憂国呆談 season 2 volume 113
2019.11.08 UP

憂国呆談 season 2 volume 113

SOCIAL

東京・中央区日本橋人形町にオープンした『日本橋CONNECT』。
仲間と一緒に野菜や肉を焼きながら楽しく食べることができ、食やコミュニティをテーマにしたイベントも随時、開催されている。
田中・浅田両氏も訪ね、鉄板を前にして野菜や肉を調理。
テーブルに着くと、「うまく焼けたかな?」と口に運びながら、消費税や地球温暖化の話題について語り始めた。

今月の憂いゴト
消費税の軽減税率から、
台風15号の対応、
グレタ・トゥンベリさん、
日本の環境政策と
農畜産品の行方まで。

トウモロコシ緊急輸入騒動と日本の農畜産品の行方。

浅田 今日は『日本橋CONNECT』っていう鉄板焼の店に来てる。全国の生産者がつくったこだわりの野菜や肉を、客が自分たちで焼いて食べるって趣向の店。鍋奉行ならぬ"鉄板奉行"が活躍しそうだね。

田中 野菜も肉もおいしかった。他方で「中国が買わなかった飼料用トウモロコシを全量、日本が代わりに買ってくれる」と8月の安倍晋三首相とのビアリッツ・サミットでの会談後の共同会見でドナルド・トランプ大統領が言及すると「害虫対策の観点から緊急に購入する」と首相も呼応し、翌々日の官房長官会見でも「害虫ツマジロクサヨトウの幼虫に食い荒らされる被害が拡大中」と言明した。ところが数日後に日本経済新聞が「前倒し輸入に飼料業界困惑、乏しいアメリカ産の需要。トウモロコシは輸入品と国産品で用途が違う。日米首脳はさらりと言及したが、今後大きな火種になる可能性」と報じて、どちらが本当なんだと(苦笑)。僕も初めて知ったのだけど、配合飼料に使うトウモロコシは炭水化物や蛋白質が多い「濃厚飼料」と、繊維質が多い「粗飼料」に分かれていて、今回の被害は後者の粗飼料の中でも国内畜産農家が自家栽培して実や葉、茎ごと刈り取ってサイロで発酵させる「青刈りトウモロコシ」。アメリカとブラジルから輸入しているのは前者の濃厚飼料。ほかの媒体が説得力のある疑問視報道をしなかった鈍感力にも驚いたけど、遅まきながら10月に開会した国会で「約束や合意をした事実はない」と首相や大臣が火消し答弁する羽目に陥った。

浅田 トウモロコシ農家にいい顔をしたいトランプに擦り寄っただけ。なのに、日本の求めた自動車関税撤廃については、当面追加関税を課さないって曖昧な約束しか得られなかった。

田中 しかも日本の記者クラブは「関税撤廃は事実上の先送り」と冷厳な事実を伝えず、自動車と自動車部品の「さらなる交渉による関税撤廃と明記」と「ポジティヴ」に伝えるヘタレ振り。

 38.5パーセントの牛肉の関税は段階的に9.0パーセントへ。豚肉も低価格品は1キロあたり482円が50円へ。すでに4.3パーセントと低関税な高価格品はゼロ円に。牛丼チェーンは大喜びだけど、我々の友人の福岡伸一と『ソトコト』が情報発信し続けてきたロハス発祥の地・コロラド州ボールダーでお目にかかる牛肉が安価で入ってくるわけではないからね。日本産牛肉に3000トンの無税枠が設けられて和牛の輸出に弾みが付くと報じているけど、泣く子も黙るアメリカ合衆国通商代表部USTRによれば、現在、日本は年間141億ドルの農畜産品を米国から輸入していて、すでに52億ドル分は関税がゼロ。果物も含めて今回の合意で72億ドル分が新たに関税撤廃や関税引き下げの対象になる。ってことはわずか全体の12パーセントの17億ドル分だけが「聖域」という惨状。声高にオスプレイやイージスアショアでの「安全保障」を語る皆さんに食料自給率という「安全保障」のご見解を聞きたいね。

軽減税率、キャッシュレス決済、ポイント還元のドタバタ劇。

浅田 それはさておき、10月1日から消費税率が10パーセントに上がった。消費税の長所は単純明快であることなのに、軽減税率だの、電子マネー普及を目指すポイント還元だの、いろいろ盛り込んだためやたらと複雑なものに。それに対応するレジスターの生産が追いつかず、混乱もあったみたいだね。

