これからの農業と地域のあり方を語る。農業の未来を担うのは、「アグリローカルヒーロー」だ!
2019.11.14 UP

これからの農業と地域のあり方を語る。農業の未来を担うのは、「アグリローカルヒーロー」だ!

WORK

新たな世代が継承する時期を迎えている日本の農業界。
若い新規就農者の挑戦によって、農業と地域のあり方も変わりつつあります。
その変化を加速させるために必要なのは何か? そして、誰か?
法政大学教授の図司直也さんと弊誌編集長・指出が語り合いました!

「手前」の若者を担い手に。

指出一正(以下、指出) 高齢化と後継者不足が叫ばれて久しい農業。現況はいかがでしょう?

図司直也教授(以下、図司) 農家の担い手として最も多かったのが昭和1ケタ世代。90歳近くになっているため、農業人口が急減しています。一方で、非農家出身ながら農村に飛び込み、農業に挑戦する若者も増えています。

指出 農業も事業承継を考えなければいけない時期を迎えたと?

図司 そうですね。代々受け継いだ農地を血縁のない者に譲ることに抵抗を感じる農家は多く、長男に継がせる傾向は根強く残っていますが、徐々にバトンのつなぎ方は変わってきて、それが「農業の質的変化」を生んでいます。

図司さんの近著『就村からなりわい就農へ』(JCA研究ブックレット)
図司さんの近著『就村からなりわい就農へ』(JCA研究ブックレット)

指出 法人化して地域の農業を持続させようという動きも見られます。そこに移住者がコミットしたり。

図司 農業法人で新規就農する若者も増えてきましたが、なかにはサラリーマン的に就職したものの、農業の特徴をよく理解しないままに、仕事に愛着を持てずに辞めるケースも少なくありません。農業は技術や経験が大事ですから、人材育成も重要です。

指出 都会の若者に農業を知るきっかけや場を提供することも必要ですね。

図司 はい。就農の窓口として『全国新規就農相談センター』がありますが、相談件数は横バイ状態です。一方、NPO『ふるさと回帰支援センター』への移住相談件数は急増しています。このギャップが生まれる理由は、全国新規就農相談センターには「農業をする」と決めてから訪れる人がほとんどだから。でも実は、その「手前」にいる若者も多いと思います。例えば、農業とは別の目的で農村に入った地域おこし協力隊隊員が、そこで生活するうちに、近所のおばさんから庭の畑で採れた野菜をお裾分けしてもらったり、耕作放棄地の問題を知ったりして、「おじいさんの田植えを手伝おうかな」という気持ちになり、農業に関わり始める。そんなふうに、地域に入ってから農業に関心を持つ隊員も多いのです。それを「就村から就農へ」と呼んで研究していますが、農業に関心を持つ「手前」の若者を農業の担い手、さらには農村の担い手に育てることで、少しずつギャップは埋められると考えています。

農業や地域関連の本にあふれる、法政大学多摩キャンパスの図司さんの研究室。
農業や地域関連の本にあふれる、法政大学多摩キャンパスの図司さんの研究室。

カッコいい農業のために。

指出 先ほど、「農業の質的変化」とおっしゃいましたが、具体的にはどういうことでしょうか?

図司 例えば、都会から来た若者は、地域で当たり前に栽培されている作物だけでなく、都会で売れそうな作物をつくり、インターネットや自分のネットワークで直販するなど、農業のかたちや集落の雰囲気を変える力を持っています。それも質的変化です。

指出 地域のことを思いながら、やりたい農業に挑戦し、質的変化を起こしている若者たちを「アグリローカルヒーロー」と呼んでいます。戦隊ものではありませんよ(笑)。10年ほど前から、都会で活躍するクリエイターが「農業はカッコいい」と発信するようになり、農業のイメージに変化を起こしました。こだわりを持って食べ物を生産する同世代の若者に、同じクリエイターとして共感を覚えたのでしょう。

図司 「農業はカッコいい」というトレンドが続くためにも、地域側にはアグリローカルヒーローを受け止める土壌づくりが必要です。安定した稼ぎを得られる作物から始め、技術的にも経営的にも自走できるようになったら、自分のやりたい作物に挑戦する。そんな新規就農者の独り立ちを、行政とJAがバックアップする地域も増えています。専業か兼業かだけでなく、稼ぎ方ももっと複合的であっていいかも。

指出 農業は地域を知る仕事でもあります。地域のよさを引き継ぐような複業を持ちながら、楽しくて稼げる未来の日本の農業に挑戦してほしいですね。

本文ん画像

記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

キーワード

指出一正

さしで・かずまさ
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。島根県「しまコトアカデミー」、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」、奈良県「奥大和アカデミー」、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」、高知県津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」など、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」、「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

図司 直也

ずし・なおや
1975年愛媛県生まれ。法政大学現代福祉学部教授。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科博士課程単位取得退学。農学博士。著書に、『内発的農村発展論』(共著/農林統計出版)など。