AI×農業で、新たな未来を切り開く。農業に革命を起こす『inaho』の挑戦。
2019.11.20 UP

AI×農業で、新たな未来を切り開く。農業に革命を起こす『inaho』の挑戦。

WORK

汚い、きつい、稼げない──。
そんな農業のイメージを根底から覆す『inaho』。
人工知能(AI)を搭載した「自動野菜収穫ロボット」を製作し、収穫作業の飛躍的な効率化を実現しようとしています。
彼らが思い描く農業のこれからとは?

農業にイノベーションを起こす自動野菜収穫ロボット。

 神奈川県鎌倉市の古民家に本社を構える『inaho』。市街地の喧騒から離れたこの場所で、農業の未来を変える挑戦が行われている。


 人工知能(AI)を搭載したロボットが自走し、画像認識技術を利用して野菜の成長具合を判別し、ロボットアームを用いて収穫するのだ。また収集したデータをフィードバックし、例えば病害虫の発生条件を特定することで、農作物の病気を未然に防ぐための策を講じることが可能になるという。

 現在『inaho』は「自動野菜収穫ロボット」を9台保有し、2019年9月に満を持して実用化に踏み切った。この画期的なロボットは、いったいどのようにして生まれたのか。

『inaho』のオフィスにある農場を走る「自動野菜収穫ロボット」。
『inaho』のオフィスにある農場を走る「自動野菜収穫ロボット」。

ゼロからのスタート。動くことで見えてきた課題。

 「AIやロボットのことなんて、何も知りませんでした」と、『inaho』代表取締役CEOの菱木豊さんは笑う。それもそのはず、これまでの菱木さんのキャリアからは、AIやロボットはおろか、農業との接点すら見出すことができない。不動産コンサルタント会社からキャリアをスタートし、独立し不動産系webサービス事業の立ち上げを経て、2017年に『inaho』を設立したのだ。

「農業は成長産業です」と語る、『inaho』代表取締役CEO・菱木豊さん。
「農業は成長産業です」と語る、『inaho』代表取締役CEO・菱木豊さん。

 菱木さんがAI×農業の領域に踏み出したきっかけは、知人が主宰する勉強会だった。「事務局として勉強会に関わるうちにAIのポテンシャルを知り、世の中を変える力があると感じました。たまたまAIを使ってレタスを間引く技術がアメリカで開発されていることを知り、近所の農家さんに話してみたら、『レタスよりもうちの雑草を間引いてよ』と言われたんです。このとき、AIを使った草取りロボットを思いつきました」と振り返る。

 そこから挑戦が始まった。AIやロボット技術の専門家から意見を聞き、自らの構想が実現可能であるという確信を得た菱木さんは、次に資金集めに奔走した。しかし投資家の反応はしくなかった。「構想はあったものの、物がないので紙で説明するしかない。当然ですが冷たい反応ばかりでした」。そんなとき、菱木さんを救ったのはかつての不動産コンサルタント時代の客だった。「お前はいつかそういうことを言ってくると思ってたよ」と、創業資金を投資してくれたのだ。

鎌倉市にある本社オフィス。緑あふれる環境の中で、日夜議論を行っている。
鎌倉市にある本社オフィス。緑あふれる環境の中で、日夜議論を行っている。

 そんな信頼を糧に、菱木さんは徹底的に農家の声を集めた。「とにかく全国の農家さんのところへ行って、話をしました。何か困っていることがないか聞いたり、ビジネスの構想を聞いてもらったりしていましたね」。その過程で、農家の作業全体の約60パーセントを収穫作業が占めていることを知り、「草取りロボット」から現在の「自動野菜収穫ロボット」へ路線を変更した。

 『inaho』のロボットは販売ではなく貸し出す方式を採用している。ロボットによる収穫量に応じて利用料を得る従量課金制のため、初期費用ゼロでの利用が可能だ。このビジネスモデルも、農家との会話の中からヒントを得たのだという。

 「最初はロボットを販売することを想定していましたが、農家さんと話をするうちに考えが変わりました。数百万円もするものは買えないという反応が多かった。値段の高さもあるんですが、現役の70歳の方から『あと何年やるか分からないしな』と言われたんです。なるべく多くの人に使ってもらうことを考えた結果、販売ではなく貸し出すモデルになりました」

