コミュニティスペース
2019.11.20 UP

ながれやまlab. ‐まちをみんなでつくる‐ まちの人事部長の“まちのヒト研修”とは

LOCAL

今回は、まちのヒト研修=machimin流のヒトの価値を高めるプロセスを具体例とともに紹介したいと思います。

流山市役所マーケティング課発行の“素敵に暮らす市民を紹介する雑誌『Nstyle』(2019年9月号)の表紙”というコンセプトのメディアに橋本文さんがピックアップされました。橋本さんは、働くママとパパを支えるWebメディア「日経DUAL」への連載や、NPO法人全国こども食堂支援センターむすびえが公募した「こども食堂の漫画化」プロジェクトで最優秀賞受賞&ホームページ上での漫画の連載開始・出版準備に取り組むなど、イラストレーターとして活躍するmachiminスタッフの1人です。

Nstyle

サラリーマンからフリーのイラストレーターに

2児(5歳と2歳)の子育てをしながら、自分の趣味を仕事にしてバリバリ活動する橋本さんですが、実は、たった半年前(2019年2月)にフリーのイラストレーターとして独立したばかりです。それまでの10ヶ月間は前職の会社員とイラストレーターの仕事を兼務し、それ(2018年4月)以前は会社員としてフルタイム勤務しながら、隙間時間に趣味のイラストを描く程度でした。

なぜ、会社員からフリーのイラストレーターになったのか。共働きで都内の会社に勤務していた橋本さんがイラストレーターとしての独立を決意するには、もちろん旦那さんや家族の理解・協力が不可欠ですが、ここでは、そもそも本人がそのような思い切った決断をするに至ったステップを整理したいと思います。

Step.1 ヒトの内にあるものを見つけて、引き出す

2年前、地域活動で偶然知り合った橋本さんのSNSを見て、彼女の趣味が「イラストを描くことらしい」と知った私は、“イラストを使って橋本さんが本当にやりたいことは何か”を探ることにしました。ああしてみないか、こうしてみないか。たくさんの問いを投げることで内なる欲求を確認してみたのです。
 
「まだ伝わっていないまちの歴史を、流山に来たばかりでそれを知らない人にイラストで伝えてみないか、そして新たなつながりや流れを生むことに興味はないか」
 
歴史好きな橋本さんに、この問いがヒット!他の問いと比べて彼女の反応が非常によかったので、鉄は熱いうちにと(笑)私は即日プロジェクト化しました。

Step.2 地域課題や相性の良さそうな人・組織と組み合わせる

まずは、“無料で今すぐ簡単にできること”から始めます。歴史好きのシニアがまちを無料で案内する『流山史跡ガイドの会』に、子連れで参加できるオリジナルツアーを組みたい旨を伝えました。年間1万人程度を案内しているけれど参加者のほとんどがシニアであり、若い人や子どもにもっと地元の歴史を知ってほしいがそれが叶えられていないことを、私は知っていました。その欲求と組み合わせる形で彼らに提示したところ「トライアルとしてみたい」とご快諾いただき、オリジナルツアーで知ったまちの歴史や魅力を橋本さん視点でイラスト化する企画を一緒にたて、個人ではなくプロジェクトとしてのFacebookページを作成し、運営しました。

最初は二人三脚で進めていたプロジェクトも、ある程度フォーマット化することで、その企画・運営を橋本さん個人に委ね、”橋本さんの企画”として彼女のペースで継続してまちと関わる小さな機会を作りました。

青柳さん1

青柳さん

Step.3 本人も無自覚な可能性を認識させ、自信をつける

橋本さんの強みはかわいいイラスト描写に留まらず、〈相手が気持ちのいい状態で話をしながら、内にこもった情報を引き出せるコミュニケーションスキル〉や、〈真面目にもコミカルにもまとめ上げることができ、現実に即してるからこそ多くの共感を集めるライティングスキル〉にあることは、プロジェクトを進めると分かってきました。

まちの魅力を取材し、描いたイラストを定期的にFacebookで投稿し始めると、投稿を見たママ友や地域住民、関係団体、行政職員から橋本さんの活動に対するフィードバックが直接彼女の元に届き始めました。当然イラストだけでなく、取材や文章、観察力、モノの見方・切り取り方に対する反響も大きく、本人も自覚していなかったスキルの存在にじわじわ気づき始めます。加えて、他人からの評価や承認は自信の醸成につながります。

