まちを楽しむきっかけをデザイン。『かかみがはら暮らし委員会』が願うもの。
2019.12.22 UP

まちを楽しむきっかけをデザイン。『かかみがはら暮らし委員会』が願うもの。

DIVERSITY

美容師、ライフスタイルショップ店主、飲食店店主、工務店社長の4人の理事と、その理念に共感する委員が現在40人ほど、さらに、活動に関わったり、参加する人は数え切れないほど大勢!
『かかみがはら暮らし委員会』は日常と非日常をデザインし、まちを楽しむ人を増やしています。

知られていなかった公園を、人が集まる交流の場に。

 岐阜県各務原市にある市民公園「学びの森」の周辺で年に1回、「マーケット日和」という市主催のイベントが開かれている。飲食や雑貨など数多くの店舗が軒を連ね、約4万人もの来場者が訪れる各務原の人気イベントだ。

 企画・運営に携わっている『かかみがはら暮らし委員会』代表理事の長縄尚史さんは、11月に開催された第6回の「マーケット日和」を無事に終え、安堵の溜め息をついていた。

「学びの森」でくつろぐ長縄さん。
「学びの森」でくつろぐ長縄さん。

 2013年から始まった「マーケット日和」は第2回の開催を前に、「民間のアイデアやノウハウを活用したい」と市が企画運営委員を募り、美容室を営む長縄さんに依頼。以前に音楽イベントを開いたり、地域発信型映画に関わった経験が買われたようだ。長縄さんはライフスタイルショップ『長月』を営む尾関加奈子さんを誘い、同様に依頼された岐阜市・柳ヶ瀬商店街の飲食店『ティダティダ』の水野陽子さんと夫の水野幸仁さんと合流。さらに、岐阜市のデザイン会社『リトルクリエイティブセンター』代表の今尾真也さんを加えた5人が実行委員会に入り、企画運営を担当することになった。

 ただ、会場の「学びの森」は、市民に広く知られた公園ではなかった。「『マーケット日和』の開催日だけでなく、日常的に公園に人が集まるように」と長縄さんらは公園の隅に佇むガラス張りの建物に目をつけ、その活用方法を市に提案。公募によって選出されると建物の内装をリノベーションし、『KAKAMIGAHARA STAND』という交流・発信拠点となるカフェ&スペースをオープンさせた。その運営のために『かかみがはら暮らし委員会』を設立し、先の5人が理事に就いた。

岐阜大学農学部の農場跡地を整備した「学びの森」。
岐阜大学農学部の農場跡地を整備した「学びの森」。

 『KAKAMIGAHARA STAND』が評判となり、「マーケット日和」も回を重ねるなかで、「学びの森」は「おもしろそうな場所」として市民に親しまれ、人が集まる場になっていった。「散歩をする人、犬と遊ぶ人、テントを張ってくつろぐ人。以前はこういう風景はありませんでした。気持ちいいです!」と、長縄さんは芝生に腰を下ろし、変わってきた公園の姿を見渡した。

市から建物を借りて運営しているカフェ&スペース『KAKAMIGAHARA STAND』。家賃は警備費を含めて月に5万円ほど。
市から建物を借りて運営しているカフェ&スペース『KAKAMIGAHARA STAND』。家賃は警備費を含めて月に5万円ほど。

「寄り合い」から生まれる、ユニークなコミュニティ。

 『KAKAMIGAHARA STAND』はカフェであり、人が交流し、まちの魅力を発信する拠点でもある。『かかみがはら暮らし委員会』が月に1回催すイベント「寄り合い」もその一つだ。「テーマもゴールも決めず、誰が来て、何を話してもいいオープンな場で、その日集まった人たちが話したいことを話し合います」と説明するのは、最近まで『かかみがはら暮らし委員会』の事務局を担当していた戸高翼さん。「みんなの意見を聞きたいと話をしに来る人がいたり、移住者が友達を見つけに来たり、店を始めた人がつながりを求めて来たり。ファシリテーターの僕でさえ予測不能な方向へ展開するのが『寄り合い』のおもしろいところ。多様な価値観が表出する場です」。