田中 資金力のある一部のファストフードチェーンはテイクアウトもイートインも同じ価格で提供するほうが、人手不足の現場にも消費者にもハッピーだと判断したけど、行きつけの街場のピザ店の経営者が悩んだ末に持ち帰りを止めて店内飲食だけに絞ったと『日経ビジネス』で記者が書いていた。税制の基本の「簡素で公正で理にった=シンプル・フェア・ロジカル」にあえて挑戦状を叩きつけたのが、財務官僚ならぬ経産官僚が主導した「軽減税率・キャッシュレス決済・ポイント還元」という三羽ガラスならぬ"三バカ制度"。来年6月の制度終了後のリバウンドも考えられない"情弱"(情報弱者)なオツムだから、10月1日のスタート時点で『アマゾン』や『楽天』での販売業者や5万5000軒のコンビニも含めて50万軒が参加と経済産業省は胸を張ってるけど痛すぎるでしょ。少なく見積もっても中小業者は全国に約200万軒。4分の3の小売店・飲食店は「自己責任」で店仕舞いしろと宣告してるのと一緒。霞が関と永田町の想像力のなさと鈍感力のすごさに脱帽する(苦笑)。

浅田 財務省が原則を貫けばいいのに、経産省が浅薄な思いつきを持ち込むからねえ。

田中 中国のスマートフォン決済は年間約2700兆円。これは全世界のクレジットカード決済とほぼ同規模。それに対して日本のスマートフォン決済は昨年たったの1.1兆円ほどだ。政府が発行する紙幣を信用していない国と信用している国の違いだ、と"情弱"な日本の意識高い系は反論しそうだけど、ネット決済のビッグデータを政府や金融機関が把握する点では日本も中国も米国も同じ。洋の東西を問わず、政府という権力は管理するのが仕事だから、その管理をいかに民主化させるかってことが香港の運動にもつながるのであって、それすら分からないのが痛すぎる。

浅田 中国は固定電話が十分普及してなかったぶん、携帯電話やスマートフォンが急速に普及し、アリペイや WeChat Payもスムーズに導入できた。

田中 中国は『アリババ』と『テンセント』の2社。日本は自社に顧客データを囲い込もうと鉄道会社、コンビニ、ネット企業とアプリがわんさか乱立。この点こそ経産省が携帯電話会社と同じように3社ぐらいに絞る行政指導をすべきなんだよ。そのうちに決済アプリがいくつも入っているスマホが悲鳴を上げて、ストライキするぞ。

浅田 『セブン-イレブン』の7Payなんて、初歩的な脆弱性に気づかず、すぐ挫折する始末。

田中 中国の露天商が首からQRコードを印刷した紙をぶら下げてキャッシュレス化しているのを日本でも『楽天』がやろうとしたら横槍が入った。普通の商店はそれでOKなわけよ。なんで税金を投入して"パパママ・ストア"にも端末を導入しなきゃいけない。これも新手のハコモノ行政だぜ。しかも来年6月にポイント還元が終了したら、消費需要が冷え込みなんて言い出すんでしょ。"朝三暮四"と"朝四暮三"みたいな「サル山の世界」になりつつある。

