これまでの仕事も場所も、生かし合うことができる。ー 田舎と田舎の二拠点生活8
2019.10.20 UP

これまでの仕事も場所も、生かし合うことができる。ー 田舎と田舎の二拠点生活8

LOCAL

 ふとした「きっかけ」で新しいコトが始まるーーそんなことが人生で時々起きる。ふとした出会いや、旅先にあったもの、誰かとなにげなくやったことなど、特に動いている時に「きっかけ」と出合うことが多い。

海辺のそうめん屋を開く。

 私が二拠点生活を始めて1年余。この1年でいろんなことを企画したものだ。

 例えば、夫が昨年の春に小豆島で「生そうめん」を食べ、感動したことがきっかけで、夏に幡豆の海辺で「そうめん屋」を開いた。「小豆島そうめん」は日本3大そうめんの1つで、島内に約150軒の製麺所がある。小豆島に住んでいるとよくそうめんをもらうので、私が幡豆に行くついでに持って行き、瀬戸内海産のイリコや、小豆島産の醤油、夫が造る甘酒など、双方の土地の食材を使っていろんなつゆを作って食べた。

 食べるたびに「愛知のみんなが食べたら絶対に喜ぶよ」と夫が言い、3種の手作りつゆで楽しむそうめん屋がオープン。夫の友達がたくさん来てくれて、忙しくしつつも笑顔が絶えない時間となった。

2つの拠点のコミュニティがコラボする。

 冬には「醤油仕込みの会」を夫の家で開催。きっかけは、夫や夫の友人がプライベートで仕込んだ醤油を、「醤油ソムリエール」である私が味見したこと。私が述べる感想に夫が興味を持ち、「家庭でもおいしく仕込める醤油」の研究をすることになった。

 私だけでは力不足なので、小豆島にある蔵元や発酵食品研究所に協力をしてもらった。私が日常的に質問して教えてもらうほか、島の醤油屋の麹を使って夫の家で7種のパターンの醤油を仕込み、熟成途中の状態を小豆島の醤油の官能検査員(五感で品質をチェックする人)に味見してもらった。

 そうして開催することになった150組限定のイベントは、アッという間に予定数が埋まり、参加者は熱心に質問を重ねていた。「おいしい醤油」「おいしい醤油を造る蔵元」に興味を持つきっかけになったと思う。

 私たち夫婦には、こんなコラボが、年中発生している。出身地が違う夫婦は星の数ほどいるけれど、出身地よりも今住む土地の人と関係性を持って過ごすことが多いもの。しかし、私には住む場所が2つあり、日々行き来しているうちに、2つのコミュニティが自然と交わり合う。おかげで幡豆にいる間も、私の今までの仕事や小豆島の暮らしを、新たな形で活かすことができている。

 昨今は、いつでも電話やビデオチャットで簡単に世界中の人と交流することができるけれど、実際に人が動いて現場で得る「実感」や「体感」には敵わない。そばにある一つ一つのヒトやコトを大切にし、楽しみながら行き来し続けることが、私たちの夫婦生活を豊かにしていく。そう実感している。

ある日の新米夫婦

「味噌仕込みの会」も夫抜きで行う。
「味噌仕込みの会」も夫抜きで行う。

 夫も私も、仕事の忙しさがピークに達している時、夫がインフルエンザにかかった。夫の仕事をなんとか進めようと、夫の指示の元、私と*ウーファーが探り探り手を動かすことに。当然ながら私の仕事は私がやる。睡眠や食事をおそろかにしても時間が足りなくて心身の疲労がピークに。夫も私も個人事業主で代わりがいない。今後の仕事体制を考える良い機会になった。

※ウーファー:仕事を手伝い、代わりに食事と寝る場所を提供してもらう人

記事は雑誌ソトコト2018年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文 ● 黒島慶子
イラスト ● 宮本貴史

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黒島慶子 

くろしま・けいこ
醤油とオリーブオイルのソムリエ&Webとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳のときから小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、様々な人やコトを結びつけ続ける。2017年7月6日に、愛知県の幡豆で無農薬で大豆と米を育て、米・豆・麦の麹を作る『宮本農園・みやもと糀店』の宮本貴史と結婚。高橋万太郎との共著『醤油本』を出版。