デンマークから、知多半島の醸造どころをめぐる旅。
2020.06.08 UP

デンマークから、知多半島の醸造どころをめぐる旅。

LOCAL

愛知・知多半島は、温暖な気候と豊かな海に恵まれ、日本酒や味噌、みりんにお酢など、全国でも指折りの醸造文化が育まれてきたエリアです。
「かもすこと」に興味津々のデンマーク在住の2人が、知多半島の蔵の数々を訪れました!

「食のフォルケホイスコーレ」を立ち上げる。

デンマークの首都・コペンハーゲンから2時間ほど電車に乗ると到着する、ロラン島。
のどかな風景が広がります。

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ロラン等の風景。遠くまで見渡せる。

この国のエネルギーの大半を生み出している風車も点在しています。

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住民がお金を出し合って風車を立てるケースもあるという。

この地で「フォルケホイスコーレ」と呼ばれる学校を立ち上げようとしているのが、今回の主役であるニールセン北村朋子さんとニコライ・フロストさん。
フォルケホイスコーレとはデンマークに約70校存在する全寮制の学校で、対話を重視した教育を実践しています。17歳以上であれば年齢や国籍を問わず誰でも入学でき、また試験や成績などは一切ありません。古くから周りを大国に囲まれ、常に侵略の危機にさらされていたデンマーク。国を強くするためには人の叡智がなによりも大切だと考えた一人のデンマーク人の考えにより、誰もが学び合えるこの仕組みが誕生しました。

ニールセンさんは結婚を機にデンマークへ移住し、ジャーナリストとして活動しています。そのなかでフォルケホイスコーレの理念にふれ、日本人とデンマーク人が相互に学びあえる新たな学校を立ち上げたいと一念発起しました。同じように新たなフォルケホイスコーレを立ち上げたいと考えていたニコライさんと出会い、一緒にプロジェクトを進めることになりました。

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左/ニールセン北村朋子さん、右/ニコライ・フロストさん。

二人が何よりも大事にしたのは、人々が生きるのに欠かせない“食”でした。その土地でとれた食材で料理したものを、家族や友人と語り合いながらおいしく食べること。デンマークでも日本でも地域に根付いた食文化があり、また選択肢が溢れているからこそ、自分たちがよいと思ったものを主体的に選んで食べることが、地域や食文化の持続可能性につながっていくのです。

愛知で醸造文化を学ぶ。

日本ならではの食文化を学びたい。そう思った二人は、2019年秋に愛知県の知多半島を訪れました。知多半島は西を伊勢湾、東を三河湾に囲まれており、温暖な気候と適度なミネラル分を含んだ地下水が流れています。恵まれた自然条件のもとで酒造業が発展し、最盛期の江戸時代後期には約200軒もの酒蔵が存在していました。そこから別の醸造業へと切り替えた蔵もあったのだとか。そして造られた日本酒や調味料は運河を経て江戸に運ばれ、当時の食生活を豊かにしたといわれています。現在も酒・醤油・酢・味噌・みりん・塩など、日本の食文化を支えてきた多くの調味料が生産されている地域です。

まず二人が訪れたのは、常滑市の『澤田酒蔵』。日本酒の品質は米の種類に大きく左右されますが、ここでは全国最高級の酒米や、県内で契約栽培している酒米を原料に使用しています。また地元に流れる、なめらかで優れた品質の湧き水を用いて、土地に根付いた日本酒を製造しています。

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『澤田酒蔵』の澤田副社長が、酒米の特徴を教えてくれた。

製造過程でできる「酒母」がプクプクと発酵する様子に釘付けになる二人。まるで生き物のようです。

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日本酒造りに欠かせない「酒母」。炭酸ガスの泡が弾ける。

続いて訪れたのは、創業140年の歴史をもつ武豊町の『中定商店』。この地域特有の、大豆のみを使用した豆味噌を造り続けています。大豆と麹菌が2年以上にわたって熟成され、旨みが凝縮された味噌ができあがります。また、かつて味噌造りの過程でたまり醤油が生まれたことをきっかけに、現在はそれぞれ専用の木桶を用いて製造しています。

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『中定商店』の中川社長から説明を聞く二人。

大きな木桶が立ち並ぶ光景に息をのむ二人。蔵の中には熟成された味噌の香りと、木の香りが満ちています。この日は特別にたまり醤油の仕込みを体験させてもらいました!

