『昭和街道 特集 消える商店街』volume80
2019.11.26 UP

連載 | リトルプレスから始まる旅 『昭和街道 特集 消える商店街』volume80

SUSTAINABILITY

かけられた手間、営む人が見えてくる。

 今回紹介するリトルプレスは『昭和街道 特集 消える商店街』。昭和の風情を残す商店街を「10年後にはなくなる風景」としてコレクションした一冊。『ムサシノ工務店』という名前で、武部将治さんが発行している。

 表紙をめくると現れる看板建築(洋風のレトロな外観を持った店舗併用の都市型住居)。その外壁はモルタルにヒビが入り、一部は剥げ落ち、下地の木材が露わになっている。

 アールデコを模したような階段状の外観は、当時の華やかさを連想させるが、外壁中央は、ペンキの剥げた跡が錆び、そこに微かに商店街の名称が判読できる。対照的に、ヒサシで雨に守られたからか、下部にある「明るい商店街」の文字は、はっきりと判読できる。

今年撮影されたアールデコ風建物、三和商店街(左)。
今年撮影されたアールデコ風建物、三和商店街(左)。

 ページを進めていくと各地の商店街が掲載され、銭湯や映画館、薬局、服飾店、書店、電器店、眼鏡店、食料品店、金物店、食堂などが並ぶ。

 時代に取り残され、改装や取り壊しをのがれた建物は、当時の面影を持っている。時間の流れを感じさせるのは、古びた外観だけでなく、その個性的な外観であることが大きい。現代の建物に失われたものを、そこに見ることができるように思う。

本文画像

 建物のディテール(細部)をよく見ると、大量生産された部品であっても、取り付け方法や、デザインに手間のかかる工夫が施されている。

 看板や商品も文字も、現代では見慣れたコンピューターによる文字ではなく、細部まで人の手でデザインされた形の文字であることに気がつく。

 ひとつひとつの建物に、現代の商業空間ではあまり感じられなくなった、造り手のかけた手間や作業、それぞれの店を営む人の姿が浮かぶ。

本文画像

 ここに掲載された建物のうち、既に撤去されたものがあり、近いうちに消えていく建物もあるだろう。

 記憶からさえも消えていくことを恐れ、武部さんは、日本各地で出合った昭和を感じさせる建物を撮りため、貴重な一冊になった。

 実は、この本を受け取ったとき、僕には表紙の商店街の場所がすぐにわかった。京都府福知山市にあるこの商店街では、毎月、「福知山ワンダーマーケット」というイベントが開催され、『451ブックス』も出店したことがその理由。

 写真を見ても分かるとおり、この福知山の商店街は、アーケードを含め、道路の舗装もお店も、今でもメンテナンスがされていることが分かる。マーケットに出店していても、商店街への思いがいろんな方から伝わってくる。

 消えゆくような商店街も、多くの人々に支えられ、武部さんのリトルプレスもその助けになり、これからも維持され、存在し続けていくことを期待したい。

『昭和街道 特集 消える商店街』著者から一言

本文画像

 僕が好んで写真を撮るのは、シャッター通りになった商店街や川沿いの古い港町、閉山で人々が去った鉱山町など、どこかうらぶれた寂しいところです。時代の流れに乗りきれなかったものたちと、不器用な自分の生き様がどこか似ている気がします。

今月のおすすめリトルプレス

本文画像

『昭和街道特集 消える商店街』

 各地にある昭和の風情を残す、消えゆく商店街を紹介。

著者:武部将治
発行:ムサシノ工務店
2018年8月発行、182×257ミリ(31ページ)、600円

記事は雑誌ソトコト2018年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文●根木慶太郎

キーワード

根木慶太郎

ねき・けいたろう
岡山県玉野市で新刊や古書、洋書、リトルプレスを扱う書店『451ブックス』を経営。地元では「絵本を読む」教室なども開催。全国から取り揃えたリトルプレスはネットショップでも購入可。www.451books.com