毎月第1水曜19時半から開催される「寄り合い」。2017年から30回以上開かれ、交流のきっかけを生んできた。
毎月第1水曜19時半から開催される「寄り合い」。2017年から30回以上開かれ、交流のきっかけを生んできた。

 「寄り合い」をきっかけに、さまざまな人が『KAKAMIGAHARA STAND』に集まるようになった。互いの共通項を見つけた人同士がより親密なコミュニティをつくることもある。「部活動」もその一つ。今はカメラ部、SAKE部、からだ部、読書部、コーヒー部、銭湯部、カルカソンヌ部があり、年齢も肩書も異なる人たちが楽しく活動している。

 また、『Pin』という新しい団体もこの「寄り合い」をきっかけに生まれた。各務原の人や物、場所を発掘し、そこにPinを打つように新しい価値観を生み出そうと活動を始めている。さらには、戸高さんが預かった迷い猫を、『かかみがはら暮らし委員会』に関わる人たち12人が親となり、お金と愛情を出し合って一緒に育てるという変わったコミュニティも生まれているように、『KAKAMIGAHARA STAND』を拠点にした人々の、ユニークな交流が広がっている。

41人の部員が所属するカメラ部。写真展も開催し、「写ルンです」でファインダーを覗かずに撮った写真の展覧会は好評だった。
41人の部員が所属するカメラ部。写真展も開催し、「写ルンです」でファインダーを覗かずに撮った写真の展覧会は好評だった。

公民連携の相乗効果で、まちを楽しむ人が増える!

 「マーケット日和」は、各務原市との公民連携によるイベントだ。企画、運営、プロモーション、デザインなどは基本的に『かかみがはら暮らし委員会』が、会場の使用許可や警備、事務作業などは市が担っている。「互いにできること、できないことがありますから、役割を分担しながら、共通の価値観を持って進めています」と長縄さんは言う。

11月に開催された「マーケット日和」。芝生にテントを張ってくつろぐ来場者も。
11月に開催された「マーケット日和」。芝生にテントを張ってくつろぐ来場者も。

 尾関さんは、「まちや公園が楽しくなればと毎回、新たな要素や委員会のカラーを加えながら企画運営しています。予算を持つ市としては、『マーケット日和』を開いている魅力的なまちという見え方で各務原を発信したいのでしょう。そんな公民の相乗効果が生まれている気がします」と話す。

 水野幸仁さんも、「そう言えば最近、各務原に移住しようかなという人の話をよく耳にするようになりました。もちろん『マーケット日和』だけが移住の要因ではないでしょうけど」と笑顔で話す。

長縄さん肝いりの企画「森のお食事会」。木の下でランチを味わう。
長縄さん肝いりの企画「森のお食事会」。木の下でランチを味わう。

 『マーケット日和』や『KAKAMIGAHARA STAND』が成功した理由の一つに、長縄さんは、『かかみがはら暮らし委員会』の理事が店や会社の経営者であることを挙げる。「発信方法や見せ方も含めて、常に来場者やお客さんありきで物事を考えている。だから、喜ばれるのだと思います」。ただ、水野陽子さんは、「すべての作業がボランティア。持続的な運営のためにも、少しでも報酬をいただければという気持ちもあります」と本音を語る。

「マーケット日和」の当日、『かかみがはら暮らし委員会』に関わる人たちが集まってくれた。皆さん、ナイス笑顔!
「マーケット日和」の当日、『かかみがはら暮らし委員会』に関わる人たちが集まってくれた。皆さん、ナイス笑顔!

 一方、こんな成果も見られた。18年の「マーケット日和」から出店者には2店舗以上のコラボレーション出店を義務づけているが、「そうすると、応募の前段階から、『どんなコンセプトで、何を、どう販売するか』などコラボ店舗同士が綿密に話し合うことが必要になります。今年もイベント後の打ち上げ中に、『来年はどんなコラボする?』と店主同士が話し合う姿が見られました。『マーケット日和』は年に1日のイベントですが、出店者のそんな思いが1年間続けば、店舗のクオリティも上がり、ひいては各務原の暮らしのクオリティも高まっていくはずです」と長縄さんは喜んだ。

 「学びの森」エリアの認知度や価値を上げ、ほかの公園を活用する際の手本になるようなユニークな活動を展開する『かかみがはら暮らし委員会』。19年2月からは、その体制を整え直した。年5000円の会費を納める会員制に変えたのだ。「理事と委員の結束を強めることで、プロジェクトや事業がより生まれやすくなると考えて」と長縄さん。各務原のまちを楽しむ人がさらに増えることを願っている。

MEMBER INTRODUCTIONS 『かかみがはら暮らし委員会』の仲間たち!

