Direct to Myself | 49 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか
2019.12.11 UP

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DIVERSITY

 デザインから製造まで行い、高品質なアイウェアをオンラインで販売するアメリカの『Warby Parker』(ワービー・パーカー)。ビンテージ風のデザインが魅力的なアイウェアで、自社で一貫してモノづくりから販売を手がけることでコストを削減し、高品質であるにもかかわらず手の届く価格帯にしている。Webサイトから気になるアイウェアを選ぶと自宅に届けてくれ、無料でお試しできる。気に入ったらはじめて、オンラインで購入すればいい。

 オンラインだけではなく、試着ショールームの位置づけで実店舗も持つ。1つの売り上げに対して1つのメガネを寄付する活動「Buy a Pair,Give a Pair」を通じて、発展途上国の人々に視力検査の実施方法を教育。メガネを配るだけではなく知識と技術をセットで提供することで、安い価格で販売できるようにするサポートをする。メガネの普及と安定的に収入を得る仕組みを提供し、販売だけではなく社会に貢献しようという意識が高い。2010年に創業された同社は多くのユーザーの心をつかんでいるが、Webサイトで集まるさまざまなデータを活用してユーザーの役に立てるテクノロジー・カンパニーとしての力もそれを支える要素となっている。

 『Warby Parker』も含めて、D2C(Direct to Consumer)と呼ばれるビジネスモデルが注目されるようになった。言葉としては新しく感じるが、モデル自体はそう新しいものではない。メーカーが流通業者を介さずに、企画から生産までを自社で完結して消費者に直接販売する。いままでなかったコンセプトではなく、まちのパン屋さんだって、昔から当たり前のようにやっていることなのだ。

 ECで買い物をする消費者が増える中、ファッションや雑貨を中心に、自社開発の商品を直接販売して、それを買うことのメリットの理解がこの10年くらいの間で深まってきた。自社で企画・生産した商品を直営店舗で販売するSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)は大手アパレル企業の大量生産を中心とし、同じモノを多くの人が安価に購入し、商品のバリエーションを高速回転させる環境をつくった。

 D2Cのブランドの多くは、商品の種類を絞り、小ロットで製造する。そこでしか買えないような、個性的でスタイリッシュな商品が目立つ。また、一方通行なマス的宣伝広告ではなく、SNS上でのお客さんとの直接対話を大切にし、ていねいにファンづくりをしている。ファンの声を商品開発にスピーディに反映させ、小回りのよさを活かして新商品を生み出す。

 大手アパレル企業に比べると、規模の論理では勝てない。しかし、その土俵で勝負自体をしていないのだ。ただ商品を売るというよりも、お客さんとのコミュニケーションを楽しみながら自社商品を育んでいく。たくさん売れなくてもよいから、深いファンをつくろうという価値観の持ち主が多い。結果的に売れてしまっただけで、ヒットさせることありきではなかったブランドも目につく。

 これから、洋服やカバンなどを製造できる3Dプリンターのレベルが上がると、D2Cブランドの製造ラインを外部の工場に委託せずに自前化し、さらにその強みを発揮できるようになる。それと同時に、「Do it yourself(自分でつくる)」の意識が強まり、個々人が自分のためにつくって自分自身に提供するようになるのかもしれない。「D2Cどころか、いまや『Direct to Myself(D2M)』だよ」と。

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文●小川和也

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行いJ-WAVE『FUTURISM』で番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。また、実業と学術を往来し多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)