さあ、自然を感動しに行こう。「FORESTIVAL」という、身近な宝物を見つめる一日。
2019.12.17 UP

さあ、自然を感動しに行こう。「FORESTIVAL」という、身近な宝物を見つめる一日。

LOCAL

自然のなかで思いっきり遊んだのはいつだろう……。自然の近くで暮らしていても、自然との距離が遠くなってしまっている状況をどうにか変えたいという気持ちから、福井県大野市で開催されたイベント、「FORESTIVAL」。自然を身近に感じる一日に。

 広大な大野盆地に降った雨やこれを囲むようにそびえ立つ山々に降り積もった雪などが地中にゆっくりと染み込み、時間をかけてまちまで流れてきた水。口に含むとすぐに、その軟らかさに気づく。そんな自然に恵まれた福井県大野市だが、まちと里の暮らしに距離を感じている人がいた。この「FORESTIVAL」(以下フォレスティバル)を思い付き、実行委員会を立ち上げた長谷川和俊さんだ。

森への入り口を感じさせるお手製の看板。細部にもこだわりが見える。
森への入り口を感じさせるお手製の看板。細部にもこだわりが見える。

 同市の出身のデザイナーで、クリエイティブユニット『HASHU』として市内の中心部にコミュニティスペースをつくったり、市内の生産者や作り手を紹介したりと市内の中心部(以下まち)に活気を呼び戻す取り組みに力を入れてきた。しかし、里山で自然教育活動を行う『まんまるサイト』の坂本均さん、同じく『HASHU』のメンバーで同市内の里に暮らす高見瑛美さんの声を聞いて、まちへの思いが今度は里に向いてきたという。

「FORESTIVAL」の発起人・長谷川和俊さん。当日は撮影も担当。
「FORESTIVAL」の発起人・長谷川和俊さん。当日は撮影も担当。

 約16年前に大野の自然を気に入って大分県から移住した坂本さんは、子ども対象の森遊びやキャンプなどを実施するほか、同市にある「六呂師高原」の一角にある「奥越高原ふるさと自然公園」の管理も引き受けている。「園内のミニ動物園を訪れたり、芝生で遊んだりする家族連れがいるくらいで、ここの豊かな自然はあまり知られていません」と坂本さん。また、高見さんは里で暮らす人々が高齢化し、祭りや神楽などの伝統行事の存続が危ぶまれている事態に焦りを感じているという。「里からにぎわいがなくなると、私の大好きな山が荒れてしまう。共感してくれる人を増やして、山を一緒に守れたらと思い続けています」と高見さん。

広大な大野平野とそれを囲む山々。ここからおいしい水が生まれる。
広大な大野平野とそれを囲む山々。ここからおいしい水が生まれる。

 アウトドアが好きな長谷川さんもまた、自身の思いが自然に向いてきたタイミングだった。「まちで活動するプレーヤーは増えてきたので、今度はまちと里をつなぐアクションを起こすことができたらと思い始めました」。まずは、まちで暮らす人にも気軽にこの公園に足を運んでもらい、大野の自然に関心を持つ第一歩になれば。かつて音楽フェスを企画したときのように原点に立ち返り、純粋に自分が好きで思いっきり楽しめるイベントをやってみようと、アウトドア仲間や自分の思いに賛同してくれそうな仲間に声をかけ、フォレスティバルの実行委員会が結成されたのだった。

自分たちが楽しむだけでなく、自然を守る気持ちを伝えていた。
自分たちが楽しむだけでなく、自然を守る気持ちを伝えていた。

自然にひかれてしまう、そんな仕掛けをさりげなく。

 2019年11月10日、フォレスティバル当日を迎え、入り口に「FORESTIVAL」の木製の手作り文字が掲げられた森のほか、芝生エリア、管理棟、さらにその周辺の森が会場に。食べ物や飲み物、雑貨、本などの販売、自然を体験できるワークショップのために出店者の自前のテントが立てられ、オリジナルのタペストリーや店ごとの看板があちこちに並んだ。その何かが始まりそうな雰囲気に続々と人が集まり、前日までは静かだった公園が一日にして息を吹き返した。

