仙台市 白川裕也 | 2 | NEXTスーパー公務員
2019.10.18 UP

仙台市 白川裕也 | 2 | NEXTスーパー公務員

SUSTAINABILITY

東北全体で起業家を育てるムーブメントを!

 全国の自治体がそれぞれで取り組んでいる起業支援。そんな中、仙台市では、東日本大震災以降、市域の枠組みにとどまらず、東北全体の起業家を育てる施策を推進中。その立役者を紹介します!

 紹介させていただくのは、仙台市の職員、白川裕也さん。秋田県出身で、東北大学を卒業後、仙台市に入庁。これまでのキャリアの大半で産業振興に関わり続けてきました。そんな彼が今、取り組んでいるのが、仙台市という行政の区域を超えた、東北全体で起業家を育てるエコシステムの構築。市町村が住民の起業支援を行う取り組みは全国各地で行われていますが、市町村、そして都道府県の範囲を超えて広域で支援を行うというのは、非常に珍しい取り組みだと言えます。どうやって、そして、どういう思いで、この取り組みが始められたのか。そして今後、何を目指していくのか。一人の公務員が周りを巻き込みながら大きなうねりをつくっていく姿を通じて、公務員という仕事の本当の魅力を知ってもらえたらと思います。

仙台市から、東北全体の起業家を応援する仕組みをつくる。

 白川さんが生まれたのは、秋田県大館市花岡町。かつては亜鉛や鉛などを採取する、世界有数の黒鉱の鉱山として栄えた町ですが、1994年の閉山後、人口が急速に減少。まさに町が消えるというような状況を目の当たりにして、白川さんは、「地域を元気にするような企業を増やしたい」「多様な雇用の場を地域に生み出したい」「東北の経済を活性化するような仕事がしたい」といった思いを強く抱くようになりました。そんな中、「仙台市には東北の経済を牽引する責任がある」という当時の市長の言葉に共感し、「東北全体を盛り上げる仕事ができるのではないか」という思いで、仙台市で働くことを決意しました。

仙台市の仲間たち。左から今松亮二さん、白川さん、向井晃之係長、今野勇希さん。
仙台市の仲間たち。左から今松亮二さん、白川さん、向井晃之係長、今野勇希さん。

 そうして働き始めて3年目に直面した、あの日。「東日本大震災で一番揺さぶられたのは、人々の心かもしれない」と白川さんは言います。たくさんの人たちから、被災地の復興や地域課題の解決を目的として、新しいビジネスを始める動きが出てきました。被災地となった東北では、新たな未来を切り拓いていく人材、特に起業家が不可欠。「なんとかして、立ち上がった人たちを支えたい。自分、そして行政ができることは何か。行政の役割は、民間の方々をつなぎ、互いに役割分担しながら動く"仕組み"をつくることではないか」。そんな思いが、日に日に強くなっていったと、白川さんは言います。

 そこで、2013年に仙台市と民間が志を一つにして立ち上げたのが、起業家同士の交流を深める応援イベント「SENDAI for Startups!」。

ことしの「SENDAI for Startups!」。のべ750人以上が参加した。
ことしの「SENDAI for Startups!」。のべ750人以上が参加した。

 「起業家のすそ野を広げ、応援する機運を東北全体で醸成する」。そんな思いで始まったイベントでは、投資家や起業家、これから起業を目指す人たちが広く集まり、東北を舞台にこれからどんな事業を始めたいのかプレゼンしています。第1回の参加者は80人程度でしたが、6回目となる今年2月は、3日間の期間中に750人以上の方が参加するビッグイベントに。東京でもプレゼンする場を設け、都内の投資家や起業家と接点を持つチャンスも仕掛けています。

プレゼンを行った起業家たちと。熱いムーブメントが広がっている。
プレゼンを行った起業家たちと。熱いムーブメントが広がっている。

育った起業家が次の起業家を育てるエコシステムで、東北に活力を。

 仙台市では、イベントにとどまらず、より具体的な起業の支援も始まっています。小さくても一歩を踏み出す人を全力でサポートするため、仙台市起業支援センター『アシ☆スタ』を開設。中小企業診断士などの専門家が、起業や経営の相談に応じてくれるほか、地域のさまざまな支援機関とも連携して、セミナーや起業家同士の交流会などを展開しています。

