日本各地で少子高齢化に伴う人口減少に直面していますが、移住政策とは異なるアプローチとして、「関係人口」の増加による地域活性化への取り組みが注目されています。「関係人口」とは具体的にどのようなものか、初学者にもわかりやすい形で、実際の事例を交えながらご紹介します。
「関係人口」とは?
「関係人口」は、その地域には住んでいないけれど、文化的に、あるいは経済的な活動を通じてその地域と関わりを持っている人たちのことを指します。たとえば、
【例】
自宅は東京にあります。仕事も東京の企業に勤めています。同時に複業で宮城県石巻市の新しい特産品をデザインするプロジェクトのプロモーターもしています。生活の都合上、石巻に移住もしていないし、観光で訪れたのもずいぶん前のことだけど、それ以来石巻がずっと好きで、もっと関わってみたくて、石巻のプロジェクトに参加しています。今は現地に年3~4回ほど通っています。
という感じ。「〇〇町に通っています」という数量的表現から「〇〇町に関わっています」という深度的表現に、人々の経験と交流と社会の空気が混ざり合って、「その土地に関わる」という動的な表現が交わされるようになったことが「関係人口」という言葉の始まりです。
もう少しかんたんに表現するなら、「観光で来る人(交流人口)」と「居を構え暮らす人(定住人口)」の間のようなポジションで、地域と深い関係を結んでいる「第三の人口」が「関係人口」といえます。
※「関係人口」は英語で「Connected Mind」(意訳)
- 交流人口
-
観光・レジャーまたは通勤・通学でその地を訪れ、一時的にその地域と交流する人のこと。
- 定住人口
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地域に居を構えて定住している人。あるいは、住民票がその地域にある人のこと。
- 関係人口
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「観光以上、移住未満の、特定の地域と継続的かつ多様なかたちで関わる第三の人口」。
上図は他のメディアでもよく言われている基本的なイメージです。「地域に関わり続けること」が基本ですが、「地域にルーツがある人」「地域の文化を愛する人」「特別な思い入れがある人」「ふるさと納税をしてくれた人」なども広義的に「関係人口」と呼ぶケースがあります。その表現(定義)は、地域やプロジェクト、団体やグループ、有識者の間でもバリエーションが見られます。
- 総務省
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関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々。
- 内閣府
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関係人口とは、特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人のこと。
- 国土交通省
-
関係人口とは、移住や観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な形で関わり、地域の課題の解決に資する人のこと。
- 指出一正(『ソトコト』編集長)
-
関係人口の定義はあいまいで、『ソトコト』では「観光以上、定住未満」として、地域と関わることを楽しむ人“という感じ”で捉えている。
- 小田切徳美さん(明治大学大学院農学研究科長)
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関係人口の「関係」とは「関心」という意識と「関与」という行動の両者に及ぶとした上で、「地方部に関心を持ち、関与する都市部に住む人々」のこと。
- 田中輝美さん(ローカルジャーナリスト)
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関係人口とは「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者」のこと。定住人口でも交流人口・観光客でもなく、そして、企業でボランティアでもない、新たな地域外の主体の概念。
