MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム 最終回
2019.03.28 UP

MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム 最終回

DIVERSITY

現在を“観る”から、未来を“観せる”フェスティバルへ。
ライゾマティクス 齋藤精一

 2019年3月、「第22回文化庁メディア芸術祭」の受賞作品がいよいよ発表される。日本を含め過去最多となる102の国と地域から応募のあった4384点の作品を、アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で現在審査が進められている。高い芸術性と創造性を基準に置き、部門ごとに審査していくが、エンターテインメント部門の審査委員に前回から加わっているのが『Rhizomatiks』代表の齋藤精一さんだ。インタラクティヴな広告プロジェクトや先鋭的なメディアアート作品を展開する『Rhizomatiks』は、フロントランナーとして、文化庁メディア芸術祭においても数々の受賞歴がある集団。その齋藤さんが、応募作品の審査にあたっている。

エンターテインメント部門の審査委員のみなさん
エンターテインメント部門の審査委員のみなさん。左から、評論家で編集者の中川大地さん、アートディレクターで多摩美術大学教授の佐藤直樹さん、ゲームクリエイターで東京工芸大学教授の遠藤雅伸さん、開発者でAR三兄弟 長男の川田十夢さん、そして『ライゾマティクス』代表でクリエイティヴディレクターの齋藤精一さん。

 「文化庁メディア芸術祭は数ある国の賞の中でも、最も一般的に認知されている賞で、今年の切り株を見せてくれる場所だと理解しています。今は超複雑系の思想が実装されているような時代なので、コンピューターに接続して使うあらゆるハードウェアの進化は、つくる作品の表現そのものに影響を与え、そんなハードウェアの普及は作品の表現方法を豊かにしていきます。前回受賞した作品の中でも、大学の研究室から誕生した『MetaLimbs *1』が示すのはプロトタイプを手軽につくることができる環境になったということですし、アップロードした線画をAIが自動着彩するウェブアプリケーション『PaintsChainer *2』の登場は、イラストやマンガの色彩表現に新しい風を吹き込みました。こういった作品が誕生するのには背景があり、その時代背景とともに作品の潮流が存在している。だから、その創作の潮流を掴みたい」。齋藤さんは審査委員を引き受けた理由を説明する。加えて、都市開発やビジネス文脈のリサーチ姿勢も示す。「審査をさせていただきながら、僕の興味は文化をどう創るのかにあります。国家戦略特区で起業を支援するインキュベーション施設や、文化施設が増えていく今、本当の意味での『文化』とは何か。実際にそんなイベントも増え始めている今、『Rhizomatiks』として実弾的に出せる作品はどういうものなのかを、できるだけ広い分野で把握するためでもあるんです」。

新しくなったキービジュアル
昨年の応募より、新しくなったキービジュアル。線を表現において原初的なものととらえ、手描きからデジタルまで、多様な質感の線を重ねたデザイン。既存の手法や形式に留まらないメディア芸術の多様な表現のあり方を提示。デザインはアートディレクターの加藤賢策さん(『LABORATORIES』)。

 「文化庁メディア芸術祭における創作の潮流を、私は樹形図のように捉えています。木が育つ時のようなイメージに近い。この樹形図には3つの“枝”があります。コンテクスト、ストーリー、ナラティヴ。まずコンテクストとは、1960年代からのアートの文脈を踏まえているかということ。アート部門はここになります。作品の特徴としても、昔どなたかがつくられていたものへのオマージュや2次的、3次的に影響を受けてつくられたものもあります。そのオマージュがオリジナルを上回っていれば評価されるべきですが、そうでないものは評価の対象にはならない。2つ目のストーリーとは始点と終点のある物語のこと。これはマンガとアニメーション部門です。作り方や描いているものにおいて、そう大きな変化は起こらない。大きな分岐点はすでに通過しているので、“枝”はきれいに伸びていて、突然“芽”の生えるようなことは極めて少ない。そして3つ目のナラティヴは始点と終点のない物語のことで、エンターテインメント部門に該当します。ストーリーよりもより自由に一人ひとりが主体となっていますが、オーディエンスの反応を考えた、対外的に発散していくものでないと作品として成立しません。表現方法もゲーム、映像・音響作品、空間表現、ガジェット、ウェブ、アプリケーションなどがありますが、文脈を無視したような、空中から“芽”の生えたような作品も登場しています。またそんな作品を観るとインスピレーションを受ける人たちもいますし、それをきっかけに表現を始める人も増えていきます」と、審査委員が芽を見出し、波及力のある作品を引き上げる重要性にも言及する。
 「現在の文化庁メディア芸術祭を状態論だとするならば、これからは『この状態から、どう進むべきか』を提案するようになると、文化がどう創られてきているのかではなく、文化をこれからどう創るのかに触れることができるフェスティバルになるのかもしれません」と、齋藤精一さんは、未来志向のフェスティバルを示唆していた。

*1 佐々木智也さんとムハマド・ヤメン・サライジさんによる、「新たな腕」を増やすというというコンセプトの作品。2018年の「第21回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門新人賞を受賞。バックパックを背負うように装着する2本のロボットアームを、足の動きと関連づけてその先にあるロボットハンドを共に自在に操るというガジェット作品。この連載では第4回(2019年1月号)にて、詳しく紹介。

*2 自動着色を可能にする支援プラットフォームで、エンジニアの米辻泰山さんが開発した。日本のマンガが歴史的に見て、モノクロ中心の出版事情下で発達したこともあり、アマチュアのイラスト描きにとって、色を塗ることは最もハードルの高い作業。その工程を手助けすることが、遊びに近い落書きのようなイラストにさえも生命を宿すことになる。

齋藤精一
さいとう・せいいち
1975年、神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後『ArnellGroup』にてクリエイティブとして活動し、03年の「越後妻有トリエンナーレ」でアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。帰国後はフリーランスのクリエイティヴとして活動し、06年に『ライゾマティクス』を設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティヴの作品を多数つくり続けている。09年より国内外の広告賞にて多数受賞。現在、『ライゾマティクス』代表取締役、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。13年D&AD Digital Design 部門審査員、14年カンヌ国際広告賞 Branded Content and Entertainment 部門審査員。15年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2017年度審査員、2018年度審査副委員長。

文化庁メディア芸術祭について

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。平成9年度(1997年)の開催以来、受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展を開催している。「第22回文化庁メディア芸術祭」受賞作品展は、2019年6月1日〜6月16日まで。会場は東京・お台場の日本科学未来館ほか。www.j-mediaarts.jp

text by Naoko Inoue (SOTOKOTO)

本記事は雑誌ソトコト2019年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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