世界寺子屋運動
2020.01.20 UP

教育の機会をつくり、貧困のサイクルを断ち切るために。ネパールで「寺子屋」運動を進めています。

LOCAL

世界には貧困や紛争、学校が近くにないなどの理由で、学校に行けない子ども(6〜14歳)が約1億2400万人います。さらに教育を受ける機会がないまま大人になったために、文字の読み書きができない人が約7億5000万人います。『日本ユネスコ協会連盟』は基本的人権として、誰もが教育の機会を得て、公平に学べる場をつくる「世界寺子屋運動」を世界各国で進めてきました。ネパールでの取り組みを3回連続で紹介していきます。

年齢も性別も関係なく、誰でも学べる場。字が読み書きできる喜びを知る。

 今回のネパール訪問は15回目。首都・カトマンズから飛行機で30分。中部ネパール南部、インド国境に近いチトワンにある都市・バラトプルに到着した。乗ったのは50人ほどが乗れるプロペラ機。いつものように飛行機の出発は遅れ、2時間遅れの到着となった。

 飛行機の窓からは雪を頂いたヒマラヤ山脈が見える。ネパールの国内線は安全性が日本やヨーロッパと比較して高くないため、何度乗っても不安だ。しかし、車だと6時間はかかり、飛行機での移動が一般的だ。

 標高およそ1300メートルのカトマンズから来ると、ネパール南部は暑い。ネパールはエベレストをはじめヒマラヤ山脈のイメージが強く、標高が高く、寒いと思われているかもしれない。しかし、ネパールの緯度は奄美大島と同程度であり、インドとの国境に広がるタライ平原は標高が数十メートルから数百メートル程度である。タライ平原は一年を通して暑く、地元の人によると最も暑い4月や5月には40度を超えることも珍しくないという。

 今回、「チトワン国立公園」のあるチトワンに来たのは、『日本ユネスコ協会連盟』が建設の支援をした「寺子屋」のオープニングセレモニーに、日本の支援者と参加するためだ。

建設前に、予定地に集まった「寺子屋」の関係者。
建設前に、予定地に集まった「寺子屋」の関係者。

70歳の学び。「クラスが楽しい」。

 日本ユネスコ協会連盟は教育を受けられなかった人びとを支援するため、アジア諸国を中心に「寺子屋」をつくっている。日本のかつての寺子屋のように、年齢や性別に関係なく多くの人びとが学べる教育施設である。海外ではCLC(Community Learning Center)として知られ、ネパールも含めて法律で教育機関として位置づけられている国もある。

 「寺子屋」は、一般的な学校とは異なり、幼少期に学校に行けなかった大人や学校を中途退学した子どものためのクラスを中心に行っている。裁縫や刺繍、農業クラスなど、収入に結び付くクラスも実施しているのが特徴だ。

識字クラスでは、学習者が意見を発表する機会が多い。
識字クラスでは、学習者が意見を発表する機会が多い。

 一般的な小学校や中学校などの教育を「フォーマル教育」と呼ぶのに対して、このような学校以外の仕組みで教育を行うことを「ノン・フォーマル教育」と呼んでいる。「寺子屋」はこのノン・フォーマル教育を実施する場で、10人ほどの地域の人がボランティアで運営している。

 「寺子屋」の活動としては読み書きを学ぶ識字クラスがある。ネパールの識字率(15歳以上)は60パーセントと、決して高くない。クラスでは、15歳から時には70歳くらいの女性が学ぶ。みな子どもの頃に学校に行けなかったか、小学校を低学年でやめた人たちだ。クラスは先生の家や地域の空いている建物などを利用し、屋外で開かれることもある。

