レイクカルチャー❷ 湖一番の釣り人
2020.01.04 UP

連載 | 森の生活からみる未来 | 66 レイクカルチャー❷ 湖一番の釣り人

SUSTAINABILITY

 ぼくが森の生活を営む、ここニュージーランドの湖に暮らす、ラブリーで少しおかしな仲間たちを紹介するシリーズ。今回は、60歳を超える米国人、そしてこの湖一番の釣り名人・テッドについて。

 「釣り」が理由で、ぼくがこの国のこの場所に移住してきたことは、これまで何度か書いてきたとおり。

 ご存じのように、釣りには無数のジャンルが存在する。釣り場だけをとっても、海、湖、池、沼、河口付近の川、中流域の大河、渓流域、源流域と、挙げはじめたらキリがない。

 釣法にも、「生のエサ」を使う釣りと、エサを模して人間が作る「疑似餌」を使う釣りがある。

 さらに、それぞれに多種多様ある。「エサ釣り」で言うと、生きたもの、死んだもの、加工したものが。

 「疑似餌釣り」には、それぞれの国に固有の手法があり、さらに細分化されていく。木を使ったもの、プラスティックを使ったもの、鳥の羽を使ったものなど、ここのカテゴリーに関しては、文字どおり“無数”に存在する。そして、ぼくをこの地まで導いた釣りは、ズバリ「レイク・フライフィッシング」。

 まず、フライフィッシングを簡単に解説しよう。「疑似餌釣り」のひとつで、その中でも、主に鳥の羽を使って「フライ」と呼ばれる「毛バリ」を、自身の手で作るという、英国で生まれ、米国で発展を遂げた、西洋の伝統的な釣り方のひとつ。

 さらに、このフライフィッシングにも、いくつかの流儀があり、ぼくが偏愛してきたのは、湖でのフライフィッシング。実はこれ、かなりマニアックなもので、まったく同じ嗜好を持つ釣り人には、なかなか出会えない。我が人生でも、ぼくと同じくらいこの釣りを愛している人と出会ったのは、わずか3、4人。その一人が、前述のテッドなのだ。

 彼がここの湖にいるのは、春から秋にかけて。それ以外の期間は、米国の東海岸メイン州の、湖の畔に暮らしている。つまり、いい季節ごとに移動しながら、一年を通して湖畔で生活していることになる。

 これまで、ぼくほどの「湖マニア」には会ったことがないが、彼こそが唯一、ぼくと“タメを張る”か、それ以上の湖マニア。そんな愛しき「ヘンジン」と出会え、仲間になれることも、ここのレイクカルチャーの魅力なのだ。

湖畔の集落で頻繁に行われる、各自お酒と料理を持ち寄るカジュアルな小パーティ。黄色いベストの男性がテッド。
湖畔の集落で頻繁に行われる、各自お酒と料理を持ち寄るカジュアルな小パーティ。黄色いベストの男性がテッド。

 そしてフライフィッシングのプロとしての顔を持ち、自分なりに湖でのフライフィッシングを究めてきたぼくは、ここの集落でも「ダイスケは釣りがうまい」と評されることが多いが、テッドには敵わない。

 彼は「釣り名人」以外にも、「朝7時の男」という称号も得ている。彼は毎朝7時にボートを出し、いつものお気に入りエリアへ向かい、お昼前には戻ってくる。悪天候か、彼が二日酔いの日以外は、必ずぼくの自宅テラスからこの時間、彼のボートを目撃することができる。

 とにかく彼はたくさん釣る。その理由として、「この湖を知り尽くしている」、「釣りの技術が高い」、「経験豊富」、そして彼が作る「毛バリが美しい」ことが挙げられる。

 テッドには、もうひとつの趣味がある。それは、ビールを造ること。ぼくはビールは飲めないのだが、彼が無類の酒好きなうえに、手先が器用なためか、彼の造るビールは飲めるのである。そんな彼と話すのは90パーセント近くが湖上だが、そういった理由もあって、彼とは陸上で杯を交わす機会も意外に多いことに、この原稿を書いていて気づいた。

 今は冬で彼はいない。彼と釣り談議ができる春が待ち遠しい。

記事は雑誌ソトコト2017年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

写真・文●四角大輔

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四角大輔

よすみ・だいすけ
ニュージーランドの湖で半自給自足の持続可能な、森の生活を営む執筆家。フライフィッシング冒険、世界でのオーガニックジャーニー、アーティスト育成をライフワークとし、会員制コミュニティ『Lifestyle Design Camp』学長、複数の企業の役員やブランドアドバイザーを務める。レコード会社プロデューサー時代に7度のミリオンヒットを創出。好評発売中の新刊『人生やらなくていいリスト』では、ストレス社会となった日本で、自分自身を守り抜き、軽やかに働き、自分らしく生きるために必須の「ミニマム仕事術」と世界一簡単な「人生デザイン学」を公開している。増刷を重ね、現在4刷。