今川宗一郎さんが仕掛ける、町の歴史を受け継ぎ、新しく始める覚悟。
2019.12.26 UP

今川宗一郎さんが仕掛ける、町の歴史を受け継ぎ、新しく始める覚悟。

PEOPLE

昨今、まるで「日本の『ウユニ塩湖』のようだ」として、年間約30万人が訪れる、香川県三豊市仁尾町にある人気観光地・「父母ヶ浜」で、一軒の小さなコーヒースタンド『宗一郎珈琲』がオープンしました。
実はそれに先立ち、オーナーの今川宗一郎さんは数々の事業を地元で承継。今川さんが地域に寄り添い挑戦を続ける意味、覚悟とは。

地域を支え続けられる会社を目指します!

 香川県三豊市仁尾町で祖父が創業し、現在は父親が代表を務める『スーパー今川』。今川宗一郎さんは、18歳からこのスーパーで働いてきた。転機が訪れたのは24歳になったころ。「町づくりを考える『仁尾まちなみ創造協議会』に呼んでもらったんですけど、地元を思い、頑張っている若手と話して、圧倒的に人として負けていると感じたんです。これって、なんなんやろうって」。それをきっかけに、地元・仁尾町について考える機会が増えていったという今川さん。ちょうど経営指針を考える経営者育成プログラムがあることを知り、今川さんは参加することを決意。

 「半年のプログラムだったんですけど、先輩経営者からボロカス言われて(笑)。でも、そこで『今川くんそんなに、仁尾が、仁尾で、と言うんなら、10分間町についてしゃべってみ』ってなり、とりあえずしゃべったんです。そうしたら『しゃべれるやん、そこになんかあるんちゃうん』って言われて。そうか、自分はこの町のためになにかをやりたいんやなって気づきました。そこから、思考が深く入っていく感じになったんです」

仁尾町の仲間と談笑する今川さん。
仁尾町の仲間と談笑する今川さん。

地域のために事業を引き受ける。

 支えてきたわけではなく、町に、地域に支え続けられてきたのだと気づいた今川さん。家業のスーパーを、日々利用してくれる地域の人々のために恩返しがしたい。「だから、僕がこの町のためにできることなら全部やろう、って考えに思い至ったんです」。

 確固たる決意ができた2014年。が、時を待たずして翌年の1月にタイミングはやってきた。「隣町の、うちと同じような家族経営のお店屋さんが当時、離島を含め60か所くらい移動販売をしていました。めっちゃ働くし、すごく尊敬していて。でも、会社を閉じることになったようで『今川くん、少しでもいいから引き継いでもらえんか』と」。しかし、「想いのバトン」はこれだけではなかった。同年4月にはかき氷店を、6月には蒲鉾店を相次いで事業承継していく。

 「かき氷店があるのは、三豊市・仁尾町の『父母ヶ浜』の近く。オーナーが浜に多くの人が来てほしいと始めた店で、地元を思う気持ちを大切にしたかった」。蒲鉾店は、この町で100年続く老舗。地域の宝であり、『スーパー今川』の看板商品でもあった。「先代がものすごく義理堅い人で、長年の付き合いをとても大事にしてくれた。技術だけでなくて、そういう人らの姿勢、背中も引き継いでいかないといけない。作り方を受け継いだのち、翌年先代が亡くなって悲しかったけど、自分のすべきことも見つかりました」。

『仁尾蒲鉾薫製店』の「天ぷら」。
『仁尾蒲鉾薫製店』の「天ぷら」。

 聞くだけで超多忙な2015年。どれか一つくらいは止めようとは思わなかったのか。「どれも魅力的だったし、今やらんと後悔するなって。あと、こういう大きいチャレンジするときって、周りが助けてくれる。今続けられているのは、写真やデザイン、SNSでの発信など、いろいろな人が応援してくれたおかげなんです」。ちなみに前出の『宗一郎珈琲』の自身の顔を使ったロゴは、ここ数年のご縁で知り合ったプロジェクトデザイナー・古田秘馬さんの紹介によってつながった、地域をよく知るデザイナーによるものだ。

数年前までは賑わいも少なかった「父母ヶ浜」だったが、今ではカフェやレストラン、ゲストハウスなどが立ち並ぶように。
数年前までは賑わいも少なかった「父母ヶ浜」だったが、今ではカフェやレストラン、ゲストハウスなどが立ち並ぶように。