Step.4 趣味から仕事へ-小さなことからコツコツと

趣味が社会性を持ち始めると、多様なつながりが生まれ生活が彩られます。同時に、プロジェクトの実践を通じて兼ねてから橋本さんの頭の片隅にあった「家族の近くや自分の地域で、自分の得意を仕事にすることができたらいい」という願望が現実味を帯びていきます。ただし、いきなり独立する勇気もなく、まずはお試し程度に週1でのイラストレーター(副業)を開始しました。
 
趣味を仕事に変えられるのか。まずはmachiminスタッフ兼イラストレーターとしての名刺を作成し、橋本さんの今後の仕事の獲得につながりそうなmachimin来訪者に名刺を配ることにしました。平日の昼間は会社員として勤務しているため時間が取れない橋本さんに代わって私が名刺を預かり配布することで、会社員からイラストレーターへと仕事をスムーズに移行していけるような体制を考えたのです。

そこで偶然、発刊して約1年の地元の地域密着生活情報誌『なちゅら』の編集長や、立ち上げたばかりの「家族と子育ての多様性を伝える専門家発信のウェブメディア-Kanoko-」の編集長とのつながりができました。名刺を配布しながら、人柄の説明や過去のプロジェクトの実績をお見せし、その出会いが契機となって少しずつイラストの仕事を受注するようになります。

見立て、引き出し、組み合わせ、仕立てることでヒトの価値を高める=machiminの価値が高まる

machiminでは個人のスキルや能力自体を伸ばすことはしません。
趣味や好き・得意なことが地域と結びつくことで、仕事としての需要が生じる。machiminを利用することで、仕事の受注に必要な人との関係性をつくれる。その過程では、本人が想像もしていなかったイラスト以外のスキルに対する周囲の評価も得て、自分の可能性がどんどん広がっていくことを実感する。Step2~4を行き来するなかで、自信をつけながら自分自身で走り抜ける決断をする。こうした未知なる旅の設計を、個人の特性や考え方も踏まえて試行錯誤しながら丁寧に行うのがmachimin流の研修です。

ヒトの価値を高めるためにmachiminを、まちを、人を、その他の資源をどう利活用するのかを考えながら進めることで、個人だけでなくコミュニティとしてのmachiminの成長も促します。個人とコミュニティは“お互いに育み合う関係性”であることに気づき始めました。最近では、ヒトを「育てる」という一方向的な表現は適切ではないと感じ始めています。
(画像は、まだmachiminを始める前の私の妄想を橋本さんがイラスト化してくれた未来図です。)

コミュニティスペース未来図

まちのヒト研修のその後

橋本さんの実力が認めてもらえたら、あとは芋づる式でした。受ける仕事を確実にクリアしてく中で、橋本さんは自分のことを「社会課題・地域課題を身近なことに感じさせ、具体的な行動の一歩を促すきっかけをつくるまんが家」として認識し始めたようです。その射程は流山という地域を越えて広範囲の社会に及び、橋本さん個人としては次のステップに進む準備が整ったように感じられます。

橋本さんにはもうmachiminの研修は不要です。見立てて、引き出して、組み合わせて、仕立てても、結果的に飛び立ってしまうことは当然であり、止めるべきではないと考えています。私やmachiminを介さずとも仕事が舞い込むようになった橋本さんにとって、コミュニティスペースでスタッフをする時間は無駄になりかねません。でもやっぱり二人三脚でやってきた自負があるので巣立ちを寂しいとも感じてしまう…複雑な気持ちで「あなたは書く・描く時間を確保するためにもmachiminスタッフを辞める日が来る、または辞めたほうがいい」と何度か伝えました。しかし、橋本さんはmachiminのボランティアスタッフを続けたいと考えてくれているようです。

クレア
現在進行中の巨大壁画プロジェクトを絵日記で描きためている一部です
クレア
現在進行中の巨大壁画プロジェクトを絵日記で描きためている一部です

大変。また字数の限界をはるかに超えてしまったので、このへんで(笑)

なぜ、スタッフは研修が終わった後も関わり方を適切に変えるだけで離れないのか、溢れんばかりにボランティアスタッフが増え続けていくのはなぜか。次回は、スタッフの生の声を聞いて、machiminに留まる理由を探っていきたいと思います。
 

text●手塚純子
illustration●はしもとあや