仙台市起業支援センター『アシ☆スタ』では、ていねいに起業をサポート。
仙台市起業支援センター『アシ☆スタ』では、ていねいに起業をサポート。キャプション

その結果、年間1000件以上の相談が寄せられ、毎年100件以上が起業を実現するという、驚くべき実績を挙げています。先輩起業家がメンターとして登録し、経験に基づく経営ノウハウなどの実践的なアドバイスを行う仕組みも設けられています。また、夏から秋にかけて、「せんだい START UP Marche」というマルシェも定期的に開き、起業家の商品を販売できる場づくりも行っています。

「せんだい START UP Marche」では、中心部でチャレンジできる場を提供。
「せんだい START UP Marche」では、中心部でチャレンジできる場を提供。

 そして、さらに力を入れているのが、起業家を集中支援する「アクセラレーションプログラム」。仙台市では、2017年から、ビジネスを通じて社会課題の解決を目指す社会起業家をサポートする「SOCIAL IGNITIONアクセラレーター」と、東北から大きな事業を生み出し地域を支えるベンチャー企業をサポートする「東北アクセラレーター」の、2つのプログラムをスタートしました。サポートの対象は、仙台市の起業家のみならず、東北全体の起業家。今年も仙台や東京にとどまらず、東北6県の10か所で説明会を開催。東北全体から起業の芽を見つけ、育てようと、本格的に動き始めています。今年は7月から募集や説明会が始まるそう。さらに大きな広がりが見れそうです。ビジネスを通じて社会や地域の課題を解決し、企業と社会の利益が両立するようなモデルを東北から生み出していくことを目指しています。

「アクセラレーションプログラム」でも起業家を集中支援している。
「アクセラレーションプログラム」でも起業家を集中支援している。

 自分たちの自治体だけがよければいいという考えではなく、広域的な視点で東北全体にムーブメントを巻き起こす。白川さんたちは、仙台、そして東北から、そのロールモデルとなる起業家を輩出したいと考えています。そして、このプログラムから育った起業家が、今度はレクチャーやメンタリングを行う育成側に回ることにより、東北全体で「起業家が起業家を育てるエコシステム」をしっかりと構築すること。それが、白川さんの夢です。彼の東北に対するまっすぐな思いは、これからも東北の活力につながっていくのではないでしょうか。

 全国には頑張っている素敵な公務員がまだまだいますが、全国の公務員が白川さんのような地域への思いや志を持った時、日本はもっともっと強くなれる。そう確信できた取材でした。「この取り組みって素敵だな」。そんな取り組みがみなさんの街にもあったとしたら、熱い思いを持って動いている公務員がきっといるはず。ぜひ、応援してください!

\首長はみた/
現場の課題に向き合う、挑戦していく公務員に。

仙台市 郡 和子市長

 東日本大震災からの復興の中、多くの人が「ほかの人のために何かをしたい」との思いで事業を立ち上げられました。その姿は、復興の過程で芽生えた、東北・仙台のこれからにとっての希望と感じています。

 白川さんをはじめ、起業支援センター『アシ☆スタ』や創業支援チームの皆さんには、こうした起業家の皆さんをサポートするための仕組みを、ゼロから形づくってもらいました。ここまでの道のりは、試行錯誤とチャレンジの連続だったと思いますが、現場の課題にしっかりと向き合い、前例に囚われずに挑戦する姿勢は、まさに今、求められている職員の姿です。

 東北に支えられて発展してきた仙台市。人口減少をはじめ厳しい状況にある東北各地に、仙台で生まれた起業家が活力を送れるよう、職員には更なる挑戦を期待しています。

記事は雑誌ソトコト2018年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by 脇 雅昭
illustration by Masaki Takahashi

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脇 雅昭

わき・まさあき
1982年生まれ、宮崎県出身。2008年に総務省に入省。神奈川県庁に出向し、現在は観光部長と政策推進担当部長を兼任。 47都道府県の地方自治体職員と国家公務員が集まる「よんなな会」を主宰。「47都道府県の大人たちを仲間に」をコンゼプトに、民間企業の経営層はじめ国、自治体の公務員など「誰かのために何かできる」セクターを超えた仲間づくりを進めている。http://47kai.com

白川 裕也

仙台市職員。11年のキャリアのうち、実に8年間、産業振興に携わる。東北全体の起業家を育てる仕組みを作ろうと、日々奮闘している。1985年生まれ。秋田県大館市出身。趣味は登山と日本酒。