初めて訪れた山添村。新たな世界に触れる。
奈良県東部に位置する山添村は、香りがよく味わい深い大和茶の産地で知られる場所である。2019年、この地と名古屋エリア在住の若者をつなぎ、地域づくりに関する学びと体験を提供する講座「奥大和アカデミー(奈良県主催)」が開催された。受講の動機は、「なんだかおもしろそう」から、「まちづくりの仕事に興味がある」までさまざまであった。
現地インターンシップで2日間、山添村を訪れた。廃園となった保育園を活用したコミュニティスペースで和紅茶を味わったり、『大和高原製茶』の工場でお茶が製品になる工程の説明を受けたりと、お茶にまつわる場所を見学した。ほかにもこの地で昔から受け継がれてきた「まめくら大豆」を特産品化する試みや、地域住民同士のつながりをつくり出す『つながり⇔Lab.』という活動を知り、村での暮らしに触れていく。

村の名所である神野山から奈良の山々を望む絶景や、天狗が石を投げたという伝説が残る、沢筋に沿って大小の黒い岩が連なる鍋倉渓の不思議な光景、そして静かな岩尾神社の佇まいに、受講生はすっかり心を奪われた様子。「また来ます」と口々に言いながら山添村を後にした。
心をつかむプランが次々と生まれた。
アカデミーの後半では自分なりの山添村との関わり方を表す「マイ山添プラン」を作成していった。受講生それぞれが自らの興味を追求すべく山添村を再訪したり、課題に直面し方向性を変えざるを得なかったりと、ときに悩みながらプランづくりを進めていった。
そして10月、最終プラン発表会が開催された。山添村にまつわる天狗伝説をもとにした小説、懐かしさを感じる風景を切り取ったオリジナルムービー、村を自転車で駆け巡った際のルートを落とし込んだサイクリングマップ、オリジナルキャラクター「茶葉っち」が活躍する絵本など、豊かな発想でクリエイティブな「マイ山添村プラン」が次々と飛び出した。なかでも山添村出身・名古屋在住の家族が帰省する様子をアニメーションで表現した学生の作品には、政辺範泰副村長から「公式の場で使わせてほしい」と打診を受けるほどであった。またある受講生は山添村を舞台に名古屋名物・味噌カツを味わえる一日限りのイベントを企画し、別の受講生は名古屋で山添村の品々を販売するマルシェを提案、後日近隣のベーカリーの協力のもと実現させるなど、実に多様なプランが生まれたのだ。

講師である弊誌編集長の指出は「当事者として感じたことを自分の力で表現したから、心をつかむプランが生まれた」と評した。奈良県庁の福野博昭氏からは「ここから関係性をつくっていってほしい」と、またプラン作りに伴走し続けた坂本大祐メンターからは「地域の課題を解決するのは簡単ではないが、自分の深いところから情熱を引きずり出して、関わり続けていくことが一番大事」との応援コメントが寄せられた。
この「奥大和アカデミー」は、受講生と山添村との関わりのスタートにすぎない。一歩踏み出した彼らが、これからどのように山添村と関わり続けていくのか楽しみだ。
\受講生の声/
島田 茜さん
アニメーションムービーの製作を通して、第三者の視点から山添村の魅力を捉えることができました。普段は出会えない人々との交流が刺激的でした。講師の方々に励ましてもらえたことがとてもうれしかったです。
春日井愛美さん
自分の好きなことと、山添村で自分が見つけた大好きなものを掛け合わせて、やってみたかった絵本づくりができて楽しかったです。村を訪れただけでなく、アウトプットをすることで、とても達成感を感じました。
伊東英司さん
アカデミーの最終プラン発表では、自分にとって目新しく映った山添村の魅力を、オリジナルのサイクリングマップとして形にしました。山添村の空気のおいしさ、人々の村に対する想いがとても印象的でした。
河村祐佳さん
実践形式による今までになかった学びで、地域の特色を活かして動くうえで何を重視すべきか体感しました。異なる観点やスキルを持った人や地域の方との新しい関わりを、イベント開催を通してさらに深めていきたいです。
記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
photographs by Hiroshi Kondo & SOTOKOTO
text by SOTOKOTO