16歳の少女が訴える環境問題と台風直撃ニッポンのお寒い森林行政。

浅田 9月11日に安倍内閣が改造された。小泉ジュニアの進次郎が環境相になったことが唯一の目玉みたいに言われてるけど。

田中 「毎日でもステーキを食べたい」と広言する彼は、国連気候行動サミット出席でニューヨークに到着するやステーキ店に出かけて物議を醸した。日本から進出した『いきなり!ステーキ』はニューヨーカーに受け入れられずに撤退したのにね。牛のゲップには温室効果ガスのメタンが多く含まれているので地球温暖化の原因の一つに挙げられていると突っ込まれたら、「僕がニュースになるのも環境問題を考えるいいきっかけになったと思う」と述べた後に、「みんなにバレないようにステーキ食べているほうが嘘臭くないですか?」とポエムな逆質問を同行記者にしたらしい。日本以外の記者も参加した会見で、「石炭は温暖化の大きな原因だが、日本は脱石炭火力発電に向けてどうするのか?」と質問されて「減らす……」と紋切り型に答えると「どうやって?」と聞かれ直して6秒間、沈黙した後に「私は大臣に先週なったばかり。同僚や環境省のスタッフと話し合っていきます」と。思わず岡本昭彦吉本興業社長の「社内のみんなに後で聞いときます」発言の既視感だった。5時間29分もギネス記録挑戦の会見を7月22日に開いた際〈10月2日に開いた2回目の社長・会長会見で関西電力が6時間3分と記録を更新(笑)〉、禅問答にもならぬ要領の悪い返答にシビレを切らした記者が最後に「岡本さんが社長でなければできないことって何ですか?」と放った一件(苦笑)。進次郎は父親の手前、原発再稼働で凌ぎますとは言えなかったかわいそうな立場だと同情する向きもいるけど、稼働ゼロで脱原発に突き進むドイツやイタリアだけでなく原発大国のフランスも段階的削減を宣言し、ベルギーに至っては2016年に火力発電ゼロを達成しているのだからなぜ、具体的な方策を言えなかったのかなあ。

浅田 滝川クリステルとの婚約を首相官邸で発表したのもどうかと思ったけど。

田中 菅義偉官房長官と会った後に、では、首相にも会っておきますかの流れに。安倍首相がおになったのも無理はない。二階俊博幹事長に至っては、党の厚生労働部会長として挨拶に来るのかと幹事長室で夕方まで待っていたのに、当の本人は官邸から横須賀へ妻と行ってしまったと。10月12日に関東圏を直撃した台風19号ハギビスに関しては、河川局改め国土交通省水管理・国土保全局の本末転倒な治水行政の問題を次号で詳しく話し合うとして、まずは9月9日早朝に甚大な被害を千葉県に与えた台風15号ファクサイに触れておかないと。

浅田 鉄道と高速道路が止まったので成田空港が孤立、大勢の旅客が床に寝た。去年9月に台風21号に襲われて孤島となった関西国際空港の例を学習して、成田を陸の孤島にしない対策を考えとくべきだった──と思ってたら、19号では早々と旅客便の受け入れを停止。混乱するよりはいいだろうけど、これじゃ人工島と同じ。

 ともあれ、関西が去年21号で思い知った大型台風の怖さを、関東も今年の15号と19号で思い知ることになった。温暖化の進んだ地球ってのはこんなものか、と。

田中 驚いたのは、千歳をはじめとするほかの空港への代替着陸を国土交通省が求めていたのに、肝心の『NAA・成田国際空港株式会社』が対応せず、着陸機から降り立った乗客で大混乱に陥ったこと。社長は元・航空局長から観光庁長官を経て天下った国土交通省出身者。しかも日本政府が100パーセント株式を保有する特殊会社だよ。ところがここでも"情弱"な意識高い系が幾人も、民間会社の判断だから一概に責められないとSNSに書き込んでいてのけぞりそうになった。

 台風一過の9日朝には、それでも出勤せねばと総武線の津田沼駅をはじめとして長蛇の列ができて、南房総では大停電が発生していたのに、森田健作知事が自衛隊に災害派遣要請したのは丸1日経った10日になってから。その昔にドラマ「おれは男だ!」で名前を売った彼が、ウルトラマンかスーパーマンみたいに自分一人で大活躍しようと空回りしていたのかと思ったら、当日は県庁に登庁せずじまいだったと発覚して、日頃は県政に無関心な県民も呆れ返っているんじゃないかな。

 その最中に組閣を強行した安倍内閣と1999年10月1日の内閣改造を延期した小渕恵三内閣との違いを指摘する声が上がった。改造前日に茨城県・東海村の住友金属鉱山の子会社『ジェー・シー・オー』の核燃料加工施設で発生した死者2名・重傷1名・被曝667名の「東海村JCO臨界事故」への対応を優先するべきと当時の野中広務官房長官が延期を進言し、小渕首相も周囲に「後から振り返ってやり過ぎだったと言われるほどの対策を取る。それでいい」と述べ、第2次小渕内閣は10月5日に発足した。災害対策本部も関係閣僚会議も設置・開催されなかった台風15号の対応とは対照的だ。