1日2時間の識字の授業の様子。なかには子どもを連れてくる母親の姿も。
1日2時間の識字の授業の様子。なかには子どもを連れてくる母親の姿も。

 「字の読み書きができてバスの行き先がわかるようになった」「子どもの勉強を見てあげられるようになった」など、これまでネパール語の読み書きができずに生活していた女性たちがうれしそうに語る。自称70歳の女性は、ほかの生徒のサポートを受けながら4か月の識字クラスを修了した。「目がよく見えなくなって教科書が見にくい」とこぼしながらも、「これまでちゃんと学んだことがないので、クラスが楽しい」と笑顔で話す。

プロジェクトで作成した識字教科書を熱心に読む、自称70歳の「生徒」。
プロジェクトで作成した識字教科書を熱心に読む、自称70歳の「生徒」。

 「寺子屋」では、マリーゴールドの花(歓迎の首飾りや宗教儀式に使われる)の栽培や女性のマイクロファイナンス事業など、収入アップにつながる活動も実施している。

 このような「寺子屋」の活動は、特定の建物があるわけではなく、学校の教室や民家を借りて行っていた。そのため、ネパール政府や地域の人びとからはいつでも使える建物の要望があった。

日本からの支援で、建物が完成。

 ネパールの教育を支援している日本人は少なくない。山岳地域の学校がない地域に学校を建設するなど、地道な活動をしている人は多い。しかし、インド国境沿いのタライ平原を支援している人は決して多くない。タライ平原の人びとは、山岳地域以上に発展から取り残されているのにもかかわらず。

 そのような地域の教育普及のための「寺子屋」を支援したのは、日本のボランティア団体や企業の方々だ。今回は、代表して地域のボランティア団体としてユネスコ協会の5名がオープニングセレモニーに参加した。

 カラフルな特設テントとひな壇が設置され、セレモニーにはネパール側から地元選出の国会議員、政府の教育担当官や地域の人びとなど150人以上が参加した。

 特別な日だからか、女性たちはお気に入りのサリーを着ている。ゲストの国会議員が今後の「寺子屋」の活動への期待を述べ、日本からの参加者も日本からの思いをスピーチで伝えた。テープカットや募金者銘板の除幕式など、セレモニーは2時間におよんだ。

同じ「制服」を着ている女性グループのメンバーと日本からの参加者たち。
同じ「制服」を着ている女性グループのメンバーと日本からの参加者たち。

世界遺産の国立公園もあるチトワン。教育で地域の発展を。

貴重な自然が残る、「チトワン国立公園」へ。

 セレモニー式典に参加した人びとは、「寺子屋」から30分ほどの所に位置する世界遺産である「チトワン国立公園」も訪れた。

 チトワン国立公園はネパールに4つある世界遺産の一つで、1984年に登録された。約9万3200ヘクタールの面積があり、インドサイ、ベンガルトラなど希少な動物の生息地となっているほか、数種類のシカやサル、ヒョウなどの野生動物、ガビアル(口の長細いワニ)やヌマワニ、クジャクなど約350種といわれる野鳥が生息している。

 公園はまた、ラムサール条約の登録地にもなっている。かつては、ネパールとインド国境に存在した貴重な自然が残されている数少ない場所になっている。

「チトワン国立公園」で人気のエレファント・ライド。1頭に4人乗ることができる。
「チトワン国立公園」で人気のエレファント・ライド。1頭に4人乗ることができる。

 園内では、ゾウの背中に乗って動物を観察できるツアーのほか、カヌーやジープに乗って野生動物を見るツアーも体験できる。参加者もジープに乗って園内を散策し、シカやサル、水浴びをするインドサイを見ることができるなどネパールの自然を体感することができた。

 ネパールに新しくできた「寺子屋」。これから地域の人びとの努力で発展の拠点として期待されている。

記事は雑誌ソトコト2020年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

キーワード

鴨志田 智也

かもしだ・ともや
2008年に『公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟』に入職。これまでにアフガニスタン、インド、ネパール、ラオスおよびカンボジアの教育支援プロジェクト「世界寺子屋運動」に従事。また、これらの国のNGOや政府の担当者を日本や海外で研修する事業なども担当している。