2024(令和6)年3月 公益財団法人 東京市町村自治調査会発行『関係人口とともに創る地域づくりに関する調査研究報告書』掲載資料、「国(関係省庁)及び有識者による関係人口の定義(参考)」より
ちなみに、『ソトコト』編集長・指出一正は「関係人口」について、「日本全国にどれくらいいるか?」という問いにも、次のように答えています。
関係人口とは、「観光以上、移住未満の、特定の地域と継続的かつ多様なかたちで関わる第三の人口」を意味します。観光でその土地を訪れる交流人口でもなく、住民票などを持ち暮らす定住人口でもない新しい人口動態として注目を集めています。2020年9月、『国土交通省』が国内に居住する約15万人に向けて行ったアンケート調査の結果では、少なくとも全国に1,800万人を超える関係人口のみなさんがいることがわかりました。潜在的にはもっと多いと感じています。
https://www.jiam.jp/journal/pdf/112-02-01.pdf
『ソトコト』が考える、「関係人口」のシーンに登場する3タイプのキーマン
「関係人口」を語るうえで欠かせないキーマンについて、『ソトコト』では次の3タイプに分類しています。どんな性質の人たちが「関係人口」なのか、具体的に知っていると理解も深まるでしょう。
- 関係人口ど真ん中の人たち
観光客と呼ぶには訪れる頻度があまりにも多く、そのまちに強い関わりや仲間を持つ人たちが「関係人口ど真ん中の人たち」です。地元にいるときもそのまちのことを考え、応援する姿勢を忘れません
- 関係案内人
「この人に会いたいから通う」と思わせてくれる、人を惹きつける魅力を持ったチャーミングな地元の人。生まれも育ちもこの地域という人もいれば、かつては「関係人口」だったけど、移住後に迎え入れる側になった人もいます。こうした人を「関係案内人」と呼びます。
- 関係案内所
「観光案内所」とは違い、まちに暮らす、会いたくなる魅力的な人を紹介してくれて、つながりを生む関係と縁を案内する場所や空間のことです。
「関係人口」がもつ3つの強みと5つのフェーズ
それでは、キーマン1の「関係人口ど真ん中の人たち」はどんな性質を持った人なのでしょうか? もう少し具体的に知るため、「関係人口の3つの強みと5つフェーズ」について説明します。
-「 関係人口」の3つの強み
まずは「関係人口」の強み(特長)を3つ、ソトコト2018年2月号『関係人口入門』に掲載の「田中輝美さん、関係人口ってなんですか?」を参考に紹介します。
1.自分の挑戦したいこと、好きなことを地域に近づける
地域に関わるタイミングは人それぞれ。チャンスが訪れたら「地域」という選択肢を含めて挑戦する関係人口。
2.遠くのまちで地域を発信する
地域から発信しても、遠くのまちまでは届きにくい。そんな地域の悩みを解決してくれる関係人口。遠くのまちを拠点にしているからこそ、貴重な発信力を発揮してくれます。
3.二拠点をつなぐことを仕事にする
分断されている都市と地方を行ったり来たりしながら、いろいろなものをつないでくれる関係人口。さまざまな影響や価値観をもたらします。
- 「関係人口」の5つのフェーズ
次に「関係人口」のフェーズ5つを紹介します。
フェーズが進むにつれて「関係人口」の関心・関与の度合いが高まります。それに比例して地域で暮らす人(受け入れる側・関係案内人)と「関係人口」との関係も密になっていきます。
「関係人口」の具体例・成功事例を紹介 ~『ソトコト』のアーカイブより~
次に、「関係人口」の具体例・成功例をいくつか紹介します。
-鳥取を元気にする、『トリクミ』古田琢也さん。
古田琢也さんは2017年取材当時、東京と鳥取県・八頭町(故郷)の隼地域で2拠点生活を実践していた「関係人口」です。東京ではフリーのアートディレクター・デザイナーとして活躍し、隼地域では『HOME8823』という名の地産地消カフェレストランを運営しながら、『トリクミ』という法人をつくり地域を盛り上げる活動をしています。
-「ひさしぶり」「ありがとう」「おかげさまで」が飛び交う町。柏には顔の見えるジモト感がありました!