 千葉の災害に絡めて言うと、9月19日に、東京電力の旧・経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された裁判で、東京地裁は無罪判決を言い渡した。判決文もトンデモな内容で、じゃあ、予期できなかったら鉄道事故でも、航空事故でも何が起きてもいいのかってことになる。

浅田 いや、これまでの津波評価が楽観的過ぎたって報告を受けながら、土木学会の津波評価部会に判断を仰ぐと称して、電力会社関係者が大勢いて第三者機関とは言いがたい学会を、先延ばしの時間稼ぎに使った。予期できなかったなんて言わせないよ。

田中 日産自動車もそうだけど、第三者機関だの社外取締役会というものが何ら機能していないということ。国会を閉じ続けたボリス・ジョンソンに対して違法だと最高裁判所判事全員が判断した英国も、トランプのウクライナ疑惑をホワイトハウス内部からホイッスルブロワーした米国も、文在寅が選任した法務大臣への追及を止めずに辞任に追い込んだ韓国も、腐っても三権分立が機能している。国民もメディアも「眠度」の高い日本とは大違いだ。

 話を戻すと、戦後日本の国策の誤りが台風15号の被害を拡大させた側面が大きい。というのは、千葉県山武市に植えられている山武スギは、戦後造林のスギ。その昔はクロマツもアカマツもヒノキもあるという江戸時代からの針広混交林だったのを、目先の利益のために保水力が弱い針葉樹のスギにした。でも、売れないから間伐も手入れも怠り続けて根腐れならぬ幹の中の溝腐れが生じていたスギが、台風15号で倒れて電線に引っかかった。山林の所有者がすぐには分からないし、関電工に代表される現場の電気工事会社には伐採や搬出の技術も経験もないから木を動かせない。

浅田 去年、関西でも似たようなことがあった。

田中 あまりに幾度も警鐘を鳴らし続けて、自分が自己嫌悪に陥りそうだけど、日本の国土の森林率は68.2パーセント。73.9パーセントのフィンランドに次ぐ世界第2位なんだよ。スウェーデンが66.9パーセント、ブラジルが57.2パーセント。国土自体が広いとも言えるけど、森林国のイメージが強いカナダでも33.6パーセント。ところが2018年度(平成31年度)の国土交通省の予算が7兆3241億円に対して農林水産省全体で3兆316億円。外局の林野庁は4661億円で、その92パーセントはコンクリートや鋼鉄で小さな沢に打ち込む谷止め工や山肌を削り取る大規模林道の公共事業。間伐や植樹は林野庁予算の8パーセントに過ぎないんだよ。ってことは、林野庁予算は国交省予算の16分の1で、森林整備予算の195倍が国交省の公共事業予算であると。

 経費の3分の2が人件費の間伐こそは疲弊した地域に雇用をもたらすのに、人徳のない僕が言い続けているせいか、皆さま馬耳東風。イヤハヤだぜ。

浅田 あまりに無責任な大人たちに怒ったスウェーデンのグレタ・トゥンベリって16歳の少女が、飛行機ほど二酸化炭素を出さない船で大西洋を渡り、国連本部で大人たちを糾弾した。大人たちの無為無策ゆえに温暖化の進む地球で生きていくのは子どもたちなんだ、と。環境問題は世代間闘争だってことを明示したわけね。彼女は1年ほど前から学校を休み、ストックホルムの議会前に座り込んで気候変動ストライキを始めたんだけど、それが世界中に広がった。騒いでないのは、いわゆる先進国では日本の若者ぐらいじゃない?

田中 「あなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり」と看破した彼女は大したもんだよ。ここでも意識高い系な皆さんは、大人の活動家が彼女を操っている、飛行機を使わずにスウェーデンへ戻るよな、単に学校嫌いな自閉症スペクトラム少女だろう、活動費の出所はどこだ、とみたいなディスりを続けているけど、だったら、うら若き乙女を操っている「秋元康商法」はどうなんだよ。彼女の印象を尋ねられて「野球しかやってこなかった僕からするとすごいですよね。本当に授業は休むものだと思ってましたからね。授業が終わってから本番だと思って野球ばかりやってましたから」と環境大臣就任会見で意味不明の発言をしたポエマーだって、そのほかの各国の首脳だって、自腹でなく税金で国連本部へ来たんでしょ、と言いたいね。

記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

キーワード

田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。