被災地で、
「殺風景」を生み
出さないために。
ベルク博士は東日本大震災後、被災地へ何度も行き、風土学の観点から助言を行ったと聞きました。それは風土学を実践する具体的な手段でもあったと思うのですが、どのような内容だったのでしょうか。
キーワードは「殺風景」でした。震災後、三陸海岸にはこれまで以上に大きな、海が見えなくなるほどの防潮堤が造られました。その堤防はそこで生きて漁業をなりわいとする人々と海との心理的な関わりを断ち、それによって「風景」が生み出されなくなりました。だから「殺風景」なのです。
人間はいざというときに基盤となる場所は安全なところになくてはいけないけれど、それと自然との関わりを断って生きることは違います。たとえば牡蠣の養殖と、海に流れ込む川の上流にある森との関係性を大切にし、「森は海の恋人」というキャッチフレーズで植林活動などを展開してきた畠山重篤さんという方がいます。この活動が行われている地元の湾では防潮堤計画が見直されました。
被災地では、「震災前から備えてはいたけれど、防潮堤が高かったことで自然を少し甘く見てしまったところがある。それがあの被害につながったのかもしれない」という意見を聞いたことがあります。
防潮堤を高く造ろうというのは、自然を支配しようという態度です。殺風景は、関わり合いから生まれる風土を殺す「殺風土」をももたらします。
人間には必要に応じて柔軟に変えることができる生きた関わり合いと、そこから生まれる風土が必要です。
ベルク博士の研究や提言は、まさに「自然との共生」を目指すものですね。今回、それを理念とする「2018年コスモス国際賞」を受賞されたことを、ご自身ではどのように考えていますか。
「コスモス」という古代ギリシャ語は、「宇宙」や「好ましい秩序」という意味です。プラトンの論などから考えるに、これは生命を感じさせない客体の宇宙ではなく、「生命を帯び、関わり合える宇宙」で、風土学と同じことを指しているといえるでしょう。主体、客体という二元論を超越し、それらをどちらも排さずに受け容れる第三項が地球には必要だという思いを改めて感じました。
最後に、これから次世代の若者に伝えていきたいことは?
まずは自分の手と足で、自然を知り、味わい、感じること。自然と関わり合うように生きること。自分で野菜をつくったり、漁をしてみたりするのもいいでしょう。そういった経験が、やがて「風土」とは何かを教えてくれるはずです。
photographs by Yusuke Abe
text by Sumika Hayakawa
本記事は雑誌ソトコト2019年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。