左/初号機のロボットアーム。市販の部品を組み合わせている。右/部品の調達から製作まで自社で行い、コストを抑えている。
左/初号機のロボットアーム。市販の部品を組み合わせている。右/部品の調達から製作まで自社で行い、コストを抑えている。

 ロボットの性能も飛躍的に向上している。アスパラガス1本当たりの収穫にかかる時間は、30秒から12秒に短縮された。たくさんの作物の生産が可能になった現代農業が抱える「収穫しきれないため廃棄せざるを得ない」という問題も、『inaho』のロボットが解決していくかもしれないのだ。

稼げる産業にするための、農業のオープンソース化。

 「自動野菜収穫ロボット」が切り拓く農業の未来はどのようなものなのだろうか。

 「いつも『所得1000万円を目指しましょう』と農家の方々に言っています。そして、それは絶対に可能なんです」と菱木さんは力強く語る。「農家のみなさんにアンケートを取ると、多くの方が農地を広げたいと答えるんです。しかし人手が足りない。収穫をロボットに任せることができれば、農地拡大はもちろん販路開拓に時間を使ったり、たくさん寝たり本を読んだりしてもいい。負担を減らしながら、稼げるようにするお手伝いがしたいですね」。

 また、引退する農家は土地の問題に直面する。農地法により簡単に売却できず、放置すれば害虫が発生し近隣農家に迷惑をかけてしまう。だからこそ、彼らはなんとかしてほかの人に農地を活用してもらいたいのだ。そこにチャンスがあると菱木さんは語る。「会社員から農家に転身した知人は、引退した方から年間20万円で土地と設備を借り、約800万円の所得を得ています。今後このような事例は増えてくると思います」。

出典:2017年農業構造動態調査(農林水産省統計部)
出典:2017年農業構造動態調査(農林水産省統計部)

 菱木さんは農業のポテンシャルを語ってくれた。「農業というマーケットは、今後10年間で既存のプレイヤーが半分になることが分かっています。そんなマーケットなかなかないですよね。だからこそ、たくさんの勝機があると思っています。有機農法で付加価値をつけることや、量を生産することで利益を上げる。選択肢はさまざまですが、産業構造的に大きなチャンスがあるんです」。

 さらに、菱木さんは「農業のオープンソース化」を目指しているという。オープンソース化とは、知を広く共有財産化し、よりよい形にアップデートするための仕組みである。来年にも『inaho』は海外進出を見据えており、国境を越えて農業をつなごうとしているのだ。

2019年1月に佐賀県鹿島市に新オフィスを開設。行政からの支援を受け、事業を加速させる。
2019年1月に佐賀県鹿島市に新オフィスを開設。行政からの支援を受け、事業を加速させる。

 「農業って今まで閉鎖的な部分があったように思うんです。でも、徐々に変わり始めている。これからは、ロボットが集めたたくさんのデータから得られた学びをシェアする場を設けたり、日本と海外の農業をつなぐハブになりたいと思っています」

 農業の未来を変えるべく、ロボットは動き出した。そのエンジン音は、農業の夜明けを告げているように聞こえた。

最新マシンでアスパラガスを収穫!

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 ロボットは、圃場内に引かれた白線の上を走行するようにプログラミングされている。車体底部にLEDライトを搭載しているため、夜間の作業も可能だ。

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 最新型機ではアスパラガスを入れるカゴが前方に設置されている。ロボットアームの動作にかかる時間を少しでも減らし、効率よく収穫を行うためだ。

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 自動で走行しながら、ロボットに搭載されている車載カメラがアスパラガスを捉える。その画像を元に人工知能が収穫適期に達した個体を判別していく。

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 収穫適期に達したアスパラガスを発見すると、ロボットアームが伸び、根元付近をつかむ。アームの先端についたカッターがアスパラガスを切断する。

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 ロボットの前方に備え付けられたカゴに、収穫されたアスパラガスが置かれてゆく。まるで人の手のようにゆっくり動くため、野菜を傷つけることはない。

菱木 豊さん 『inaho』代表取締役CEO

稼働日のスケジュール

菱木 豊さん

繁忙期
ほぼ年中!

農家さんへのヒアリングや企業との面談で、毎日奮闘中です。

収入は?
サービスはまだ始まったばかりなので、これからが勝負です。多くの農家さんにご利用いただけるように、日々精進しています!

農業で稼ぐには?
人の力だけでできることは限られています。機械やロボットを使いながら、生産性を高めることが大事だと考えています。

記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Yusuke Abe
text by Ryotaro Washio

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