンクの一つ「ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)」が、そんな想いから造った複合施設が『CIRCL』です。そして、取り壊しになった建物の廃材を再利用するなど、環境保護へ貢献しつつ経済的利益も追求する「サーキュラーエコノミー」を取り入れた施設でもあります。

メガバンクが取り組む、新たな複合施設。

 『CIRCL(サークル)』は、2017年にオランダの3大メガバンクのうちの一つである「ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)」がオープンした複合施設だ。アムステルダムのZuid(ザイト)地区にあるABN AMRO本社ビルの前に建てられている。『CIRCL』が建設された背景には、ABN AMRO本社に勤務する従業員が増え会議室が足りなくなり、新しい建物の建築計画が始まったことにある。しかし、その際に「地域の住民は口座開設や解約など、何か特別な用事がなければ銀行に来ることはない。市民にもっと気軽に訪れてもらえる銀行にしたら、市民に愛される銀行になるのでは」という意見が挙がったため、『CIRCL』は会議室以外の機能も持った複合施設として造られた。

 『CIRCL』の外見は銀行関連の施設とは思えないほど洗練されて開放的で、中にはレストランやバー、地元アーティストの展示スペースが併設されており、一般の人も何げなく立ち寄れる場所となっている。また、地域住民が社会課題や環境問題にどのように取り組めるかを考え、サスティナビリティに関連するイベントのほか、ヨガやサルサなどのワークショップも定期的に行われているため、特に銀行に用事がなくとも『CIRCL』を訪れる人は多い。会議室としてのスペースも10人ほどが入れる小規模な部屋から、70人ほどを収容できるイベントスペースまで用意されている。

開放的でスタイリッシュな入り口エリア。1階は手前が雑貨ショップ、奥がレストラン。地下は会議室やレンタルスペースとなっており、2階はバーや屋上庭園へと続いている。
開放的でスタイリッシュな入り口エリア。1階は手前が雑貨ショップ、奥がレストラン。地下は会議室やレンタルスペースとなっており、2階はバーや屋上庭園へと続いている。

「アーバン・マイニング」を取り入れた建築方法。

 現代的な建物の外観とは対称的に、『CIRCL』の建材にはアムステルダムの地域から出る廃材が多く活用されている。新しい資源を調達する代わりに、都市部で廃棄されるはずだった、まだ活用できる資材を利用することは「アーバン・マイニング」と呼ばれ、廃材を減らすことで地球環境への負荷を減らせるという利点を持ち合わせている。

 床一面に敷き詰められた色合いの異なる木材は、アムステルダムのほかの建物を取り壊す際に回収されたものだ。

CIRCLのフロアには取り壊された修道院やレストラン、バーから回収された木材が使用された。さまざまな場所から集められた色違いの木材でおしゃれな床に仕上がっている。
CIRCLのフロアには取り壊された修道院やレストラン、バーから回収された木材が使用された。さまざまな場所から集められた色違いの木材でおしゃれな床に仕上がっている。

会議室の窓や家具は、オランダにオフィスを構える医療機器メーカー『PHILIPS(フィリップス)』が、一つのオフィスを取り壊した際に引き取ったものが使用されている。また、会議室の壁に使用されている防音素材は、ABN AMROの社員が以前使用していた旧式のユニフォームが、繊維状に戻されてから防音壁に加工されたもので、断熱材には1万6000本以上の履かれなくなったジーンズの繊維が使用されている。

ABN AMRO銀行で昔使用されていた旧型ユニフォームが繊維化・加工され、現在はCIRCLの会議室の防音壁素材として活用。廃棄されるはずだった素材が、形を変えて新しい役割を担っている。
ABN AMRO銀行で昔使用されていた旧型ユニフォームが繊維化・加工され、現在はCIRCLの会議室の防音壁素材として活用。廃棄されるはずだった素材が、形を変えて新しい役割を担っている。

建物内の所々に見られるアート作品も実は廃材でできており、廃棄になる電気配線で表現された木や、空調に使用されていたアルミ素材から作られた花のアートが展示されている。

 また、「ABN AMRO」の本社と『CIRCL』の間に設けられた中庭に出ると、古い自転車のフレームを使用したベンチや、太陽光発電を用いた充電スポットも用意されている。

