宗教との「差不多」な、いい関係。ー 田中佑典の現在、アジア微住中vol.7
2019.11.10 UP

宗教との「差不多」な、いい関係。ー 田中佑典の現在、アジア微住中vol.7

LOCAL

アジア最大級の宗教パレードに参加する。

 大甲、台湾の中部・台中県大甲。このエリアを中心とした「大甲媽祖巡行(遶境)」に参加するのが今回の微住の目的だ。

 台湾の宗教は主に道教と、キリスト教、仏教が占めており、そのなかでも道教の割合が一番多い。道教の神様「媽祖」は、もともと航海・漁業を守る女神で、今でも台湾では最も親しまれている。媽祖を祀るお寺は台湾中に2000以上あり、大甲にある『鎮瀾宮』はその総本山の一つ。媽祖の誕生日である旧暦の3月23日に合わせ、このお寺を始点に中部地方の媽祖寺を9日間かけて巡るパレードには約100万人が参加するといわれ、世界的にも最大規模の宗教の祭典である。

進香」するとは何か?

 1日目の夜10時、大甲の「鎮瀾宮」をスタート。巡礼者はそれぞれ立派な龍の刺繍が入った旗(300元)を購入し、各寺を「進香」する。

 各寺では、まずスタッフのおばちゃんを探し、旗にスタンプを押してもらう。そして各寺ごとに違うお経が書いてある黄色い紙を旗の先端につける。そしてその旗を香炉で3度回して煙をつけ、旗を両手で広げて媽祖に参拝する。これを各寺で繰り返して巡礼していく。なんとも、日本の「御朱印帳」に近い。巡礼していくにつれ、どんどん旗の先端のお経の紙の束が大きくなる。

名前、住所、そして願い事を言うのが基本(媽祖さん、日本語わかるかな?)。
名前、住所、そして願い事を言うのが基本(媽祖さん、日本語わかるかな?)。

 進香は徒歩だけではなく、ギラギラに電飾を施した車で、媽祖に関係する曲や、そのリミックスなど好きな音楽をかけながらパレードに参加する団体もいる。日本でも田舎の祭りには不良がつきものだが、台湾のヤンキーたちも自慢の愛車を媽祖への感謝を込めたデザインに改造し、爆音を立てて盛り上げ、爆竹が鳴り、媽祖が通った街ではドッカンドッカン花火が打ち上げられ、みんな思い思いに媽祖をお祝いする。

「黒軍 無差別車体」……。各車オリジナルのデザインで何十台も横並び。祭りを盛り上げる。
「黒軍 無差別車体」……。各車オリジナルのデザインで何十台も横並び。祭りを盛り上げる。

 さらにうれしいことに各商店、店前で食べ物や飲み物を無料で配布していて、なかにはお弁当やもある。すべて媽祖への感謝を込め、進香者へ提供するのだ。お寺でも素食(ベジタブル料理)やお菓子、豆乳などが提供され、次のお寺では何が食べられるかなーっと、楽しみにもなった。

 お寺では一部の部屋が無料提供され、そこで雑魚寝した。一般の民家も開放され、泊まらせてくれたりもするそうだ。

 2日目。バキバキの身体に30度近い気温。台中県から彰化県に入り、炎天下、体の水分が奪われるなか、フルーツの産地でフルーツ食べ放題は至福の時間だった。日本ではあまり馴染みのない「水果玉米(フルーツコーン)」という甘いとうもろこしはおかわりをしてしまったほどだ。そして毎年進化するこのお祭では、無料アプリまでつくられ、現在の媽祖の位置や、各寺の場所や、そのお寺には寝床やシャワーがあるかどうかなどもわかるようになっている。

至福のフルーツタイム。この地区ではアイスやフルーツジュースもいただく。媽祖さんに感謝。
至福のフルーツタイム。この地区ではアイスやフルーツジュースもいただく。媽祖さんに感謝。

 ほかにも、いろいろな企業が媽祖とコラボして商品を販売したりと、伝統的な宗教とテクノロジー、商売を臨機応変に組み合わせる。なんとも”台湾”らしい。

宗教も「差不多」で。

 自分のなかでは「宗教」と聞くと厳格なイメージで、参拝などもきちんと決まりに則って行わないといけないと思っていたけど、この巡礼で考え直した。

 まずこの巡礼パレードは9日間開催されるが、9日間、全行程を巡礼しないとダメだとか、徒歩じゃないとダメだとかのルールはない。自分のスタイル、気持ちで参加すればよい。途中で抜けて、観光して、また戻ってきてもよい。

 食事の提供をはじめ、信仰している同士の絆、助け合いでこの巡礼は成り立っている。どの人も笑顔で「もっと食べて! 飲んで!」と振る舞ってくれて、みんな遠慮せずあやかる。

 台湾人の口癖の一つに「差不多啦」(だいたいで!)があるが、それは悪い意味ではなく、お互い完璧じゃないからこそ補い合い、結び合うというものだ。それってすごく人間らしい。

 日本でもお遍路文化があるが、道教だろうと仏教だろうと同じ。宗教とも、そして人や街との関係も「差不多」な関係でいること。それこそ媽祖と台湾人のように関係が長続きする秘訣ではないだろうか。

記事は雑誌ソトコト2019年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中佑典

たなか・ゆうすけ
1986年生まれ。福井市出身。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは一つの場所で2週間以上滞在してみること。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。