伝わり方で価値を高く。それがブランディング。
企業や自治体のPRやブランディングを支援する『70seeds』の代表・岡山史興さん。家族と暮らす富山県・舟橋村と、オフィスのある東京都江東区で二拠点生活を送っている。社名と同じウェブメディア『70seeds』で金森勝雄村長にインタビューしたとき、舟橋村に魅力を感じ、2018年に移住した。
「当時2歳の長男を東京で育てるイメージが湧かず、移住先を探していました。舟橋村ならスクスク育ちそうだと思い、即決しました」と岡山さん。『農事組合法人 東和』がつくる味噌のパッケージデザインのプロジェクトをきっかけに、舟橋村の農業と関わるようになった。農業は村の基幹産業だが、高齢化と後継者不足が課題だった。そこで、「村の農業を盛り上げるには、生産者や関わる人が一緒に考える場が必要」と、農協から移ってきた生活環境課技師の政二勇太さんに相談し、「農業ブランド化プロジェクト」を立ち上げた。
岡山さんはメンバーを募り、1回目の会議で、ブランディングや目指すゴールについて話したが、ブランディングの経験のないメンバーから「理解しづらい」との声が上がった。そこで、2回目の会議では、「つまり、儲かる農業をするのです。同じかぼちゃもハートかぼちゃと伝わり方を変えただけで注目が集まり、高く売れたでしょう? それがブランドの力です」と、具体例をつくったことで理解が進んだ。今、12名のメンバーがゴールに向かって歩み始めている。
農家自身が答えを探し、その過程で一丸となる。
農業ブランド化プロジェクトの真の目的は、メンバーや関わる人たちが一丸となること。「農業の可能性をみんなで広げていく過程が大切です。『特産品ができました。かぼちゃです。食べてください』ではなく、ハートかぼちゃとネーミングし、小学校で子どもたちに披露し、村の広報やテレビで紹介されることで、『どこで買えるの?』と問い合わせがくる。ハートかぼちゃに興味を持ち、育てる農家が増えていく。その過程で、メンバーや関わる人の関係が密になり、応援する人も増え、コミュニティが生まれる。そんなプロジェクトにしたいのです」と岡山さんは意気込む。
「日本一小さな村」であることも強みだ。「かぼちゃは湿気に弱く、梅雨時には国産かぼちゃは出回りません。大きな畑では収穫、移送、保管、出荷の間に湿気で傷んでしまうから。ところが、舟橋村は小さいので出荷までの作業もスピーディ。湿気で傷む前に出荷できるのです」と、岡山さんは舟橋村でかぼちゃを栽培する強みを語った。
ハートかぼちゃが話題になり、スーパーでは「舟橋産かぼちゃ」とラベルが貼られ、「舟橋産」であることを、売る側も買う側も意識するようになった。プロジェクトの機運は高まりつつあるが、傍観する農家も少なくない。2年前に転作補助金の制度が終了したときも、多くの農家が「どうすればいい?」と役場に相談に来たそうだが、「役場に頼るのではなく、農家自身が解答を出してほしい」と生活環境課長の吉田昭博さんは農家に訴えた。農業ブランド化プロジェクトも参加者自身が答えを探すプロジェクトの今後に期待しよう。
岡山さんが尊敬する、
舟橋村のみなさんとプロジェクトメンバーたち!
小学校の給食でも大評判!おいしいかぼちゃを育てています。
喜田義孝さん[ふなはしハートかぼちゃ生産者]
村の子どもたちから「かぼちゃのおじさん」と呼ばれ、親しまれている農家の喜田義孝さん。岡山さんによって「ハートかぼちゃ」と名づけられた九重栗かぼちゃを育てて6年になる。
「ハートかぼちゃは12、13軒ほどで栽培しています。今年は全員で5トン前後、500箱ほど収穫しました」とうれしそうだ。
農業ブランド化プロジェクトのメンバーとしても、世代を超えた仲間をつくりながら、ハートかぼちゃを大事に育てている。「高齢農家は変わらないとダメ。若い人たちを叱るだけでなく、自分も一緒に汗をかいて、協力しないと」と若手農家を応援。現場で汗をかきながら、仲間と楽しむ農業を実践している。
村の玄関口にある『お※食堂』。人が集まるプロジェクトの拠点に!