地域と観光客をつなぐコーヒースタンド。

 さて、『宗一郎珈琲』の話。2015年あたりから「インスタ映え」スポットとして徐々に脚光を浴びるようになってきた地元の浜、「父母ヶ浜」。今川さんがカフェをオープンさせた背景には、増大する観光客と大きな関係があった。「観光客が増えれば、いい声も悪い声もあります。渋滞やゴミの問題も出てきます。住んでいる人、来てくれる人、いろんな価値観がある中で、地域と観光客双方が理解し合って、共存することはできないかって模索したのが『宗一郎珈琲』だったんです」。

 カフェでは観光客にマグカップの色を選ばせる。色にはそれぞれに意味があり、観光客が色を選ぶことで、地域の「未来」に関わる仕掛けを施している。赤は「もっときれいな浜になってほしい」、白は「もっとくつろげる場所がほしい」、黒は「夜を楽しむ場所がほしい」、緑は「もっと仁尾町や三豊市を知りたい」、青は「もっと水回りがよくなってほしい」。集計結果は浜を管理する団体と共有し、改善につなげるという。一杯のコーヒーの注文は地域にとっての貴重な一票に。観光客は小さいながらも地域と関わることで、特別な感情が芽生える。「コーヒーを提供したいという気持ちよりも、観光客とコミュニケーションを取りたかった。観光客から関係者へっていうか、こういうきっかけから、30万人が1回来るよりも、3万人が10回来るような土地になればいいなって」。

『宗一郎珈琲』のマグカップ。
『宗一郎珈琲』のマグカップ。

 そして店では紙やプラスチックではなく、マグカップの容器でコーヒーを提供する。もちろんこれは環境への配慮からなのだが、それ以上に、「父母ヶ浜」を守ってきた地域の先達への敬意がある。「今から20年以上前、地元で企業誘致の話が持ち上がり、浜が埋め立てられそうになったことがあるのですが、地域の美しい海を後世に残したいと僕らのずっと上の先輩たちが声をあげ、浜の清掃を開始し、その活動は今も継続しているんです。それくらい、ここは地域のみんなにとって大切な海。そういうストーリーも、お客さんとの対話の中で伝えていけたら」。

 地元で複数の事業承継、新規事業着手など、八面六臂の活躍を続ける今川さん。最後に、今川さんに今後の展開を聞いてみた。

 「今は目の前のことに集中するだけ。ただ、自分は今33歳で、最近よく思うのは、40歳になったときに、次の世代へ出資などの応援ができるようになりたい。この風景、そして日常を守っていくこと、そして先輩たちの姿勢を受け継ぐのも大切だけど、それを次の世代に渡すのも大事。守るために攻める、みたいな感じで、時代に合ったやり方でこの町を進化させていければと思っています」

 近い将来、きっと今度は今川さんの背中を見て育った若者が、地域の未来を考え、行動していくのだろう。

「めっちゃ恥ずかしいですよね、このイラストロゴ!」と照れ笑いする今川さん。
「めっちゃ恥ずかしいですよね、このイラストロゴ!」と照れ笑いする今川さん。

PROJECT INTRODUCTIONS 今川さんが地元で取り組む事業の数々

スーパー今川

スーパー今川

 地元食材、さらには地域で愛されているパンなど、「地元」にフォーカスした商材を数多く扱う。多彩に揃う惣菜も自社キッチンで調理したもの。『移動販売サンサンマーケット』『仁尾蒲鉾謹製店』『KAKIGORI CAFE ひむろ』含め、『今川』の事業として運営する。

移動販売サンサンマーケット

移動販売サンサンマーケット

 買い物が困難なお年寄りが暮らす地区や離島などを隔週で回る。「地域のインフラに近いもの。続けられるようがんばりたい」と今川さん。

仁尾蒲鉾謹製店

仁尾蒲鉾謹製店

 地元の人を中心に絶大な支持を集めていた老舗蒲鉾店『さるしや』の事業を承継。油で揚げる「天ぷら」と、成型して蒸し上げる「くずし」の2種。

KAKIGORI CAFE ひむろ

KAKIGORI CAFE ひむろ

 三豊産の新鮮なフルーツを使ったかき氷カフェ。売り上げの一部が「父母ヶ浜」の環境保護活動に使われる「もったいない氷」なども。

宗一郎珈琲

宗一郎珈琲

 観光客と地元をつなげることがミッションのコーヒースタンド。開業と同時に今川さんが立ち上げ代表取締役を務める『ウルトラ今川』の事業として運営。14時くらいから日没まで営業。不定休。コーヒー450円、ラテ550円。

記事は雑誌ソトコト2020年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs & text by Yuki Inui