マリケ・アイスコートさんに聞く。未来のためにできること、すべきこと。
2019.10.25 UP

マリケ・アイスコートさんに聞く。未来のためにできること、すべきこと。

DIVERSITY

サスティナブルなグッズを扱うショップなどで見かけることの多い書籍『THIS IS A GOOD GUIDE』。サブタイトルには「for a sustainable lifestyle」の文字が。今回、著者であるマリケ・アイスコートさんにインタビューし、この本に託した思いや日本へのメッセージを聞きました。

サスティナブルを軸に、幅広いジャンルの情報を掲載。

 2018年に刊行された『THIS IS A GOOD GUIDE』。サブタイトルが示すように、本書の中には持続可能なライフスタイルを実現するためのアイデアが多数掲載されている。イントロダクションに始まり、ファッション&アクセサリー、美容、食、暮らし、レジャーなどのジャンルごとに章が分かれ、どうすればよりよい消費行動や暮らしを実現できるかを示す、具体的な事例や、先進的な商品を発表する世界中のブランドの情報までも網羅している。サスティナブルな社会を実現するために行動する著名人のインタビューも豊富に盛り込まれており、例えば国際的なデザイナーであり、エシカルファッションの先駆者でもあるキャサリン・ハムネットさんや、環境問題に意識の高い消費者向けのオンラインマガジン『Eco-Age』ディレクターでもあるリヴィア・ファースさんなどが登場する。読み物としても楽しめる内容だ。

 今回、著者であるマリケ・アイスコートさんのインタビューに指定された場所も本書と関係する。アムステルダム中心部にある、『ZOKU(ゾク)』というスタイリッシュな空間。主にロングステイのツーリストを対象にしたホテルで、エントランスには地元客も利用できるカフェがあり、コワーキングスペースや屋上農園なども。実はここで、マリケさんは本書の大部分を書き上げたという。『ZOKU』のように、サスティナブルやソーシャルへの意識の高いスポットの情報も多く掲載されている 。

本書の中には、サスティナブルをテーマとした、アムステルダムや世界中の注目スポット、ショップの情報も。
本書の中には、サスティナブルをテーマとした、アムステルダムや世界中の注目スポット、ショップの情報も。

ファッション業界での経験が、全ての原点。

 マリケさんはオランダに生まれた。10代のころから、経済的な部分や人権、女性の権利など、自身が与えられた恵まれた環境を理解し、いつかそれを多くの人と共有したいと考えていた。そんな中、世界中のファッション産業の労働環境の向上を目指すNGO『Clean Clothes Campaign』で経験を積んでいった。本書の執筆には、そこでの経験が多分に生かされているという。「NGOでキャリアを重ねていく中で、ファッションの持つ華やかさではない、『そのほかの要素』について、製造の現場で多くを学び、考えさせられました」。

 マリケさんのいう「そのほかの要素」とは、ファッション業界だけでなく、社会全体が抱える格差や、環境への多大なる負荷。本著でも「1つのジーンズやTシャツを作るのに必要な水の量は1万リットル」「毎年8500万本の木が繊維をつくるために切り倒されている」など、課題をキャッチーに見せながら読み進められるよう工夫されているのも一つの特徴である。「サスティナブルって、必ずしもファッションといった一つのカテゴリーだけでなくて、化粧品や食べ物、飛行機に乗るという交通手段など、いろいろな要素が関係してくる。人々から受ける、あらゆる分野の質問に答えるための本が必要だと思って。散らばっていた情報を集めてつくったのがこの本なんです」。

 280ページの本書は情報が満載だが、いかにしてリサーチを行ったのか。

 「17年以上、サスティナブルなファッションとライフスタイルのエキスパートとして活動してきました。バングラデシュやタイ、ブルガリア、トルコなど、世界中の生産現場を飛び回る機会もあり、製品の生産工程や材料などについて学びました。その中で持続可能性や環境保全などを意識したファッションについて学び、実際に、そういう考え方を実践するブランドとショップをマッチングする仕事もしました。本書に掲載しているブランドやショップは、そんなつながりのあるところが多いですね」。単なる情報を掲載するのではなく、自身の経験やつながりを重んじた本づくり。マリケさんの生きた証しのようなものなのかもしれないと思った。

あくまで「グッドガイド」であり、その人なりの行動をすればいい。

 ハードカバーの装丁で、誌面はオールカラー。ファション写真のようなイメージカットがふんだんにちりばめられ、眺めているだけでも楽しいと感じる。そんな本書のデザインにもマリケさんのこだわりがあった。

 「長持ちしてほしかったので、丈夫なハードカバーにしました。再生可能な植物ベースのインクを用い、FSC認証の紙に印刷しています。デザインを気に入ってもらえたなら光栄です。環境的な活動をスタイリッシュに表現することもできるんだ、ということを見せたかった。そしてサスティナブルなライフスタイルは一部のエリートのものでなく、多くの人が取り入れることができるし、必要としているものだと思っています。だから、『世の中をよくするために、なにか行動を起こしたいけれど、どうしたらいいかわからない』という多くの人に読んでもらいたいですね。でも、重要なのは、これは完璧なライフスタイル、とか、完璧でいるための教科書ではなく、あくまでもグッドガイドであるということ。その人のできる限りの、その人のライフスタイル、年齢、経済状況に合った行動をするための『ガイド』であるということです」