中野小百合さん[『お※食堂』オーナー]
「村の玄関口の越中舟橋駅に直結したスペースで、『お※食堂』を開いています。村で採れた米の力を感じてほしくて、食事や米粉のクッキーも出しています」と、定食を席に運ぶ中野小百合さん。農業ブランド化プロジェクトのメンバーとして、「舟橋村の農作物を使った食事や加工品を提供したり、イベントを開催したり。村を知り、元気が出る場として『お※食堂』に人が集まってくれたらうれしいです」と笑顔でアピール。村には「ばんどり騒動」という明治時代の百姓一揆の話も伝わり、「米を大事にしてきた農家の思いも忘れないように」と話した。
新たにつくったアイスクリームの販売方法を、プロジェクトメンバーと考えます。
立山舟橋商工会女性部のみなさん
舟橋村商工会は2009年に隣の立山町商工会と合併し、「立山舟橋商工会」に。それを機に、舟橋村のかぼちゃと枝豆、立山町の米粉を使ったクッキーをつくり、村の特産品として販売してきたが、今年はさらにトマトとかぼちゃのアイスクリームもつくった。「ただ、どこで、どうやって販売するか、まだ決められていません。農業ブランド化プロジェクトで、一緒に考えていきたいです」と、商工会女性部の吉川久美子さんは話す。
アイスは1個300円。村では高いという印象だが、どうやって売っていくのか。話し合いを重ねながら答えを見いだす。
ドローンなどIT機器の活用や、ベテラン農家の知識のデジタル化を。
佐渡 司さん[農家]
就農して2年目の佐渡司さん。「会社を辞め、営農組合でアルバイトをして、そのまま農家になりました」とのこと。そこでドローンによる農薬散布も体験し、農業の楽しさを感じた。
「これからの農業はITの活用も必要です」と佐渡さん。「ベテラン農家の頭には田んぼの特徴や栽培方法が入っていますが、若手農家に伝わっているかと言えば、そうでもない。ベテラン農家の知識や経験や勘をデジタル化して、次世代に伝えていけたら、村の農業はもっと発展する。貴重な村の財産が消えていくのはあまりにもったいないので」。そんな発想も、農業ブランド化プロジェクトで実現できればおもしろそうだ。
骨のある若者、歓迎します!舟橋村らしい付加価値のある農業を。
古川元規さん[『ALIVE-21』代表]
「舟橋村の農業は、小さな面積のなかでいかに売り上げを上げるかが生き残りのポイント。付加価値が必要です。その一つが、無農薬、無化学肥料栽培です」と手間暇かけて育てた米を手にする、『ALIVE-21』代表の古川さん。若い人たちが農業に関心を寄せるには、収入とイメージが大切だと言う。「一般の農業体験は、収穫などきれいで楽しい作業を行う場合が多いですが、繁忙期の農作業を体験してほしいですね。そこを乗り越えられたら、農家の適性があると思います。そんな骨のある若者なら、どこでも引っ張りだこですよ」と笑顔で呼びかけた。
岡山史興さん 『70seeds』代表
稼働日のスケジュール
繁忙期
11月〜1月
来年1月に試験的に直売イベントを行うので忙しくなりそうです。
収入は?
約400万円です。6割が企業や自治体のブランディングやPR、3割がプロジェクト運営、1割がメディア連携型ECの売り上げです。
農業の楽しさって?
農業に関わる人が増え、適切な役割分担ができれば、「稼ぎどころ」もつくられ、稼げる農業を楽しく実現できそうな気がします。
記事は雑誌ソトコト2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui