徳谷柿次郎
2020.01.05 UP

連載 | やってこ! 実践人口論 | 8 浅瀬で溺れて、価値をつかむ

SUSTAINABILITY

「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。
「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。
地域のための場づくり「やってこ!」は、誰かがやらないといけない。

 私が長野と東京の二拠点生活をしながら、唯一長野で実践しているのが店舗運営です。2018年4月末にオープンした『やってこ!シンカイ』は、善光寺の東参道に構える築120年の古民家。元は『シンカイ金物店』として、昭和を生きる人々の暮らしを支えてきました。

 時代は移り変わり、日用品はスーパーやホームセンターで手に入れることが当たり前に……。そしてひっそりと暖簾を下ろしたわけです。しかし全国のあらゆる世代が行き交ったこの場所は、今でも学校や会社の通勤路ということもあって「昔から知っています」と声をかけられることも珍しくありません。

 だからこそ「場の編集」として、これまでのストーリーと共に老若男女+全国のプレイヤーたちが行き交うようなお店にできるはずだと思いました。1階は服や雑貨などのセレクトショップ。週末はトークイベントやワークショップもやります。また、「月額定額制で店舗運営はできないのか?」と新たな価値観で店舗運営をする「お店2.0」を提案してみたり、夏の京都の打ち水に対抗して白湯(コスト0円!)を配る営業活動「冬の信州の白湯配り」を1か月続けてみたり……。手を替え品を替え、新たなお店の価値提案を“実践”してきました。が、1周年を迎えた今の結論をいえば「店舗運営は超難しい」の一言に尽きます。

お店は赤字運営でも楽しい。

 赤字です。さらっと書きましたが、『やってこ!シンカイ』は赤字で営業しています。クラウドファンディングでご支援いただいた費用を活用しつつ、人件費、家賃、光熱費、モノの仕入れなどを行っていますが、利益確保のあり方に四苦八苦。

 小売りの仕組みを最大限生かすのであれば、魅力的な商品をどんどん買い取る。「シンカイ」らしい独自商品を開発して全国展開する。在庫=資産ととらえた“ストロングスタイル”もありかもしれません。

 ただ、設備投資をしていない古民家というハード面の限界もあって、こっちの路線に振り切るためには資金投資が必要……。100万円以上かかる水道工事をして飲食店に切り替えるのもなんだか違うし。モヤモヤ思考していると訪れるのが「もし投資して失敗したらどうしよう?」というビッグマニーの恐怖です。

 世の中のお店はこんな感情と日々闘っているんだなと、リスペクトの気持ちがとめどなくあふれてきます。正直、この視点を経験できただけでも儲けものかもしれません。赤字といえども、目に見えない人との出会いや挑戦しなければ気づけない体験の連続に「ありがてえ、ありがてえ」と手を擦り合わせる日々です。そんな中でも「場の編集」に惹かれる理由、そこには「人との出会い」が大きくあるんだと思います。

「場の編集」は2年目へ

 苦しくても人との出会いをより加速させて、実業的な仕事を生み出す。欲張りですが、楽しく稼ぐのが一番!  というわけで、全国47都道府県を見てきた視点と経験を生かすべく、3つの新展開を考えました。

 1.メディア/長野県についてのフリーマガジンを立ち上げる。2.事業開発/企業ブランディングや食の商品開発をする。3.教育/刺激に飢えた若者を育てる私塾的なものの設立です。

 「場の編集」として『やってこ!シンカイ』は、お店と離れた場所で新たな価値を創出します。それは私自身、会社組織としても必要なことですし、広義の編集者として活躍するために通らざるを得ない道でもある。あらゆる方向に種を蒔いて、いつか芽吹くその日を待つ。その芽吹いた価値をリアル店舗で展開し、「場の編集」としての可能性をより外に打ち出すしか手はありません。要はもっともっと実践する! 失敗してもいいから全部やるしかない!

 2019年4月27日、この日はお店の一周年記念マーケットをやります。これまでカオス的に積み上げてきた価値と実践主義者の集いが、思いもよらぬ何かを生み出す可能性大。改元直前の大きな足掻きをぜひ見に来てください。浅瀬で溺れて、価値をつかむ。不安定な時代の中で正解はないからこそ、ぼくたちはやり続けるしかないと思うのです。

記事は雑誌ソトコト2019年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by Huuuu

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徳谷柿次郎

とくたに・かきじろう
1982年生まれ。大阪出身の編集者。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社『Huuuu』の代表取締役。長野と東京の二拠点生活をしながら、どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長として、全国47都道府県を飛び回る。地域特有の課題を情報発信の力でサポートしている。趣味はヒップホップ、温泉 、カレー、コーヒー、民俗学など。