福島12市町村を知り、これからの関わり方を自由に模索する関係人口講座「ふくしま未来創造アカデミー」第2期が、開講されました。現地での3日間のフィールドワークを通して、受講者が見つめた、福島のこれまで、そしてこれからの姿とは—。
TOP写真:楢葉町の天神岬で。どこまでも広がる青い空も、12市町村の魅力のひとつ。
福島12市町村を知り、共に未来を考えよう。
2011年3月に発生した東日本大震災により被災し、原子力発電所の事故に伴う避難指示等の対象地域となった「福島12市町村」。海と山に挟まれ、四季を通じて温暖な気候と高地の気候の双方を楽しむことができるエリアだ。
そんな12市町村を知り、これからの関わり方を自由に模索する関係人口講座「ふくしま未来創造アカデミー」(主催:福島相双復興推進機構)の第2期が、2023年7月より始まった。
第2期生となる今回の受講生は、20代から60代までの16名。同年8月下旬に行われた2泊3日のフィールドワークでは、12市町村の各地でキーパーソンや移住者を訪れ、福島の復興の歩みを学んだ。
1日目、郡山駅からバスで田村市(たむらし)のブルワリー『ホップジャパン』へ向かう。ホップの栽培からビールの醸造までを一気通貫で手がける当施設では、ホップの収穫やクラフトビールの試飲、宿泊などができる。ビール粕を家畜の飼料として再利用させるなど、地域を巻き込んだ持続可能な循環型産業を目指しており、代表の本間誠さんは、「ビールをつくって終わりではなく、プロセスまで含めて商品にしたい。将来的にはSDGsを体感できる『循環』のテーマパークにできたら」とビジョンを語った。
その後、葛尾村(かつらおむら)の大山里奈さんを訪問。大山さんは茨城県出身だが、2021年から葛尾村に関わりアーティスト活動を行っている。当初は自身の活動に対して住民から冷ややかな反応があったが、ていねいな関係構築を続けた結果、今は住民たちが「困っているなら手伝うよ」と好意的に接してくれていると語り、継続して関わることの大切さを教えてくれた。
大熊町(おおくままち)では、大熊町役場住民課長の幾橋みね子さんが被災当時住んでいた自宅を案内してくれた。震災から12年、12市町村では復興とともにUターンや新規移住者が増加し、8年間の全町避難を強いられた大熊町もその例外ではない。幾橋さんは、「大熊町は今、病み上がりの状態。若い人たちによる『輸血』が必要」としつつも、「町が活気づいているうれしさと同時に、今の大熊は私が知っている大熊じゃない、と感じる寂しさもある」と正直な心を打ち明けた。復興が進んでいく喜びと同時に、なじみのある故郷が姿を変えていく寂しさは、帰還者誰もが少なからず抱える、偽らざる本心なのかもしれない。
“つながりの貯金箱”となって、地域を盛り上げていきたい。
2日目は、太平洋に面した富岡町(とみおかまち)と楢葉町(ならはまち)へ。太平洋を望む高台のワイナリー『とみおかワインドメーヌ』では、「ワインを地域の宝に」と語る代表の遠藤秀文さんに話を聞いた。避難指示のため6年間帰ることができなかった故郷を盛り上げようと、避難指示解除前の2016年から有志10人で始めたぶどう栽培は今、町内3か所の圃場(ほじょう)に約1万本のぶどうの木を有するワイナリーに成長している。津波で大きな被害を受けた富岡駅の新駅舎前にもぶどう畑を広げるなど、仲間たちとともに描いた夢を実現させるべく、着実に前に進んでいる。
楢葉町では、6年前にこの町に移り住み、シェアハウス兼食堂『kashiwaya(かしわや)』を運営している古谷かおりさんを訪れた。場づくりに関心があり、楢葉町で居酒屋経営の経験もある古谷さんは、「地元の人と新しい住民をつなぐ"つながりの貯金箱"のような存在でありたい」と受講生に語った。
最終日である3日目は、双葉町(ふたばまち)を通り、南相馬市(みなみそうまし)の小高区(おだかく)、そして浪江町(なみえまち)へ。南相馬市の美術館『おれたちの伝承館』には、原発事故を伝える絵画や彫刻、写真など約50点が並ぶ。圧倒的な力で胸にせまる作品群を前に、館長で写真家の中筋純さんは、「被災した人の数だけストーリーがある。アートでできることは、ハートを揺さぶること。『一人称の語り』を次世代に伝えていきたい」と話した。
3日間での数えきれない出会いを通して、12市町村のこれまでを学び、課題や未来を考えた受講生たち。出会った一人ひとりのパッションや行動力、“巻き込み力”に圧倒されつつも、「地域への溶け込み方を学びたい」「次世代に貢献したい」などと刺激を受けたようだ。おのおののスキルや関心事に地域の可能性をかけ合わせ、「コミュニティをつくってみたい」「食を通して福島と東京をつなげるのはどうか」など、さまざまなアイデアの種が生まれた。
アカデミーで講師を務めた指出一正ソトコト編集長は、「自分の想定するアルゴリズムを持たない人たちとの出会いが世界を広げてくれる。『挑戦するぞ』と難しく構えずに、まずは『やってみたいからやってみよう』と気軽に一歩を踏み出してみては」と受講生たちにアドバイスした。地域とゆるやかにつながりつつ、出会いから生まれたアイデアを一歩ずつ形に。その思いは、いつしか12市町村に新しい風を吹かすに違いない。
photographs by Jouji Suzuki text by Marika Nakamura
記事は雑誌ソトコト2024年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。