SNSを駆使した今風の“農業女子”?
待ち合わせで指定された場所は『JAいしかり地物市場とれのさと』。本記事の主人公・只野夢子さんの農産物も、ここで買うことができる。営業時間前、商品を手際よく搬入、陳列していく只野さん。この日はジャガイモ、ゴボウなどを納品。その様子を撮影していて気づいたのは只野さんの野菜のパッケージの奇抜さだ。ピンク色のシールが貼られていて、周囲の野菜よりもとても目立つ。そしてシールには『YUMEYASAI』の文字。これこそ、只野さんの野菜ブランド。シールにはQRコードも印刷され、SNSへの導入も。フォローすれば出荷情報やイベント情報などを見られ、かつ、ハッシュタグを付けた「#YUMEYASAI」で投稿すればプレゼントが当たる仕掛けなんかも。ここまで読んだだけだと、「今時の」と思われるかもしれない。が、彼女はそんな枠には収まらない。彼女のありあまる夢については追って。
直売所からクルマで数分のところに只野さんの作業場があった。ここで父母とともに農作業をしているという。13ヘクタールある農地のうち、10ヘクタールで小麦を栽培。こちらは主に市場へ出荷する。野菜のメインはジャガイモやニンジン、ゴボウなどの根菜類。農地の面積は徐々に増えているという。理由は農業者の高齢化。父・正輝さんが50代の“若手”ということもあり、地域の中で頼りにされ、周辺農家から畑の管理をお願いされることが多くなっているのだそうだ。
直売所から戻ると、今度は手際よくジャガイモを小袋に詰めていく只野さん。トウモロコシなど、朝採れ野菜がある時季は、早朝に収穫してからパッケージ。合間に農作業も。夏場は朝のうちから草取りもするという。「作業は21時くらいまでかな。で、戻って寝るころには24時を回ってますね(笑)」。
産地の高齢化。そして決して楽とはいえない作業の数々。にもかかわらず、なぜ只野さんは農業を選んだのだろう。
接客・販売の楽しみを見出し、実家の農業を手伝うことに。
地元中学を卒業後、石狩市に近い江別市にある酪農学園大学附属とわの森三愛高等学校フードクリエイトコースに進学。が、只野さん曰く、「実家が農家だし勉強しとくか、ってくらい(笑)。ただ、この時に教えてくれた先生がめっちゃおもしろくて、『農業ってこんなに楽しいんだ!』って感じたのもこの時。将来、農業やるなんて考えていなかったですけど、農業っていいかもなあって思ったのが高校時代でしたね」。
卒業後、父親の母校である酪農学園大学に進むが、「半年で辞めちゃいました(笑)」と只野さん。高校で専門的な内容を受けてきたこと、さらに農業以外の世界を見てみたいという思いが強くなったのがその理由。「さまざまなアルバイトを経験しました。カフェや居酒屋、キャンペーンガールなんかも!(笑)。この時に自分は接客が楽しいし、好きなんだなってわかったんです」。カフェのオープニングスタッフとして働いたことも大きな経験になった。オーナーや仲間とともにTwitterや、Facebook、LINEを使った集客を試行錯誤。この経験が、のちに『YUMEYASAI』にも活かされることになる。
そして転機となったのは、母・真紀子さんから直売会で使うポップ製作を依頼されたこと。「直売所で、ゴボウや長芋の直売会があって、その際に使うポップだったんですけど、A4の紙にでっかく『ゴボウ1000円』とかをパソコンで描いた簡単なものだったんですが、それだけでものすごく売れた。それがおもしろくて。接客の経験も活かせるし、じゃあ実家に帰って農業を手伝おうって決めたんです」。
20歳で農業に関わることになった只野さん。最初の1年間は直売所での販売を試行錯誤する日々。野菜の名前や、のちに『YUMEYASAI』につながるブランド名をシールで貼ったり。「農家さんはみんな100円とか90円とか、値段を書くだけ。それに値段で品定めをするお客さんも多かったんで、これはなんとかしなきゃって。売り上げも下がっていましたし」。売り方も考えた。例えばジャガイモは、それまで1キロ入りで販売していたものを500グラムの小袋で。ゴボウもカットして販売した。「手間はかかりましたが、ちょっと売り方を変えただけで2、3倍になったんです。『とれのさと』には生産者が100人ほどいて年末に売り上げの順位が発表されるんですが、それまで20位前後だったんですが、トップ5にも入ることができて。それが1年目ですね」。
21歳の時、父・正輝さんの勧めもあり新規(親元)就農。晴れて農業者となり、父母とともに実家の農業を支える存在に。
「でも、農業のほうは知らないことだらけ。販売は私に任せてもらえることになったのですが、作物を作るのは父。もちろん農作業は手伝いますが、機械と肥料とかはまだ全然わからないです……。トラクターもまっすぐ走らせられないですし(笑)」。
農業女子・只野さんの一日。
❶配達
朝はだいたい、地元にある人気直売所『JAいしかり地物市場とれのさと』への配達からスタート。夏場など、朝採れ野菜がある時季は、配達の前に農場で収穫作業をすることも。
❷陳列作業
『JAいしかり地物市場とれのさと』では、見た目も考えながら只野さん自身で商品を陳列していく。掲載された新聞記事などをポップに活用するなど、販売促進のための工夫も行っている。
❸包装作業
朝イチの配達を終えたら、近くにあるイオンや八百屋さん用の野菜の準備のためにいったん作業場へ戻る。取材時は両親とともにゴボウやジャガイモの包装作業。ここまで休む暇なし!
