地元に根ざし、旗を立てる。『FARM FLAG』は地域と農業を考えます。
2019.11.22 UP

地元に根ざし、旗を立てる。『FARM FLAG』は地域と農業を考えます。

WORK

「にしかん」と呼ばれる、新潟市の西に位置する旧・西蒲原郡地区。
日本海に向かって切り立った山が連なり、それに守られるかのように広大な平野が広がるエリアは農産物の一大産地。
当地で奮闘する若き農家を中心とした『FARM FLAG』プロジェクトを紹介します。

「にしかん」エリアのイケメンが集まった!?

 「にしかん」という言葉を聞いたことがあるだろうか。新潟市の西部、温泉地として名高い岩室温泉を中心に、広い平野が続くエリアを、地元ではそう呼ぶそうだ。この「にしかん」、日本海に近いにもかかわらず、ダイレクトに吹き付ける海風が少ない。それは弥彦山角田山をはじめとした連山が、土地を守るように並ぶ地形ゆえ。沼地を埋め立ててできた土地、昼夜の寒暖差など、特異な環境は、多種多様な農作物を育む背景となった。新潟県といえば米のイメージがあるが、当地ではさまざまな作物が栽培されている。

 さて、『FARM FLAG』の話。起こりは2014年に遡る。地元・岩室温泉にある古民家レストラン『灯りの食邸KOKAJIYA』で、大手百貨店バイヤーによるセミナーが開かれることになる。「この時に、僕らが個々でつながっていた、地域の農家さんたちに集まってもらったんです。でも、農家さんたちそれぞれは、顔を知っているくらいでつながっていないこともわかったんです」。そう話すのは、岩室温泉の観光施設『いわむろや』館長・小倉壮平さん。一方、共に活動していた地域プランナーであり、ディレクターの山倉あゆみさんは集まったメンバーを見た瞬間、あり、ディレクターの山倉あゆみさんは集まったメンバーを見た瞬間、突飛、ディレクターの山倉あゆみさんは集まったメンバーを見た瞬間、突飛な思いとある。“妄想”を抱いたそうだ。「なんかイケメン多くない!?」

 「まず『にしかん』の農家さんがみんなイケメンでびっくりして(笑)。そして話を聞いたら、地域や農業に対して熱過ぎるくらいの想いを持っていました。私は食をテーマに活動をしているんですが、ちょうどその時に『ラ・フォル・ジュルネ新潟』という音楽イベントの公式弁当を担当していたんです。彼らのつくる農産物で新潟のシェフがお弁当をつくって売り出したら、新潟の農業がいかに多彩であり、そして想いを持った生産者が多く、なによりも農業がかっこいいものだということを伝えられると思ったんです」。山倉さんは自身の“妄想”をすぐに実現させた。農家さんに「ダークスーツを持って集まって!」と集合をかけ、撮影会を実施。ダンサー集団と見紛うような「イケてる」写真は、公式弁当のメインビジュアルに。その効果か、1日100食限定の弁当は10分で完売したという。「メディアなどにも取り上げられる機会も多くなる中、いつしか「にしかんイケメンFARMERS」と呼ばれるように。イベントや講演会に呼ばれることも多くなり、2016年春に、活動を発展させていく目的で『FARM FLAG』と改めました」。

『FARM FLAG』のメンバーたちが関わる農産物やプロダクト。品質はもちろん、パッケージなども秀逸な品々ばかり。
『FARM FLAG』のメンバーたちが関わる農産物やプロダクト。品質はもちろん、パッケージなども秀逸な品々ばかり。

『FARM FLAG』が地域を変えていく。

 『FARM FLAG』は、地域の若手農家を軸に、彼らの魅力を応援し、かつ地域や農の可能性を訴求したい思いを持ったクリエイターたちによるプロジェクトだ。小倉さんや山倉さんをはじめ、グラフィックデザイナーやコピーライター、WEBデザイナーなどが参画する。

 メディアでは、「若手」なだけが抽出されがちだが、『FARM FLAG』の取り組みには確固たる役割と、大事な想いがベースにある。「農家さんたちは忙しいし、なかなか集まって話す機会もない。また、年齢が5歳違えば、交流することも少ない。同じような境遇、悩みを共有する場があったら、というのが『FARM FLAG』の一つの原点。そして、なによりも一番素敵で、かっこいいなと思っているのが、ご一緒させていただいているそれぞれの農家さんが『地域の未来を担う覚悟』を持っていること。地域が変わっていくのを目の当たりにして、それが私たちの希望と勇気になっていて。伴走させていただけて本当によかったなと感じています」と山倉さんは話す。

 『FARM FLAG』が立ち上がってから今年で3年。メンバーたちは『FARM FLAG』と平行し、「にしかん」のさまざまな場所で動き、地域を変えている。

 例えば、直売所やレストラン、体験型農場などが一体となった施設『そら野テラス』のオープン。施設の店長を務める藤田友和さんは、『FARM FLAG』のキーマンの一人だ。「近い将来に訪れるであろう、農家の一斉離農。それが目の前に迫っている中、僕らがすべきことは、この地域の農地を守ること。それが大前提でありつつ、自社の農場周辺に人を招き、楽しんでもらうことで、『農業ってすごくいい産業なんだね』って周りの人から思ってもらえるような取り組みをしたかったんです」。