イベントなどの活動情報をSNSで発信!

尾関加奈子さん

尾関加奈子さん

 ライフスタイルショップ『長月』店主で、理事。主にSNSを使って「マーケット日和」や『KAKAMIGAHARA STAND』のイベントの発信を担当している広報部長的存在。

事務局を辞め、今はフリーの立場で関わっています!

戸高 翼さん

戸高 翼さん

 大学卒業後に『かかみがはら暮らし委員会』に就職し2年半、事務局を担当。共同財布アプリ「Gojo」で12人の飼い主から「養育費」を集め、「そば」という名の猫も育てている。

カメラ部を立ち上げ、イベントを行っています!

高田沙織さん

高田沙織さん

 カメラマンで、委員。「寄り合い」で仲よくなったカメラ好きの参加者とともに、部活動第1号となるカメラ部をつくった。「カメラ散歩したり、写真展を開いたり。楽しいです!」。

100パーセント岐阜県産小麦粉の蒸しパンをどうぞ!

清水弥生さん

清水弥生さん

 『KAKAMIGAHARA STAND』店長で、委員。水野陽子さんオリジナルの蒸しパンをアレンジして店舗のキッチンでつくり、販売。これまでに100種類以上も販売してきた。

「学びの森」にあるカフェのメニューを考えました!

水野陽子さん

水野陽子さん

 飲食店『ティダティダ』店主で、理事。「学びの森」にある『KAKAMIGAHARA STAND』のメニューをディレクション。東京にオープンしたカフェ『岐阜ホール』のメニューも監修。

愛着のある「学びの森」を素敵な公園に!

長縄尚史さん

長縄尚史さん

 『hairmake duca』店主で、代表理事。その人らしい髪型にしようと髪を切るのと同じように、どうすれば「学びの森」らしい公園になるかを探りながら、イベントなどを企画している。

子育てのために移住しました。『Pin』で活動中!

楠 拓也さん

楠 拓也さん

 ドライフラワー&絵画教室『siroi』代表で、委員。任意団体『Pin』のメンバーとしても活動。娘の真白ちゃんが生まれ、福岡県糸島市から子育て環境に優れた各務原市へ移住。

公園のカフェにリードフックをつくりました!

水野幸仁さん

水野幸仁さん

 オーダー家具を製作する『ユキヒト工務店』代表で、理事。市の講座「自然体験塾」の特別講座を「かかみがはら暮らし委員会」で請け負い、星空キャンプやジビエ教室を開催している。

メモ帳を片手に、事務局の仕事をがんばります!

杉田映理子さん

杉田映理子さん

 東京で岐阜をPRする『岐阜ホール』を運営するデザイン会社『リトルクリエイティブセンター』の社員で、事務局を担当。理事や委員が活動しやすいよう、制度や仕組みを整える。

お客さんも『委員会』の皆さんも温かい方ばかり!

水野すみれさん

水野すみれさん

 『KAKAMIGAHARA STAND』店員で、委員。水野さん夫妻の娘。今年から「マーケット日和」の運営委員も担当。おすすめのドリンクは、人気ナンバー・ワンの黒糖ほうじ茶ミルク。

コーヒーが大好き。『Pin』のイベントでも出店!

横山裕一さん

横山裕一さん

 大学3年生で、任意団体『Pin』のメンバー。大学を休学し、オーストラリアで1年間修業して学んだコーヒーの知識と技術を生かし、コーヒーショップを経営するのが将来の夢。

トマト農家です。『Pin』の活動で各務原の魅力を発掘!

橋本 涼さん

橋本 涼さん

 『はしもと農園』代表取締役で、委員。任意団体『Pin』のメンバーとして、12月には「クリスマスマーケット」を開催。農園を設立した経験を生かし、起業塾を開催したいと考える。

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui