デニム大国・オランダから世界へ届ける。『MUD jeans』が作るサーキュラーエコノミーデニム
2019.10.16 UP

デニム大国・オランダから世界へ届ける。『MUD jeans』が作るサーキュラーエコノミーデニム

DIVERSITY

オランダは、国民一人当たりのジーンズ所有本数が世界一と言われています。
そんなオランダの首都・アムステルダム発のジーンズブランドが『MUD jeans』です。
彼らはサーキュラーエコノミーの観点から、ジーンズを購入する代わりにリースするというシステムを確立するなど、今その取り組みは世界から注目されています。

オランダから世界へ。新しいジーンズの形とは。

 オランダ人は一人当たりのジーンズ所有本数が世界一だと言われ、アムステルダムの街を歩いていても、そんなオランダ人のジーンズへのこだわりがあちこちに感じられる。何軒ものお洒落なジーンズのセレクトショップが立ち並び、デザイン性が優れたものだけでなく、環境への最先端の取り組みが見られる商品も扱われている。

 さらに、世界初のジーンズの専門学校や『ハウス・オブ・デニム財団』といった、ほかの都市には見られない機関もあり、オランダ人とジーンズの密接な関係性がうかがえる。

 そんなオランダで、近年注目されているジーンズブランドが、『 MUD jeans(マッド・ジーンズ)』だ。2012年に世界初の「サーキュラーエコノミー・ジーンズ」の企業として創業され、これまでに世界29か国、およそ300の店舗とオンラインストアを通じて、10万本以上のジーンズを販売するなど、地元民だけでなく世界中からも愛される商品を届けている。

『MUD jeans』のデニムはリサイクルがしやすいように設計されている。背面のラベルには革が使われることが多いが、特殊塗料でのプリントラベルが採用されている。
『MUD jeans』のデニムはリサイクルがしやすいように設計されている。背面のラベルには革が使われることが多いが、特殊塗料でのプリントラベルが採用されている。

サブスクリプション型の世界初のジーンズ。

 オランダ国内では洗濯機、コーヒーマシン、食器洗浄器、自転車などを月額制でリースするサブスクリプションモデルが広まっている。購入する場合に比べて初期投資が小さくて済むことや、リース期間中には無料でメンテナンスやリペアのサービスが受けられること、使用しない期間は返却することでスペースを有効活用できる点などで消費者の人気を集めている。

 『MUD jeans』はジーンズ業界で初めて、こうしたサブスクリプションモデルを採用した革新的な企業だ。その仕組みは、初回登録料として29ユーロ(約3500円)を支払い、月々7・5ユーロ(約800円)でリースを行うというもの。そして1年間のリース期間終了後には、「古いジーンズを返却し新しいものと交換し、さらにリースを続ける」「古いジーンズをそのまま買い取り、自分のものにする」という、2つのオプションから選ぶことができる。

 『MUD jeans』をはじめとする月額制サブスクリプションの導入が広がる理由としては、地球環境保護とビジネス面での収益確保の両面にメリットがあるとされているからだ。『MUD jeans』で製造・購買・生産の担当を務めるディオン・ファハボーンさんによると、創業当初は世界中でコットンの価格が高騰したタイミングだったそう。それによりアパレル関係企業は通常どおりコットンを安定して調達することが難しい状況に陥り、結果として業界全体で衣類製品の値上げを行わざるを得なくなり、売り上げに影響が生じた。

『MUD jeans』はデニムが消費者のリース後に返却されるとそれらを繊維に戻し、新しいオーガニックコットンと混ぜたうえで、再び新しいジーンズの製造につなげている。現在、40パーセントのコットンが使用済みジーンズから得られたものが使用されており、徐々にその比率を高めることで新しいコットンの調達に頼らないビジネスモデルを築いている。
『MUD jeans』はデニムが消費者のリース後に返却されるとそれらを繊維に戻し、新しいオーガニックコットンと混ぜたうえで、再び新しいジーンズの製造につなげている。現在、40パーセントのコットンが使用済みジーンズから得られたものが使用されており、徐々にその比率を高めることで新しいコットンの調達に頼らないビジネスモデルを築いている。

