極小のデパートがつくるサーキュラー・エコノミーの実験場。
空間デザインの点からおもしろいのは、床に描きこまれたグラフィックデザインである。これは、家具や植栽の定位置を示す。空間の利用者は、毎日このグラフィックに従って空間を原状回復させる。シェア空間を運用する際の説明のわずらわしさを回避し、同時に空間をお洒落にまとめていくうまいやり方だ。余白が、余白として空間に知覚されるようにするために、商店だった元の空間はていねいに分解され、透明感のある公共空間として現れている。最小限ながらも鮮やかな手つきだ。
この空間を企画し設計したのは、永田賢一郎という新世代の建築家だ。永田氏はこのプロジェクトで、なんと設計料も施工費ももらっていないというから驚きだ。銀行から融資を受け、スペース運営における利用料収入で長期的に返済していく形にしている。建築家のビジネスモデルとしてもおもしろいが、全体のプロジェクトコストを圧縮することで、利用料が抑えられ、誰にとってもチャレンジしやすい環境となっている点が素晴らしい。すでに『藤棚デパートメント』の日替わりショップで自信をつけて、商店街にお店を構えた人もちらほら出てきているようだ。全国のローカルな商店街でこういう場所が増えていくとおもしろいのではないだろうか。
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。
住所:横浜市西区中央2-13-2 伊勢新ビル1F
施工年: 2018年