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特集 | ソトコトが手がける講座・講演プロジェクト

川で人をつなぐ、高知市鏡川の「流域関係人口」という考え方

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四万十川や仁淀川など、全国的にも有名な川が流れる高知県。透き通る美しい清流と山々の風景が、県内外問わず多くの人に親しまれています。同じように美しい水質と豊かな風景を持つ鏡川流域では「流域関係人口」という新しい自然との関わり方を提唱しています。

鏡川は高知市の中心街を流れる大きな川として知られていますが、市街地を流れているのは鏡川の一部分。車で鏡川を辿っていくと15分ほどで山へ入り、木々の合間から川底が見えるほど美しい水面が見えてきます。
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鏡川の流域図。市街地の多くの人が「鏡川」として認識しているのは赤丸で囲った部分のみ。
鏡川は山から市街地へとつながっていて、山で暮らす人たちの生活も市街地の生活につながっているのです。
目次

流域関係人口は、「横」のつながり

上流域で暮らす人が減ってしまうと、市民にとって鏡川が「資源」から「リスク」に変わってしまう。そんな未来を危惧して「流域関係人口」に着目したのが高知市土佐山に住む山中晶一さんです。
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鏡川の源流が流れる土佐山で育ち、現在も暮らしている山中さん。仕事でも私生活でも鏡川流域に携わるなかで違和感を抱いていることがありました。

「土佐山をはじめとする鏡川の上流域は自分たちのアイデンティティを作り上げた誇れる場所のはずなのに、外から見ると過疎地であり”助けてあげないといけない場所”と思われることに違和感を感じていました。上流域も下流域も鏡川でつながっていて、それぞれが自立しつつ相互に連携し、補完しあっている生態系だと思っているからです」。

山間地域で暮らす人々が田畑を耕し、森林の下刈りや間伐を行うことで木々が深く根を張り、土砂崩れや洪水を起きにくい土壌を作ってきました。生活のなかで適切に自然と関わることが上流域・下流域、どちらにとっても日常を守って行くことにつながっています。しかし、流域でつながっているという視点がないために、過疎地とされ生まれ育った土地への尊厳を失い、子どもに山の仕事は継がせたくないという地元の人たちの話を聞いて違和感は大きくなるばかりでした。

そんな時、都市部の人たちが土佐山に訪れ交流をする機会がありました。

「『はし挙』と呼ばれる高知のお座敷遊びをすると、都市部からやってきた人たちがその文化と歴史的背景をとても楽しんでくれました。村のおじいさんたちが自分たちの土地や文化を誇らしくしている姿をみて、まず自分がやっていくべきことはこれだと感じました」。

「すごく良いことをしようという意識で山や川に関わらなくてもいいんです。そこで暮らす人たちに関心を寄せて自然に話をするだけ。そんな何気ないことが地元の人たちの自信や尊厳につながっていくことを知り、私はそのきっかけづくりを全力で行いたいと思いました」。

上流域と下流域という縦のつながりではなく、流域関係人口として横でつながる。同じ目線で自然に関わっていくことが自然資本の価値と持続性を高め、流域で暮らす人々を災害から守ることにもつながっていくと山中さんは意気込みます。

原風景はこれからつくれる。理想の山の描き方

山間地から地元の人が離れていく一方で、地域に魅せられて外からやってくる人もいます。ものづくり7割、山仕事3割。山中さんと同じ土佐山で暮らす山本堪さんが山と向き合い続けるためにとっている仕事のバランスです。
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海外でアートに携わる仕事をしていた山本さんが「高知に帰りたい」と思い立ったのは2011年のこと。独創性の強いアートの世界で自由に表現するのではなく、社会のなかで誰かのためになるものを提示したいと思い始めた頃でした。高知の中でも土佐山の社学一体の考え方に深く共感し移住することを決めました。

地域の行事や日常のお手伝いをするなかで、村のおじいちゃんやおばあちゃんが土佐山の昔の生活や風土をたくさん話してくれました。とても楽しそうに昔話をする姿に心を動かされ、炭焼きを教えてもらったり、山師について実際に木を切ってみたり。山に入ることで土佐山の原風景と向き合い、山本さんのなかで「中山間地域を守らなくては」という思いはどんどん強くなっていきました。