『THIS IS A GOOD GUIDE』は現在、オランダ語版と英語版がある。「今後は日本語版もつくれたら……」と期待を寄せるマリケさん。
『THIS IS A GOOD GUIDE』は現在、オランダ語版と英語版がある。「今後は日本語版もつくれたら……」と期待を寄せるマリケさん。

大事なのは「自分で考え、行動すること」。

 本書を読み、実践することで、サスティナブルなライフスタイルを実現することはできるかもしれない。が、マリケさんは、「大事なのは自分で考えてステップを踏むこと」だと続ける。「オランダをはじめ、世界中で言えることなんですが、『成長』という言葉が気になっています。人々がたくさん消費して、生産と消費がどんどん増えていく。『もうこれで十分だ』という話を、どこかで誰かがきちんとしないといけないと思います。最近のコマーシャルや外からの情報は、『もっとよくならなきゃいけない』という、消費を促すものが多い。そして『痩せないといけない』、『もっとシワをなくさなきゃ』とか、ネガティブな情報ばかり。その状況を、それぞれがもっとクリティカルな目線をもって考えて、メッセージや宣伝に対して意識し、誘惑に負けず、自分で考えて行動することが、とても大事なんだと思っています。例えば、魅力的なサングラスをたくさん紹介されても、私は顔が1個しかないからサングラスも1個で大丈夫という風にね(笑)。より多くの人にこの思いが伝わるように、本書以外にもオンラインなどのさまざまな場面で呼びかけています」。

 量より質。社会のルールや雰囲気に対して、疑問と一歩立ち止まる勇気。そして自分の選択をすることで、もっと自由になれるということをマリケさんは教えてくれた。「Act as if what you do makes a difference. It does.」とは、本書の最終ページにあるメッセージだ。一人の振る舞いがきっと社会を変える。それぞれは小さな力だが、大きなインパクトを与える可能性を秘めている。行動しよう、それぞれの選択で。

アムステルダム初心者に、マリケさんがおすすめする6Lists

GOODS編

本文画像

Geitenwollenwinkel

 ファッション、アクセサリー、美容品などを扱うサスティナブルなコンセプトストア。

LENA the fashion library

 エコ・ファッションブランドなどの服をレンタル。使用後の買い取りも行っている。

O My Bag

 エコロジカルでエシカルなバッグや革製小物を販売している。

studio JUX

 ネパールの独自の工場で服を生産するなど、途上国の経済的自立も目指したブランド。

Sukha

 洋服から家具まで、スタイリッシュかつサスティナブルなアイテムが豊富。

Verse

 ビーガンやフェアトレードなどをテーマとした洋服、インテリア、アクセサリーを扱う。

EAT編

本文画像

Beter & Leuk

 ビーガンやグルテンフリー食材を使ったカフェ。朝食から夕食まで、充実のメニューだ。

Gartine

 自社農園を持つオーガニックレストラン。素材としての野菜を生かした料理が印象的。

Instock

 廃棄食材を活用したメニューを提供するレストラン。

Koffie ende Koeck

 ビーガンカフェ。パティシエのつくるパイがおいしい。

Lavinia

 ベジタリアン向けのメニューが充実したカフェ。オーガニックワインも飲める。

Venkel

 地元で採れた有機野菜を使ったサラダが秀逸。ナチュラルな雰囲気の内装も魅力的。

ツーリストとローカルをつなぐ『ZOKU』

本文画像

本文画像

「LOFT」と呼ばれる一部の客室は、ロフトへ続く階段が収納可能であったり、ミニキッチンを完備していたりと、多機能でコンパクトな設計。エントランスにあるカフェスペースは宿泊客以外も利用でき、ここでさまざまな交流が生まれる。
「LOFT」と呼ばれる一部の客室は、ロフトへ続く階段が収納可能であったり、ミニキッチンを完備していたりと、多機能でコンパクトな設計。エントランスにあるカフェスペースは宿泊客以外も利用でき、ここでさまざまな交流が生まれる。

 マリケさんもよく利用するという、ホテルやカフェ、コミュニティスペースなどが一体となった『ZOKU』。コンセプトは家族や民族などを想起させる、日本語の「族」というワード。カフェスペースもリビングルームのようなイメージで、ここでツーリストとローカルの人たちが出会い、新しい地元や家族が増えていってほしい、という思いが込められている。

Information
ZOKU
Weesperstraat 105, 1018 VN, Amsterdam
カフェの営業は8:00〜22:00(曜日によって変動)
各施設によって異なる。
https://livezoku.com

記事は雑誌ソトコト2019年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs & text by Yuki Inui

キーワード

Marieke Eyskoot

マリケ・アイスコート
サスティナブルファッション&ライフスタイルエキスパート
キーノートスピーチやテレビ番組、新聞、雑誌、ブログなど、多くのメディアで活躍。講演家、コンサルタントとしても活動。『Het Parool』紙の「Amsterdam Citizen of the Year」にノミネートされるなど、アムステルダムの社会活動家として注目を集める一人でもある。
www.mariekeeyskoot.nl