 そこで『MUD jeans』はジーンズを買ってもらうのではなく、一定期間リースした後に回収。その後裁断して繊維に戻し、その繊維を使って、再びジーンズを製造することで、できる限り新しいコットンに頼らないビジネスモデルを確立した。これにより、現在はデニム一本あたり40パーセントが古いジーンズから回収されたリサイクルコットンが使用され、残りの60パーセントは契約農家で採れた新しいオーガニックコットンが使われている。さらに『MUD jeans』のリサイクルプログラムでは、ジーンズの材料に96パーセント以上コットンが使用されていることが条件に、ほかのメーカーのジーンズのリサイクルも受け付けている。消費者はリサイクル用にジーンズを提供すると10パーセントのクーポンを受け取ることができ、そのクーポンは次回ジーンズをリースや購入する際に利用することができる。その結果、これまでに販売された約10万本のジーンズのうち、約4割が返却されているそうだ。

 また、『MUD jeans』はオーガニックコットンを供給する労働者と、どちらにとっても持続可能な関係を築くために、フェアトレード以上の賃金を支払い、有給休暇取得の促進、安全な労働環境整備を行っている。このような、生産者にとってもフェアな労働状況は、『MUD jeans』のホームページやサスティナビリティ・レポートで公表されており、ビジネスの透明化が消費者の信頼獲得につながっている。

『MUD jeans』の使用済みデニムから繊維化されたコットン。ここから新しいオーガニックコットンと混ぜられ、ジーンズの製造に再利用される。
『MUD jeans』の使用済みデニムから繊維化されたコットン。ここから新しいオーガニックコットンと混ぜられ、ジーンズの製造に再利用される。

サーキュラーエコノミーに基づいたデザイン。

 「サーキュラーエコノミー・ジーンズ」の導入によって、大きな変化がもたらされたのがデザインの段階だ。『MUD jeans』の製品は、顧客の使用後に処分される代わりに自社へ返却され、リサイクルされることが念頭に置かれたデザインが施されている。そのため、前部にはファスナーより長持ちし再利用も可能なボタンが採用されている。また、通常背面のラベルには革が使用されることが多いが、その代わりに環境に配慮した特殊塗料でのプリントラベルになっており、取り外しも不要な設計になっている。

 こうして革のラベルを使用しないことで、動物性素材を使用しないジーンズ製造に成功し、欧米で近年増加傾向にあるヴィーガン(動物性製品の購入を控える菜食主義者)のコミュニティにも受け入れられている。また、乾燥藍という、水をまったく使用しないことで時間も費用も大幅に抑え、結果として環境への負荷も抑えられる、新しい染色技術の導入も行われる予定だ。

リサイクルコットンのみでジーンズを作るために。

 一般的にリサイクルコットンは新しいコットンに比べて耐久性が劣るため、これまでのところリサイクルコットン100パーセントで商品化されている製品はない。ディオンさんによると、『MUD jeans』は2019年よりアムステルダムの大学機関と連携をし、「Road to 100%(ロード・トゥ・100%)」という、古いジーンズから回収されたリサイクルコットンを100パーセント使用したジーンズを製造するための研究を進めているそうだ。

 近い将来、『MUD jeans』からまたひとつ、世界でも前例のない製品が発表されるかもしれない。彼らのサーキュラーエコノミーへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Yuki Inui
text by Akihiro Yasui

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Dion Vijgeboom

『MUD jeans』のCOO(最高執行責任者)。複数の企業でジーンズの製造と開発に携わった後、2015年より『MUD jeans』の共同所有者(Co-owner)となる。現在は、リサイクルコットンのみを使用したジーンズの製造を目指している。