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たまり醤油の仕込み。思いのほか体力を必要とする。

続いては、知多半島の向かいにある碧南市の『日東醸造』。ここでは全国的にも珍しい「白醤油」をつくり続けています。小麦に少量の豆を合わせて仕込んだ「白醤油」は、琥珀色でほんのりした甘さが特徴。素材の色を損なうことなく風味を加えることができるため、料亭などで重宝されているのだそう。

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仕込み用のタンクがずらりと並ぶ。

薄口から濃口までさまざまな種類の醤油を味見し、醤油の違いを学びます。

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『日東醸造』の蜷川社長から、真剣に説明を聞く二人。

豊かな文化。

味噌や醤油だけではありません。実は愛知はみりん事業者数が全国一なのです。碧南市の『角谷文治郎商店』では、 もち米と米麹、本格焼酎のみを使用し、1年以上熟成した本みりんを今も造り続けています。みりんの蔵では、蒸し上がったもち米に種麹をつけていく過程を見学。ダイナミックな作業につい「ほぉ……」とため息が漏れます。

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蒸し上がったもち米を機械へ投入。

『角谷文治郎商店』の本みりんは、ストレートで飲むことができるほどの、甘くコクのある味わいが特徴。異なる種類のみりんの味比べを楽しみます。

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みりんの意外なおいしさに、笑顔がこぼれる。

最後に訪れたのは、半田市の半田運河沿いにある「MIZKAN MUSEUM」。酢で知られる『ミツカン』が運営するミュージアムです。江戸時代に、日本酒造りの工程で生み出される大量の酒粕を有効利用して生まれた 「粕酢」は、江戸前寿司の流行に一役買ったそう。ミュージアムには江戸に物資を運ぶために使われた「弁才船」が実寸大で復元されています。

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復元された「弁才船」の実寸大模型。

館内にはユニークなモニュメントがたくさん。日本の食文化を楽しく学びました!

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鍋の具材が地域によって異なる様子を表した展示。

醸造文化を支えてきた常滑焼。

今回の旅をアテンドしてくれたのは『山源陶苑』の鯉江優次さん。醸造に最適な常滑焼のを、いまも造り続けています。工場の中には焼き物の原材料や素焼き品など、完成品に至るまでのさまざまな素材がずらりと並んでいました。

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鯉江さんみずから、製品をつくり続けている。

平安時代後期から現代まで、実に1,000年の歴史を有する常滑焼。日本の伝統工芸を支える職人技を目の当たりにし、二人とも大喜びでした!

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伝統工芸について語り合う3人。

おまけ・指定有形文化財に泊まりました。

常滑焼をテーマにした観光スポット「やきもの散歩道」 内に位置する常滑市指定有形文化財の建築物「瀧田家」。江戸時代に廻船業で栄えた瀧田一族の屋敷を復元したもので、当時の生活道具や廻船の資料が展示されています。通常は見学のみですが、この日は特別に離れに宿泊させてもらえることに!

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観光名所「やきもの散歩道」 内に位置する「廻船問屋 瀧田家」。

翌日はあいにくの雨でしたが、ニコライは日本の伝統的な家屋に泊まれたことが嬉しかったそう。日本の文化を体感してもらうことができました。

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宿泊した瀧田家の離れの前で記念撮影。

いつか知多半島で、デンマークと愛知をつなぐ“食”のアカデミーを開催することを誓い、今回の旅は終わりを告げました。

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朋子さん、ニコライ、また来てね!

 

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs & text by SOTOKOTO (Mai Inoue)

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