MITATE
2020.01.17 UP

環境音と電子音や伝承との「織りなし」。

DIVERSITY

 西陣織には黒一色だけの「黒共」と呼ばれる帯がある。光の吸収と光沢の組み合わせの妙。染織作家のむらたちひろさんによると、赤にも青にも寄らない完全な黒を再現するのは極めて高度な技術が必要なのだそうだ。京都在住の武田真彦による『MITATE』はコンテンポラリーダンス、小説、現代アートまでさまざまなジャンルの作家とコラボレートした楽曲の集大成であり、制作の多くの時間を彼らをはじめ、周囲からのヒアリングとコンセプト構築に費やしたという。柔らかな音や硬質な音にそれぞれの楽曲が生まれたシチュエーションに沿った環境音が配され、音の一粒一粒に違うストーリーが宿っていることを想起させる。

 そしてジャケットに配されているのが彼の祖父の代で操業を終えた西陣織の黒帯専門の織元『大樋』の黒共帯の実物である。ここで大きな役割を果たしているのがクリエイター向けコワーキングスペース『 MTRL KYOTO』の木下浩祐氏。素材メーカーと作家をつなぐ彼の案から、パッケージには帯を包む畳紙が使われている。

 数々の登場人物の知恵と技の集積が西陣織の工程を思わせ、本作がさまざまな分野の横断と接続、電子音と生音と環境音との「織り成し」であることに気付かされる。

 アンビエントという音楽がその空間の背後にある文脈を得ると不思議な含みや、時にそれがとんでもない深みを持たせることがあるのに気付かされたのはほかでもない京都という土地でであった。こうした音楽とその背後にある歴史との結合が真価を発揮するのは、まだまだこれからだと思わせるのだ。

記事は雑誌ソトコト2020年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

Text by Kenichiro Hoshi

キーワード