レイクカルチャー❶ 湖上の住人
2020.01.06 UP

連載 | 森の生活からみる未来 | 65 レイクカルチャー❶ 湖上の住人

SUSTAINABILITY

 ぼくが暮らす湖畔の集落は、街からかなり離れた原生林の中にある。

 そんな不便な場所にわざわざ居を構えるのは、愛しき「ヘンジン」たちばかり。「ヘンジン」日本代表のぼくにとっては、世界一居心地がいい場所だ。

 ここには、パーマカルチャー、オーガニック、サスティナビリティ、そして湖マニアといったキーワードで構成される、独特の「レイクカルチャー」がある。今月は、そんな仲間たちを紹介するシリーズをお送りしたい。

 今回は、もっとも湖の近くに住むジェイソンを紹介しよう。湖に近いというより、彼は「湖の上」に住んでいると言ったほうが正しいだろう。

 彼がこの湖に現れたのは、約3年前。ぼくが小さなフィッシングボートで釣りをしているとき、船でしか行けない森の中の野天温泉に行く際、不思議な形をした大型ヨットを頻繁に見かけるようになった。

 というより、100パーセントの確率で出合うのだ。ある日、その船が岸に泊められていたので、静かに近づいてみると、一人の青年がそこにいた。

 「Kia Ora!(キオラ)」という、ニュージーランドの先住民マオリ族の挨拶の言葉を投げかけると、満面の笑みで返事をしてくれた。

 すぐさま湖上でのチャットがスタート。彼の名前はジェイソンと言い、その船で寝泊まりをしているという。つまり、湖の上で暮らしているということだ。ボランティアで森の温泉やトイレの清掃をしたり、事故に遭った船の救助活動をしたり、パートタイムで湖畔キャンプ場の管理や、登山道の整備をして収入を得ているという。

 「何て素晴らしい人生!」と、ぼくは思わず叫んでしまった。

 こういう生活をするのが夢だったこと、小さいころから自然が大好きだったこと、前の仕事はかなり忙しくて、こういった暮らしをすることを夢見ながらがんばったことなど、ぼくとの共通点も多数あり、あっという間に、打ち解けた。

 彼のボートはかなり大型で、船内にはベッド、トイレ、キッチンまである。まさに水域専用の「モバイル・タイニーハウス」。

ジェイソンの家(ボート)は独特だ。小さなエンジンを備えているが、帆を広げればヨットにもなる。
ジェイソンの家(ボート)は独特だ。小さなエンジンを備えているが、帆を広げればヨットにもなる。

 「いいね、いいね!」を連発していると、彼のほうも、ぼくのボートに関する質問を投げてきた。確かに、ぼくの船は釣りのためだけにデザインされた特殊なもの。特にぼくが偏愛するフライフィッシングをやるにはぴったりな形状をしており、向こうも「不思議なボートだな」と思っていたというのだ。

 そうやって、お互いのボートについて語り合うのも、「レイクカルチャー」のしきたりの一つ。

 彼いわく、湧き水ベースだから、ここの湖水は飲めるし、天然温泉もあるから、たまに街に出て食料を調達さえすれば、問題なく暮らせるという。もちろん、通常の家とはまったく勝手が違うし、すべてがコンパクトだから、不便も多いだろう。

 だがここには、何にも代え難い、豊かな大自然が存在する。

 純度100パーセントの原生林が取り囲み、足下には圧倒的に透明な湖が、夜に空を見上げれば満天に星が広がる。

 「君は世界でもっとも美しい場所に住んでいることになるね!」と、思わず感嘆の言葉を告げると、「うん、そうかもしれない」と、彼は照れくさそうにしつつも、「湖の畔に生きる君もね」と返答してきた。

 ふたりして湖へ愛しみの眼を向け、感謝の気持ちを抱きながら、「俺たちはラッキーだね。幸せ者だよな」と、最後はこの、レイクカルチャー族のいつもの言葉をもって、初遭遇の会話を締めくくった。

記事は雑誌ソトコト2017年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

写真・文●四角大輔

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四角大輔

よすみ・だいすけ
ニュージーランドの湖で半自給自足の持続可能な、森の生活を営む執筆家。フライフィッシング冒険、世界でのオーガニックジャーニー、アーティスト育成をライフワークとし、会員制コミュニティ『Lifestyle Design Camp』学長、複数の企業の役員やブランドアドバイザーを務める。レコード会社プロデューサー時代に7度のミリオンヒットを創出。好評発売中の新刊『人生やらなくていいリスト』では、ストレス社会となった日本で、自分自身を守り抜き、軽やかに働き、自分らしく生きるために必須の「ミニマム仕事術」と世界一簡単な「人生デザイン学」を公開している。増刷を重ね、現在4刷。