合間で収穫作業
包装や配達の合間には収穫作業も随時行う。農場と作業場が近いので移動は少ないが、なかなかのハードワーク。
❹取引先へ配達!
包装を終えたら、取引先に配達。近隣にある2か所の『イオン』をはじめ、最近では美容室への納品も行う。
❺SNSへ投稿!
Instagramを基本に、Facebook、ブログなどを活用。現在Instagramのフォロワーは4000人超。勉強会に参加したりする中で、自身のノウハウを蓄積。最近ではYouTubeチャンネルも開設した。
www.instagram.com/yumeyasai
www.facebook.com/YUMEYASAI
人との触れ合いの楽しみがあるから、続けられる。
販売、宣伝を支えるのはSNSだ。「最初は、『新参者がSNSを使ってなんかやってる』というくらい。でも、徐々に認知度が上がっていったのもSNSのおかげ。去年はテレビで取り上げていただく機会も多かったですね。農家でこういうことをやっている人自体が少ないこともありますが、ちょうど『インスタ映え』が流行っていた時期でもあって(笑)」。
イオンでの販売につながったのもSNSから。Instagramをフォローしてくれていた知り合いの農家さんの紹介だ。が、売り上げに直結したと感じたのは、意外にもここ最近だそう。「9月に対面販売をしたんですが、その時に『インスタ見てきました!』とか『会いたかったんです!』って初めて言われて。ようやくですね。人と接するのが好きで、直接お客さんと話ができる対面販売の時間が一番楽しいですね。それがうれしくって、SNSを使って宣伝をしたりしている感じです」。
さて、前述したように、彼女にはたくさんの夢がある。『YUMEYASAI』を補足するように「野菜で夢を叶える」というコピーもシールに入っている。
「私にはたくさんの夢があって、それを野菜を使って一つずつ叶えていこうって思っているんです! たくさんありすぎて説明するのが難しいんですけど(笑)」。ブログを見ると、「石狩でYUMEYASAIカフェを経営する」「野菜をすぐに食べられる農場キッチン」「独自の直売所を建てる」など、50以上の夢が列挙されていた。
「これ以外にもたくさんあるんです。そしてそれが少しずつ実現していくのが楽しくって!例えば、母校の高校生との取り組み。最近、対面販売でコラボすることができてとってもうれしかったんです。ゆくゆくは、農業体験なんかもしたいですし。また、私が通っていた美容院さんから声をかけていただいて、新しい販路やお客さんが見つかったり。自分の夢を叶えるのと同時に、高校生をはじめ、関わるみなさんの夢も一緒に叶えていきたいなって」。
今回の取材中、終始にこやかに、かつ苦労話すらも楽しそうに話してくれた只野さん。最後に、そんな彼女の活力の源を聞いてみた。
「SNSを始めて、お客さんからコメントをたくさんもらえるようになって楽しくなりました。知らないことだらけで、『人参の葉っぱが食べられる』ことなんかもお客さんからコメントで教えてもらったり(笑)。SNSはあくまでも“道具”ですが、楽しいですし、うまく使うことで売り上げにもつながります。そして人との触れ合い。対面販売でお客さんと話したり、新しい人たちと出会ったりすることが、やっぱり楽しい。だから続けられます!」
只野夢子さん 『YUMEYASAI』代表
稼働日のスケジュール
繁忙期
4月〜12月
5月はアスパラガスの収穫があるから5時起きしています!
収入は?
まだまだ実家で見習い中の身。だからおこづかい制なんです。もうちょっと欲しいなあという感じです!(笑)。
農業の楽しさって?
SNSを始めて、コメントをもらえるようになってから農業が楽しくなりました。評価や交流って大事!
記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
photographs & text by Yuki Inui