千葉県柏市にある合同会社『EDGE HAUS』は、地域資源を活かしカフェや食や農のイベントを主に企画・運営する会社。2017年取材当時、代表の油原祐貴さんに柏の関係案内所・関係案内人を紹介してもらいました。よその人と地元の人をどうつなげているか、その具体例を垣間見ることができます。
-富山県に移り住んで10年。「場」を拠点にまちの価値を高める、明石さん夫妻の思うこと。
2010年に東京から富山に移住した明石さん夫妻は、移住を夢見る人にとっては憧れの存在です。夫の博之さんはまちづくり事業をプロデュースする会社、妻のあおいさんは編集やデザインを軸にまちづくりをする会社を経営しています。「関係人口」から「迎え入れる側」になった経験を通じて、「関係人口」のさまざまなフェーズや立ち位置で考えたことを伺いました。
-「超帰省」 ──友達の地元に帰省すること。
自分の実家や故郷へ帰る「帰省」を「地域と新たに出会う方法」にデザインし直し、「超帰省」と名付けて活動しているのが一般社団法人『超帰省協会』。そのテーマは「地元に友だちを連れて行って、自分の暮らしの部分を見せる」「個人の人生やエピソードを通して地域を知ってもらう」の2点です。普通の旅行と違い、とても個人的なところから地域と出合って土地のことを知ってもらう。その魅力を伝えるためのツアーを開催しています。
「関係人口」の歴史と成り立ち
「関係人口」について、その種類や事例について紹介してきましたが、この潮流はいつ、どのような流れで、なぜ生まれたのでしょうか? 「20XX年X月に誕生しました」といったように明確に断言はできませんが、『ソトコト』と「関係人口」の関わりを社会的出来事と絡めながら、その雰囲気がどのように醸し出されたのか振り返ります。
2004年10月:新潟県中越地震
震災後、国際社会や社会貢献に興味のある若者たちがボランティアとして長岡市や山古志村に足を運び、ローカルの価値観と出合う。グローバル志向からローカル志向へと足を踏み出す世代が誕生し、「関係人口」という言葉こそ明確にあったわけではないが、現象として「関係人口」の萌芽になる。
2008年:リーマンショック
人々の価値観が大きく揺さぶられる。「1つのものに頼りすぎない生き方」「バランスのとりやすい暮らし」という新しい価値観が語られ、真の豊かさや幸せを問う“関係人口的”な若者が中山間地域を訪れるようになる。
2010年:雑誌『ソトコト』12月号「日本列島移住計画」を刊行
2011年:東日本大震災
「1つのものに頼りすぎない生き方」「バランスのとりやすい暮らし」という新しい価値観が加速度的に広まる。社会や地域の在り方が、自分の幸せにもつながっているという考え方が浸透していく。また、新潟県中越地震の時のように、ローカルに関わろうとする若者たちが現れた。
2012年~:しまことアカデミー(島根県)
島根県が雑誌『ソトコト』とコラボレーションした地域づくりのための連続講座が始まる。全国の他の地域よりも早くから人口減少・少子高齢化という課題に直面しながらも、先進的な地域づくりで知られる島根県をフィールドに、地域を学び、実際に出かけて、「自分のかかわり方=コトの起こし方」を見つけるカリキュラムを実施した。「移住しなくても、地域を学び、関わる」ことに重きを置き、「移住ではなく、関わってくれる人を育成する」がテーマ。
2013年1月:雑誌『ソトコト』2月号「日本の地方に住んでみる」を刊行
2014年3月:雑誌『ソトコト』4月号「暮らしたくなる地方」を刊行
2014年 5月:『増田レポート』
増田寛也元総務大臣が座長を務める民間研究機関「日本創生会議」が、2010~2040年までに20~39歳の女性の人口が5割以上減少すると試算された自治体は、消滅する可能性があるとレポートした。論争を巻き起こし、人口問題がクローズアップされる。
2015年7月:雑誌『ソトコト』8月号「日本の地方に住んでみる2015」を刊行
2016年~:むらコトアカデミー(奈良県下北山村)
人口900人足らずの奈良県・下北山村が、首都圏のソーシャル層とのつながりづくりをテーマに、雑誌『ソトコト』と協働で「奈良・下北山 むらコトアカデミー」を開講。奈良県・下北山村の現状を学ぶ基礎レクチャー、グループワークや現地実習を通じて地域の可能性や受講生一人ひとりとのつながり方を見つけ、プランを作成した。
2016年1月:雑誌『ソトコト』2月号「あたらしい移住のカタチ」を刊行
2016年:「関係人口」という言葉を使って、具体的な事例が語られ始める
指出一正著『ぼくらは地方で幸せを見つける』や『東北食べる通信』編集長・高橋博之著『都市と地方をかきまぜる』で、「関係人口」という言葉を使いながら、地方における若者たちの動きが考察がされる。