「FORESTIVAL」の文字の下で記念写真を撮る人多数。自然と笑顔に。
「FORESTIVAL」の文字の下で記念写真を撮る人多数。自然と笑顔に。

 出店者の2割は地元・大野市内からだが、そのほかは福井県内各所から。アウトドアはハードルが高いと思ってしまう人でも、おいしさやデザインにひかれて、気づいてみたら自然とつながっていた。そんな“無意識の魔法”をかけることができる、選りすぐりの出店者に集まってもらったのだった。素材そのものの味わいを感じられるお菓子やパン、大野の水に合うように焙煎されたコーヒー、大野の家具職人による木のカッティングボード、自然を深く知る本など、ジャンルが異なっても違和感がなく、どれに対しても心地よさを感じる不思議な空間が生まれていた。

出展者が好きな場所でひらく、森の中のマーケットエリア。
出展者が好きな場所でひらく、森の中のマーケットエリア。

 また、屋外で開催されていたワークショップは、火おこし、草木染、真鍮のスプーンづくりなど、自然への気づきや楽しさを誘ってくれるものばかり。火おこしのワークショプでは、親子やカップルがファイヤースターターを使って着火し、だんだんと大きくなっていく火に夢中になっていた。よく見ると、各焚き火台の下には鉄板が敷かれており、「坂本さんから土の中の微生物を守るために、熱を土に伝えないよう厚い鉄板を敷くことを教えてもらいました」と長谷川さん。自然に負荷をかけずに、自然の中で過ごす。そんな大事なメッセージも忘れずに伝えていた。

この場にあるものだけで火をつける方法を学ぶ、ワークショップ。
この場にあるものだけで火をつける方法を学ぶ、ワークショップ。

 また、管理棟内には、『HASHU』のショップや「かける食堂」、狩猟をするときの持ち物の展示などが。大野で作られた食品の販売と生産者へのインタビューの様子がモニターに映し出されたり、大野と福井県・若狭町のシェフがそれぞれの地域の食材を使い、新たな視点で手を加えた料理が提供されたり。五感を刺激される食のプレゼンテーションに、足を止めて画像に見入る人、実際に味を確かめてお腹も心も満たす人がそれぞれの時間を過ごしていた。

『HASHU』の公式ストアの一角では、古民家にあった古道具も販売。
『HASHU』の公式ストアの一角では、古民家にあった古道具も販売。

楽しかった思い出が、自然へのつながりを求めていく。

 高見さんは、山で拾ったヤマグルミ、地元でとれたハチミツを使った豆乳ラテや、山のクロモジのほうじ茶を販売していた。「何かしら山のことを伝えることがしたくて。自然との関わり方は人それぞれなので、自分に合ったものを見つけてもらえたら」。そんな思いでサーブされたラテからクルミのワイルドさを感じる香りが立ち上がり、自分の中で眠っていた感覚が呼び覚まされた。そんな体験に気持ちの高ぶりを感じたのは、ひとりではなかったはず。日常に戻り、この感覚を時折思い出すことになる予感がした。

心地よい食を求めて多くの人が集まり、テーブルは朝からいっぱいに。
心地よい食を求めて多くの人が集まり、テーブルは朝からいっぱいに。

 実行委員会のメンバーはもちろん、出店者の思いが詰まったこのイベントには、約2000人が来場して、笑顔があふれる一日になった。初めての試みに長谷川さんは終始忙しく会場内を走り回っていたが、「今度は自分がお客さんとして参加したいですね(笑)」と冗談を言いながら、自然を気負いなく身近に感じてもらうこのイベントに手応えを得ていた様子だった。

 多くの人の心に何かを残したこの一日が、自然を思う“二歩目”をつくっていくに違いない。

実行委員と出店者らで記念ショット。充実感にあふれている。
実行委員と出店者らで記念ショット。充実感にあふれている。

 

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Kazutoshi Hasegawa
text by Mari Kubota