左/庭園のベンチには古い自転車のフレームが使用されている。右/中庭には太陽光でのスマートフォン充電スポットを設置。お昼にはベンチに腰掛け、ランチを食べている間に充電をする人の姿も。
左/庭園のベンチには古い自転車のフレームが使用されている。右/中庭には太陽光でのスマートフォン充電スポットを設置。お昼にはベンチに腰掛け、ランチを食べている間に充電をする人の姿も。

 屋上には「ルーフトップ・ガーデン」と呼ばれる庭園が設けられており、様々な草花で緑化が行われている。晴れた日には市民が散歩をしたりベンチに腰をかけたりしている姿が見られる姿が見られるなど、市民の生活に溶け込んでいることがわかる。

 CIRCLが建築される際の大きな特徴が、「いつか取り壊されることが前提で建築された」ということだ。そのため、柱と梁をつなぎ留める部分には接着剤は用いられず、すべて取り外し可能な金具で固定され、アルミニウムや金属製の部品も取り外しができるなど、再利用が可能なように設計されている。また、支柱部分に使用されている木材は、劣化してもその部分を削ることで柱として再利用できるように、支柱として使われている建材よりも太めのものが使われている。これらの木材はすべてFSC(森林管理協議会)から「持続可能な森林」と認定された森で伐採されたものが使用されている。

会議室にはテーブルを囲んで座れる場所や、立って話ができるスペースも用意されている。窓枠には電子機器メーカー『PHILIPS(フィリップス)』のオフィスを解体する際に譲り受けたものが再利用されている。
会議室にはテーブルを囲んで座れる場所や、立って話ができるスペースも用意されている。窓枠には電子機器メーカー『PHILIPS(フィリップス)』のオフィスを解体する際に譲り受けたものが再利用されている。

 『CIRCL』内に設置されているエレベーターは購入したものではなくリースされているもので、使用回数に応じて支払いを行っている。そのため、『CIRCL』での設置を終えた際にはエレベーター会社が回収に来る仕組みになっており、このエレベーターも解体時のことが考えられた、取り外し可能な設計になっている。

廃棄食材が活躍されたモダンレストランとバー。

 施設内には雰囲気のいいレストランが併設されているが、実はここで使用されている食材の一部にはスーパーマーケットで販売できなくなったものの、まだおいしく食べられる廃棄食材が利用されている。レストラン内に使用されたおしゃれなデザインの椅子は廃棄された冷蔵庫のラジエーターを加工して作られたもの。壁際には隙間なく様々な野菜をピクルスにしているガラス瓶が配置してあり、野菜の色によってさまざまな色合いに変化するため遠くから見るとカラフルな壁のように見える仕掛けが施されている。また、レストラン内でハーブの栽培も行うことで、トラックでの運搬にかかるコストや環境への負荷を削減する取り組みも行っている。

1階のレストラン。一角ではハーブを自家栽培している。また、壁沿いの棚に並べられた色とりどりのピクルスの瓶は、遠くから見るとカラフルな壁に見えるようになっており、内装の景観をよくする役割も。
1階のレストラン。一角ではハーブを自家栽培している。また、壁沿いの棚に並べられた色とりどりのピクルスの瓶は、遠くから見るとカラフルな壁に見えるようになっており、内装の景観をよくする役割も。

 2階にあるバーでもユニークな試みが行われている。日中はカフェとして営業しており、その際に注文で出たお茶の茶葉をウィスキーなどにつけておき、夜のバーの時間に提供するお酒の風味付けとして活用されている。また、ジャガイモの皮や廃棄されるパンから造られたビールなどもあり、ABN AMROの職員や地元の若者、周辺企業の会社員で賑わいを見せている。

ABN AMROが見据える2030年までの目標。

 ABN AMROは2015年に「第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP 21)」で結ばれた、気候変動抑制のための国際的目標を取り決めたパリ協定を支持しており、自社でも2030年までに気候変動抑制に向けた取り組みを行っている。2019年には、2030年までに各支店で65パーセントの温室効果ガスを削減することを目指すとした。今後もABN AMRO、そして『CIRCL』が行う、未来に向けた革新的な取り組みから目が離せない。

Information
CIRCL
Gustav Mahlerplein 1B, 1082 MS Amsterdam
月〜金曜:8:00〜21:00 
土・日曜
https://circl.nl

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Yuki Inui
text by Akihiro Yasui

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