フランスで出会った『河の生活者』
2019.12.22 UP

連載 | 森の生活からみる未来 | 69 フランスで出会った『河の生活者』

SUSTAINABILITY

 ニュージーランドでの森の生活をベースにしつつ、ぼくが毎年恒例にしている、もうひとつのライフスタイル、「移動生活」。今年は1か月半かけて、欧州を中心に9か国17都市を訪れた。その旅からの帰国直後にこの原稿を書いている。

 ぼくが言う移動生活とは、単なる観光地めぐりをするような旅ではなく、「旅そのものが仕事」であり、「旅するように暮らし、働く」というスタイルの生き方のこと。

 移動生活にはもうひとつ重要なポイントがある。それは、明快なテーマを掲げること。ぼくは、毎回「オーガニック・ジャーニー」と称して、オーガニックやエシカルといった、サスティナブルな試みが行われている現場を視察、取材している。

 今回の旅も、素晴らしい出合いがたくさんあった。30年近くバイオダイナミクス農法を続けてきたワイナリー、瓶の中で半永久的に生き続ける植物を研究、販売するベンチャー企業、ローカルの有機農家、持続可能な漁法の漁師などで構成されるファーマーズマーケットなど。

 中でも印象的だったのが「河の生活者」だ。パリから高速鉄道で南西部へ1時間半ほど行った場所にある、小さな町・ルトワイユの「河」に暮らす夫婦のこと。

 彼らの家は、ゆったりと流れる大河、ロワール河に浮かぶ古くて長いボート。基本、移動はせず、そのボートを中州に係留したままにして生活している。

 彼らとの初遭遇は夜だった。彼らがディナーに招待したいので、河原で待っててほしいと言われ、外灯もない真っ暗闇のなかドキドキしながら待っていると、向こうから小さな灯りがこちらにやってくる。

 その正体は小舟。長い棒で川底を突きながら、それを操るのはビル。身長190センチ近くある、元・パティシエのイケメンだ。

左から、パリから合流してきた友人・アドリアン、河の生活者・ビル、ぼく。
左から、パリから合流してきた友人・アドリアン、河の生活者・ビル、ぼく。

 数分ほどで、彼らが暮らす本船に到着。何年もかけて自分たちでリノベーションしてきたという船の中は、外観以上に広かった。ぼくがニュージーランドのビーチキャンプ場に置きっ放しにしている、キャンピングトレーラーを思い出す。

 オーブン、コンロ、食器棚など必要なものすべてが揃うキッチンの前に、前菜とワイングラスがていねいに並べられたテーブル。キッチン奥には、ものスゴい数の瓶。ざっと数えても100以上。見つけるなり質問すると、「よくぞ聞いてくれた!」と、奥さんのマリアの眼が光り、うれしそうに答えてくれる。

 フランス式の保存食とのことで、冷蔵庫を使わないようにするための工夫を重ねていたら、代々伝わる伝統的な方法に行き着いたという。ぼくも、森の生活を送るうちに、まったく同じ結論、「日本の伝統保存食」に至ったという話をしたら、彼らはとてもうれしそうな顔をした。

 ほとんど使わないという電力は天井に張られたソーラーパネルでまかなわれ、トイレは「おがくず式」のバイオタイプ。河で大きな魚を釣り、小魚を網で獲り、野菜はすべて、陸にある彼らのオーガニック菜園のもの。そのほかもすべて地元産のオーガニックだという。

 水に浮かぶ船上で、有機ワインと有機食材を一緒にいただきながら、自然環境への想い、食料リテラシー、生活哲学について語っているうちに、完全に打ち解けていた。

 別れぎわ、感謝の気持ちを伝えながら握手を交わした瞬間、人種も国籍も、見た目も違うが、お互いを心から認め合えたのがわかった。

 持続可能なライフスタイルを目指す者同士だけが築ける、この特別な「友情」。これは世界どこへ行っても得られる感覚であり、未来への希望でもある。これを求めて、ぼくは移動生活を続けるのである。

記事は雑誌ソトコト2018年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

写真・文●四角大輔

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四角大輔

よすみ・だいすけ
ニュージーランドの湖で半自給自足の持続可能な、森の生活を営む執筆家。フライフィッシング冒険、世界でのオーガニックジャーニー、アーティスト育成をライフワークとし、会員制コミュニティ『Lifestyle Design Camp』学長、複数の企業の役員やブランドアドバイザーを務める。レコード会社プロデューサー時代に7度のミリオンヒットを創出。好評発売中の新刊『人生やらなくていいリスト』では、ストレス社会となった日本で、自分自身を守り抜き、軽やかに働き、自分らしく生きるために必須の「ミニマム仕事術」と世界一簡単な「人生デザイン学」を公開している。増刷を重ね、現在4刷。