60年代と永井宏さんのこと。『マーキュリー・シティ』
2019.11.13 UP

60年代と永井宏さんのこと。『マーキュリー・シティ』

DIVERSITY

 1960年代に思春期を過ごした永井宏さんが1988年に出版した『マーキュリー・シティ』は60年代の空気や文化を振り返りながら、1980年代後半の日本を、東京を語ろうとしている。美術作家として活動しながらさまざまなところで文章を書き、小さなギャラリーを運営し、出版レーベルを作った永井さんは「誰にでも表現することができる」という考え方を世の中に推し進めた人だ。鎌倉にある名物カフェ『カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ』店主の堀内隆志さんや料理家の根本きこさん、2000年代に次々と現れた「暮らし系」のメディアなど永井さんに直接、間接の影響を受けた人たちは少なくない。今年、ひょっこり復刊されたこの本が今も瑞々しさを失わないのは、消費文化や物質主義社会への反動として起こった60年代のカウンターカルチャーのなかで生まれた音楽や文学、アートを紹介しながらあの時代の精神性のようなものを、後の世代につなげていこうとする永井さんの強い意志を感じるからだろう。60年代に芽吹き、今も灯台のように我々の眼前を照らし続けるもの。この本もそうした一冊なのだと思う。

『マーキュリー・シティ』
著者:永井 宏
出版社:mille books

記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by Daisuke Hayasaka

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早坂 大輔

はやさか・だいすけ
岩手県盛岡市の小さな本屋『BOOKNERD』の店主。書店経営のかたわら、出版も手掛ける。くどうれいん著『わたしを空腹にしないほうがいい』 (7刷目)引き続き好評発売中。