徳谷柿次郎
2019.12.14 UP

連載 | やってこ! 実践人口論 | 16 怒りは実践者のガソリン

SUSTAINABILITY

「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。
「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。
「やってこ!」の源泉は理不尽な体験にある。

 最近、「怒り」の感情について考える機会があった。人間誰しもが備えている喜怒哀楽の表現手段だが、人によって感情の度合いが違うようだ。何事も楽しく喜べる人は、現代に欠かせない「自己肯定感」を得やすいのかもしれないし、センシティブな人は怒りや悲しみに影響を受けやすく、生きづらい思いをしているのでは? と思う。SNSやテレビによって政治や社会の喜怒哀楽が日々飛び込んでくる時代、それだけで疲れている人が大半なのではないか?

 SNS疲れを引き起こす根っこには、承認欲求や羞恥心の刺激によって増幅した喜怒哀楽の燃えカスが「チリツモ」になっているのではないだろうか。蹴飛ばせばその燃えカスが舞い上がり、“心の気管支”を詰まらせる。ひどく厄介で切り離せない喜怒哀楽だが、実践主義の観点で見れば「怒り」のエレメンツがとてつもなく大きな原動力になることを今回は伝えたい。

怒りは実践の原動力。

 私は自他共に認めるアンガー(怒り)の気質だ。野球ゲームであるパワプロの選手だったら「アンガー◎」「神経質◎」のめんどくさいスキルを持っていると思う。その原点には幼少期から浴びた理不尽の経験がある。昭和57年生まれながら、ディープな大阪エリアで四半世紀を過ごした体験も、大きな影響を与えているんじゃないかな。家庭環境の歪み、ヤンキーや暴力との距離感、飲食店バイトのクレーマー対応、そして経済的窮地に陥った10代の感性は、「怒り」の感情を養うには十分すぎる土壌だった。

 これは生まれ育った者にしか理解できないし、当人にしか言えないかもしれないが、大阪は理不尽なハプニング発生率が非常に高いんだよ!土地が狭いから? 人間同士の距離が近いから? 興味が湧いたら、社会学の本を読み漁れば自分なりの仮説が生まれると思うのでそこんとこはヨロシク!

 というわけで、アンガーの才能を持った私は、上京を果たした27歳以降……社会人として積み上げた大事な仕事をほぼ「怒り」とワンセットで乗り越えてきた。自己肯定感が低いくせにプライドはやや高め。這い上がってきた自覚があるからこそ、日常は笑顔と気配りで立ち居振る舞い、理不尽なクライアントに出会ったら「怒りの牙」を適切に出すようにしていた。

 例えばかなり昔のウェブメディアの仕事。数値偏重主義な価値観が蔓延していた頃、現場担当者はとにかくPVを出すのが正義なスタンス。私が若手のイケてる漫画家の起用を提案したところ、「ツイッターのフォロワー数はいくらですか?」「2000だったら難しいですね」と、ストレス起因のベタベタな髪の毛をチラつかせながら回答したのだった……。

 その場で激昂した私は「フォロワー数でコンテンツの質を測るなんて間違っている。今回の企画は別媒体でやります!」とアンサー。結果を先にいえば、別媒体の企画は話題に。候補の漫画家はどんどん売れていってフォロワー数は現在20万人超え。元から才能があるのだから当然といえば当然だし、編集者が「この人は最高です」と本気で言うのであれば信じてあげてほしい。怒りに駆られていた私は次の会議で行動に出る。約1時間かけて必要事項を共有し、去り際の廊下で前述の別媒体の話を切り出し、エレベーターに乗ってドアが閉まる直前に、「だから言ったでしょ」と言い放って溜飲を下げた。

人を惹きつける感情と責任。

 怒りを原動力に自己を高めた経験は枚挙にいとまがないが、そもそも喜怒哀楽は周囲を惹きつけるパワーがある。映画でも漫画でも、名作には必ず喜怒哀楽の感情が埋め込まれている。こと社会における人間関係において扱いの難しい「怒り」は、上司や部下、恋人や友人にぶつけることに責任が伴う。相手のことをり、怒りの感情に呑み込まれず、適切に言葉を伝えることは優しさでもあるはずだ。

 周りを巻き込んで大きな成果を出すための役割は、必ず喜怒哀楽の壁にぶつかるだろう。いざというときのために適切な怒り方を覚えて、怒りを“飼い慣らす”。ときには原動力のガソリンにする。その修練が無謀な実践主義者たちに人が集まる理由なのではないだろうか?

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by Huuuu

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徳谷柿次郎

とくたに・かきじろう
1982年生まれ。大阪出身の編集者。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社『Huuuu』の代表取締役。長野と東京の二拠点生活をしながら、どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長として、全国47都道府県を飛び回る。地域特有の課題を情報発信の力でサポートしている。趣味はヒップホップ、温泉 、カレー、コーヒー、民俗学など。