「この山の風景を残しておきたい!と、使命感に駆られていました。けれど、数年前にフィリピンへ行った時に厳密な意味では日本の原風景は既に失われていると気づきました」。

人口減少をはじめ、同じ地域課題を持つ人たちと意気投合して訪れたフィリピンの山岳地帯。そこには竹でできた家のなかで、昔ながらの暮らしを続ける人々の姿がありました。そんな現代に原風景が残っている土地でさえ、コンクリートの文化が入ってくることで徐々に住民の価値観が変わっていると聞き、土佐山で守らなくてはいけないと感じていた原風景は実は既に無くなってしまった後だった、と気づいた山本さんは使命感や焦りから解放されたといいます。

「昔の山の姿に戻すことはできないけれど、これから理想の山の風景を作っていけばいいんだと思えるようになりました。美しい山の風景があってそこに鏡川が流れていて・・・。地域の人たちと理想を描きながら風景を作っていくことが、一つの作品になればいいなと、肩の力を抜いて山と関わることができています」。

自然との関わりを特別扱いしない

お店を開くなら川が見える場所がいいと、鏡川のすぐそばで飲食店「SO-AN」を営む公文 潔さん。お店の窓からは干し柿と野菜畑、夕日に照らされる山々と鏡川、なんとも豊かな風景が広がっていました。
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「小学校4年生の頃には自転車を漕いで、鏡川へ遊びに行っていました。泳いだり、ザリガニ取りをしているうちに、近くでおじさんが釣りをしているのを真似して、鮎をとったりアメゴをとったり。川で遊ぶことに夢中でした」。

幼い時の環境を自分の子どもたちにも与えたいと、高知市内からより自然に近い地区に移住しました。冬には鏡川でカヌー体験を企画したり、鏡川を10箇所の地点に分けて仲間と水質調査を行なったり。お店や子育てだけでなく、公文さんの生き方から川との関わりを大切にしていることが伝わってきます。

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「幼い頃に原体験がある人が特別なわけじゃないですよ。今は生まれた時からモノが溢れていて自分にとって必要なものがわかりにくいけれど、誰だって自然のなかで心を動かして忘れられないような体験を重ねれば、生きる上での軸ができていくはずです」。

若い人には好きなことをして生きてほしい。もし好きなことを見つけるために原体験が必要なら鏡川に遊びに来てほしい、と公文さん。

「自然と関わるということを特別扱いせずに関わってみてください。そのなかで鏡川について知ってくれる人が増えてくれると嬉しいです」。

好きなことで流域とつながる

高知市出身、高知大学の地域協働学部に通う高橋萌瑛さんは授業のなかで土佐山と出会い、実習後も自分の得意なことを生かして地域のお手伝いをしてきました。
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「絵を描いたり、わかりやすくノートをまとめたりすることが好きだったので、その延長でグラフィックレコーディングを学びました。議論したことを1枚の紙にイラストを駆使してわかりやすく可視化することです」。

好きなことが地域の役立つことが嬉しかったという高橋さん。毎年、夏から秋にかけて子どもたちが上流域を含む里山の問題と向き合う”森の子ども会議”に参加し、その様子をグラレコで記録しています。

「自分のやりたいことで地域の人たち喜んでもらえることが嬉しかったです。山間地域や流域の人口減少といった課題を解決することも大切ですが、まずは自分がやりたいことを通して地域と関わっていくことが、持続して地域課題と向き合うことにつながると思います」。

今後も、人と自然にとって大切な取り組みを後世に残すお手伝いをしていきたい、と高橋さんは笑顔で話してくれました。

流域との関わり方は自由!

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”流域関係人口”ときいて、難しく考える必要はありません。まずは流域で暮らす人々の生活が川でつながっていることを知ることが大切です。好きなことや興味のあることを通して自然に関心を持つことが、鏡川流域で暮らす人々の明日を守ることにつながっていきます。
photographs & text by Mariya Kazusa

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