5Gは人間に問う
2020.01.11 UP

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか | 50 5Gは人間に問う

DIVERSITY

 2020年3月、5Gでの商用サービスが日本国内でも始まる。高速で大容量、低遅延、同時多接続。すでに商用サービスを開始している国は20ほどあり、世界的な注目トレンドだ。5Gの経済効果は約46.8兆円に達するとも予測され、産業を大きく変えることは間違いない。どの産業で? というより、まったく関係しない産業を探すほうが難しい。

 4Gはモバイル端末普及の礎となり、スマートフォンを個人のインフラに育てた。いつでもどこでも、情報、そして人とつながることができるようになり、個人をエンパワーした。5Gの時代は、そこにモノが入り込み、機械やロボット同士がつながる。

 高精細な大量の画像をリアルタイムに送受信できることは、ダウンロードや映像を閲覧する人にとっての恩恵にとどまらない。遠く離れた医師が、医療過疎地の患者に高度な遠隔診療を行う。介護施設ではロボットが見守り役となり、施設内の安全管理の重責を担う。ウェアラブル端末やベッドが血圧や心拍数を計測、医師がタイムリーに個人の健康状態を把握する。ドローンでの救助活動や農場での監視レベルが上がり、危険な工事現場では建設機械が遠隔操作で黙々と建設工事をする。

 5Gが先行しているドイツでは、大手自動車メーカーであるメルセデス・ベンツの新工場(2020年稼働予定)が、ロボットや製造システムを5Gで接続し、組み立てラインのデータ連携や製品追跡などを行う。機械を自動で稼働させるための姿なき血管を大量の情報が駆け巡り、工場革命を起こす5G。工場のロボットにつなげられているケーブルは不要になり、無線で産業用ロボットをコントロールする。デジタルテクノロジーにより製造業のイノベーションを目指す「インダストリー4.0」は加速し、装置が固定化された工場のあり方も様変わりする。配置を柔軟に変更できるケーブルレス工場になる。

 自動運転車が自ら周囲の情報を集めて分析、人間を介さぬ判断で走行する能力を上げる。意思を持っているかのような車が、人間を必要とせずに街を走る未来を近づける。

 テクノロジーにとっての血液やバイパスは通信であり、IoTやAIと一体化することで、自動化、無人化、効率化が一気に進む。「人の目や作業が機械に置き換えられるとは、こういうことなのか」という実感を多くの人が持つことになるだろう。何十年先の未来予想図ではない。数年単位の近い未来にその日は訪れる。機械に任せられる仕事が急増し、人間がすべき仕事の再配分に迫られる。

 「いよいよ人間の仕事をテクノロジーが奪うのか!?」と懸念するまでもなく、向こう40年でおよそ4000万人も人口が減少する可能性がある日本では、そもそも各産業で人手不足が顕著になる。日本においては、置き換えられるというより置き換えないと成り立たないのだ。一方で、人間がなすべき仕事や役割が次第に変わりゆくことは確かだ。

 5G以降は、テクノロジーと同時に人間の仕事や役割の高度化も促し、自動化や無人化は人間の思考のアップグレードを要求する。もっとも、「アップグレードにはつき合っていられない」と、そんな要求には応じない道を選ぶことも個人の自由である。要求を呑むか呑まぬか、5Gは人間に問う。

記事は雑誌ソトコト2020年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文●小川和也

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行いJ-WAVE『FUTURISM』で番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。また、実業と学術を往来し多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)