「レイクカルチャー❸ さすらいのギタリスト」
2019.12.29 UP

連載 | 森の生活からみる未来 | 67 「レイクカルチャー❸ さすらいのギタリスト」

SUSTAINABILITY

 今回は、ぼくが暮らす湖一番のギタリスト、スティーブについて。

 彼は、ぼくの一軒隣に小さな家を持っているが、そこは彼にとって別荘。普段は、ここから車で4時間ほどの、大きな街に暮らしている。

 「別荘」と聞くと、日本では「お金持ちの特権」というイメージがあるが、この国では少し事情が違う。

 相続税がないため、先祖からの土地や家屋を、出費ナシで受け継げる。それが街にあれば、リノベーションして自宅にし、田舎にあれば、お金をかけず古いまま維持して、親族の別荘として活用。「キーウィ※1式居住スタイル」とも呼べるこのパターン、実はとても多いのである。

 よくあるのが、海や森といった大自然に隣接した場所に、ワンルーム程度の古い掘っ立て小屋を持っているケース。こういった家を彼らは「キーウィ・バッチ※2」と呼ぶ。

 ちなみに、日本は世界的に見て相続税が高い。親から土地や家屋を授かる際、高い相続税が払えないため、それらを泣く泣く売却……というのはよく聞く話。ご先祖からの資産は、3代目ではゼロになると言われていて、日本では残念ながら、このハッピーな「キーウィ式居住スタイル」は不可能なのである。

 スティーブは、プロのギタリスト。バンドの一員として小さなツアーをやったり、彼が住む街の店やイベントでパフォーマンスをしたりしながら生活費を稼いでいる。国民的ミュージシャンという訳ではないから、決して大金持ちではない。

 そんな彼とぼくはすぐに仲良しに。「歳が近い」、「家が徒歩1分圏内」、「彼は湖でのカヤックを、ぼくは湖でのフライフィッシングをこよなく愛している」といった共通点が多くあったからだ。

 そして、もっとも大きかったのは、それぞれの生活と仕事において、音楽が大きな割合を占めてきたこと。彼が現役プレイヤー、ぼくが元・レコード会社プロデューサーという違いはあるが、こんな辺境で、「音楽抜きにはありえない人生」を送ってきた同志に出会えたことが、互いにとって感動だったのだ。

スティーブのギターの内側の印字部分。『ヤイリギター』は、岐阜に工房を持つ小さな楽器メーカー。日本では多数の著名アーティストたちが愛用している。
スティーブのギターの内側の印字部分。『ヤイリギター』は、岐阜に工房を持つ小さな楽器メーカー。日本では多数の著名アーティストたちが愛用している。

 そんな彼は、ある時期から、週末や長期休暇でここに来る度、家に手を加えるようになった。1年近くは、上半身裸で、ペンキだらけで少し破れた作業ズボンというのが彼のユニフォームとなっていた。年季の入った4WDの車の中も上も、いつも作業具や木材が満載。

 「ダイスケ、飲もう!」

 ある日、彼はそう言ってうちにやってきた。改築がついに終わったというのだ。見に行くと、朽ち果てそうだった彼の「キーウィ・バッチ」が真っ白、ピカピカになっていた。「今日からうちはホワイトハウスだ」と、嬉しそうに笑うスティーブ。

 日本から友人が遊びに来ていたこともあり、ご近所さんもお誘いしての小さなパーティをやることに。皆にせがまれて、照れくさそうに演奏する彼のギターに、ぼくはなぜか強烈に惹きつけられた。

 見せてもらうと、そこには「K Yairi」との刻印が。しかも何と「1976年、日本製」とも書いてあった。調べてみると、戦前から岐阜県で木製楽器の製作を始め、今でもハンドメイドで名器を作り続ける『ヤイリギター』の作品だったのだ。

 この奇跡のような巡り合わせに、この夜は何度も乾杯してしまい、二人ともワインを飲みすぎてしまったことは言うまでもない。

 だが次の朝、いつものように森の中から彼の美しいギターの音色が聞こえてきた。湖の際に座り、夜明けと共に独りギターを弾くことが、何よりも好きだという。ぼくにとっても、ここ湖畔の森の生活でもっとも幸せを感じる瞬間の一つだ。

※1 ニュージーランド人は自分たちのことを、国鳥にならい「キーウィ」と呼ぶ。
※2 バッチは「Bach」と書き、辞書には載っていないことが多い。意味は「質素で小さな別荘」。

記事は雑誌ソトコト2017年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

写真・文●四角大輔

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四角大輔

よすみ・だいすけ
ニュージーランドの湖で半自給自足の持続可能な、森の生活を営む執筆家。フライフィッシング冒険、世界でのオーガニックジャーニー、アーティスト育成をライフワークとし、会員制コミュニティ『Lifestyle Design Camp』学長、複数の企業の役員やブランドアドバイザーを務める。レコード会社プロデューサー時代に7度のミリオンヒットを創出。好評発売中の新刊『人生やらなくていいリスト』では、ストレス社会となった日本で、自分自身を守り抜き、軽やかに働き、自分らしく生きるために必須の「ミニマム仕事術」と世界一簡単な「人生デザイン学」を公開している。増刷を重ね、現在4刷。