ぼくは“オトウサン”になりたいのか?
2019.12.17 UP

連載 | ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ | 38 ぼくは“オトウサン”になりたいのか?

DIVERSITY

 先日、仲よくしてもらっている先輩宅にお邪魔して、食事をした。先輩にはまだ小さなお子さんがいて、その日もテーブルの周りを元気に行き来していた。あっちに行ったり、こっちに行ったり。その姿は柔らかく、まるでころがるマシュマロみたいで、信じられないほどかわいかった。時々座り込んだ拍子にぼくのほうを見てくれたけど、近寄ろうとすると逃げられる。それがまたかわいい。仲良くなれるのには、あとどれくらいかかるだろう。僕は、これからの成長に想いを馳せて、楽しい気持ちになった。

 先輩とお子さんは、血がつながっていない。だけど、二人のやりとりは親子のそれ以外に言い表しようがなく、もっと言えば顔もどこか似ている気がした(先輩も「似てきた」と言っていた)。僕はこの日、思い切って「血がつながっていないこと、気にならないですか?」と聞いたのだが、まるで天気について聞かれたかのような軽さで「まったく気にならないね〜!」と返された。そして、「それより」と言わんばかりに、用意してくれたおつまみについて熱心に説明してくれたあと、「家族の中でも、自分に一番なついてくれてるんだよ」と教えてくれた。

 僕はその話を聞いて、なんだか急に自分も実感がわいて、子どもが欲しくなった。自分にとってロールモデルのような先輩が心の底から幸せそうに、お子さんと戯れているのをみていると、むくむくと沸き上がってくるような希望があった。

 とはいえ僕は、「いつか子どもをもって」ということを想像せずに思春期を終えてしまっている身だ。これまでの人生の意思決定はすべて自分ひとり、あるいはパートナーと2人、というユニットを想定してきた。だから今更、本当に欲しいと思っているのか、これからしっかり見極めないとなとも思った。

 そんなわけで気長にどうしたいか考えようと思ったのだが、ふと友人女性・Nの一言を思い出し、そうもしていられないなと気づいた。彼女は僕同様にセクシュアルマイノリティと呼ばれる人間で、僕たちは先の人生、僕と彼女と僕の恋人と3人で家族としてやっていこうと話している。思い出したのは、彼女が言っていた「体外受精とかもあるしさ!」という一言だ。授かりものなのでどうなるかは当然わからないが、本当に子どもを持つなら、子づくりにチャレンジしてみてもいいんじゃないかと思った。そうなると共に30代に突入した今、妊娠適齢期は意識したい。そう焦ってきたのだった。

 しかし、問題は山積みだ。まず僕らは、誰と誰が婚姻関係を結ぶといいのだろうか。僕と恋人とは、婚姻関係に並行してパートナーシップ証明書を取得していいのだろうか。それ以外にも、どんな公正証書や契約書、誓約書を作ることになるのだろう。僕らには3つの実家ができることになるが、6人のお父さん・お母さんは、僕らの関係性を受け入れてくれるのだろうか、そんなことを考えた。

 あと僕は“オトウサン”になれるのだろうか? と思った。もちろん“オトウサン”に決められた形などないことはわかっているし、自分らしいスタイルを作ればいいのだと分かってはいるが、“オトウサン”というフォーマットが自分にはしっくりこない。当然“オカアサン”も違う。なら、なんなんだ!? と混乱してくる。パパとか呼び名を変えれば解決するのだろうか、いやもういっそのこと、リーダーとかのほうがいいのだろうか……。

 こういうことを考え出すと、身の回りに先行事例がないのはやはり大変なことだなと思った。僕は「次世代のために、自分が!」みたいな気持ちは、面倒くさそうで毛頭ないのだが、これに関しては先行事例になるしかならないのだろうし、重い腰を上げて頑張っていこうと思っている。

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文・太田尚樹
イラスト・井上 涼

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。