『そら野テラス』の人気レストラン『TONERIKO』。広大な農村風景を眺めながら食事を楽しめる。
『そら野テラス』の人気レストラン『TONERIKO』。広大な農村風景を眺めながら食事を楽しめる。

 『第四生産組合』も同様に、高齢で農業を続けられなくなった地域の農家などから土地を預かり、運用する。行政と協力し、「伊彌彦米」というブランド米も立ち上げた。さらに今年は近隣の農事組合法人と共同出資で、農産物の企画・販売の会社も設立。「今後は積極的に地域の農産物を観光と結び付けていきたい」と、『FARM FLAG』のメンバーで、組合長の竹野勝行さんは意欲的だ。

伊彌彦米

ブランド米である「伊彌彦米」は、皇室献上米にも選ばれた逸品だ。
ブランド米である「伊彌彦米」は、皇室献上米にも選ばれた逸品だ。

 このほか、『FARM FLAG』メンバーの4軒の農家がつくる米を「ブレンド」し、「FARM FLAG米」として販売するという斬新なプロジェクトが始動していたり、メンバーのつくる産物が有名シェフのレストランで採用されたり。親や祖父から代表権を委譲され事業に向かう者、新たな農産物の栽培にゼロから取り組む者など、それぞれが地域で挑戦を続けている。

『第四生産組合』にあった巨大な米の乾燥調整施設。
『第四生産組合』にあった巨大な米の乾燥調整施設。

地域の未来を担うプラットフォーム。

 農業を軸に、それぞれが覚悟を持って活動する『FARM FLAG』とは──彼らのウェブサイトに、「旗を立てる。地域に根ざす」「旗をかざす。存在を発信する」「旗を振る。魅力ある場を伝える」という3つの宣言があった。農業を営むことは、その土地と生きることそのもの。地域に根ざし、農業のかっこよさを自信を持って発信し、場をつくり、魅力を伝えること。

 『FARM FLAG』とはきっと、想いを共有する者が集い、刺激し合い、切磋琢磨しながら、それぞれの夢を応援し合えるチームであり、プロジェクトであり、新しいなにかが生み出されるプラットフォームなのだろう。

直売所ではおよそ130軒の農家などの食材や加工品を扱うという。
直売所ではおよそ130軒の農家などの食材や加工品を扱うという。

 最後に、小倉さんの言葉を引用したい。「僕にとって、メンバーはすごく背中が大きい存在。それぞれが地域に根ざし、覚悟を持って地域で活動をしている。全員がマイルストーンのようであり、ライバル。地域のことを、共通の目線で、同じ熱量で語り合えるかけがえのない仲間です」。

地域で生きる『FARM FLAG』のメンバー紹介

 取材時に集まってくれたメンバーがこちら。『FARM FLAG』は10名超の若手農家と、各種クリエイターが結集したチームだ。

藤田友和さん

藤田友和さん

 『有限会社ワイエスアグリプラント』取締役/『そら野テラス』店長。「農家が地域の核となる拠点を運営することに意味があると思います」。

竹野勝之さん

竹野勝之さん

 米とシイタケ栽培を主とする『農事組合法人 第四生産組合』組合長。「若手の雇用を生み出すことで、地域の農業と風景を守りたい」。

山倉あゆみさん

山倉あゆみさん

 『シンクボード株式会社』代表。デザインやコンセプトワークなど、ディレクターとして『FARM FLAG』のメンバーをサポート。

小倉壮平さん

小倉壮平さん

 『いわむろや』館長/『NPO法人いわむろや』事務局長。武蔵野美術大学卒業後、岩室温泉へ移住。『FARM FLAG』事務局長。

草野竜也さん

小倉壮平さん

 『はちみつ草野』代表。千葉工業大学でロボット工学を学んでいたという異色の経歴を持つ。味と品質にこだわる若き養蜂家。

岩﨑 修さん

岩﨑 修さん

 『岩﨑食品』代表。祖父母から農業と食品加工の会社を事業承継。切り干し大根の漬物や特産の漬物・からし巻きが人気。

宮路敏幸さん

宮路敏幸さん

 『宮路農場』代表。信用金庫勤務ののち、酪農に携わり、現在は米やアスパラガスをメインに、西洋野菜など20種ほどを育てる。

若林 聡さん

若林 聡さん

 『有限会社グリーンズプラント巻』代表。三つ葉を中心に、数多くのハーブ類を育てる。人気のパクチーもいち早く着手。

竹野勝行さん 『第四生産組合』組合長『株式会社 伊彌彦』代表取締役

稼働日のスケジュール

竹野勝行さん

繁忙期
4〜5月、9月

稲作の春作業で4月〜5月上旬、稲刈りで9月が繁忙期ですね。

収入は?
現時点で家族4人を無理なく養える収入はあります。子ども2人を大学まで行かせられる程度を目標にしてます(笑)。

農業の楽しさって?
率直に言うと、楽しいのかわかりません(笑)。自然を相手に、どんな対応をしていくかが収入につながるので、気が抜けませんね。

記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Masaya Tanaka
text by Yuki Inui