2017年~:みずコトアカデミー(福井県大野市)
豊かな水資源で知られる福井県大野市と雑誌『ソトコト』がコラボした、首都圏と大野をつなぐ「越前おおの みずコトアカデミー」が開講。首都圏で暮らす方を対象に、地域との自分らしい関わり方を見つけていく講座。
2017年~:奥大和アカデミー(奈良県奥大和地方)
奥大和アカデミーは、中京圏に住む方を対象に、奈良県奥大和地域の地域づくりや起業に関心を持つ方を対象にした講座です。座学やインターンシップを通じて、奥大和地域と関わり続けられるプランを考えます。
2016年12月:雑誌『ソトコト』1月号「日本の地方に住んでみる2017」を刊行
2017年6月:雑誌『ソトコト』7月号「移住のはじめかたQ&A」を刊行
2017年:総務省の検討会で「関係人口」が政策的な位置づけを得る
2017年:新しい潮流、ローカルイノベーションとして「関係人口」が語られる
2017年10月刊行、『シーズ総合政策研究所』と『ソトコト』の企画・監修による、田中輝美著『関係人口をつくる-定住でも交流でもないローカルイノベーション』で、「しまことアカデミー」を題材に「関係人口創出」の事例が詳しく紹介される。
〇 2018年:総務省が「関係人口創出事業」を実施
2018年~:たなコトアカデミー(和歌山県田辺市)
和歌山県田辺市と雑誌『ソトコト』がコラボする、実践型の関係人口育成講座。「移住は難しいけれど、観光よりも一歩踏み込んでローカルと関わりたい!」という、その地域の「ファン」のような人々に向けて、田辺という地域との関わり方を考え、実践してもらうきっかけを提供している。
2018年1月:雑誌『ソトコト』2月号「関係人口入門」を刊行
〇 2019年:総務省が「関係人口創出・拡大事業」を実施
2019年~:ゆざわローカルアカデミー(秋田県湯沢市)
地方に関心を持つ方を対象に湯沢市が行っている連続講座。参加者は湯沢市の人々と交流し、湯沢市との継続的な関わり方を探る。講座終了後、受講生がイベントやプロジェクトを自主的に行い、湯沢市と関わり続けている。
2019年2月:雑誌『ソトコト』3月号「続・関係人口入門」を刊行
2020年3月:雑誌『ソトコト』4月号「新・関係人口入門」を刊行
〇 2020年:総務省が「関係人口創出・拡大事業」を実施
2021年~:白い森サスティナブルデザインスクール(山形県小国町)
「サスティナビリティ」「ローカルビジネス」「地域づくり」などに関心をもつ都市部で暮らす人たちと、小国町でさまざまな取り組みを行っている人が一緒になって、「小国の未来」や自身のこれからの「サスティナブルな暮らし」を考えながら、修了後も小国町と関わっていく方法を模索する講座。
2021年~:カネヤマノジカンデザインスクール(山形県金山町)
自分らしい地域との関わり方や暮らし方をみつけ、「第2のふるさと」や「金山のファン」となるような、金山の「関係人口創出」へ向けた地域活性化事業。スクール受講生(首都圏等在住者)が金山町の「関係人口」となり、日々の暮らしの中に金山を取り入れることで、新たな楽しみや豊かさを見つけるきっかけができ、町に住む人たちにとっては、そうした地域外からの「ファン」のような人たちの目線を取り入れることで、金山の暮らしの豊かさの再発見へ繋がることを目指している。
2021年:エディットKAGAMIGAWA(高知県高知市)
坂本龍馬が泳いだ川として知られる鏡川を舞台に、地域の魅力に触れ、発信するための「編集術」を学ぶオンライン講座。市外の都市部在住の人を対象に、鏡川流域の魅力を発信するための「編集力」を身につけ、地域外からの鏡川流域との関わり方を考える。
2021年:高知・鏡川RYOMA流域学校(高知県高知市)
高知市民の皆さんに親しまれる鏡川を舞台に、その魅力を再発見し、「自分らしい地域とのつながり方」を考える講座。講座を通じて、鏡川流域を盛り上げる人や受講生同士がつながり、地域との関わり方を見つける。
2022年~:ふくしま未来創造アカデミー(福島12市町村)
福島県の相双地域(相馬市/南相馬市/広野町/楢葉町/富岡町/川内村/大熊町/双葉町/浪江町/葛尾村/新地町/飯舘村の12市町村)を舞台に実施される関係人口講座。「関係人口」が人口減少時代の地域の未来を支える役割として期待されている一方、地域の外の人々にまちの楽しさ・魅力を知ってもらうために欠かせない「編集の力」で地域を大切に思い、共に盛り上げてくれる仲間をつくる。
2023年2月:雑誌『ソトコト』3月号「関係人口入門2023」を刊行
「関係人口」のメリット
-「社会的インパクト」の“芽”が増える
新しい人と人、人と環境の出会いが増えることで大小のイノベーションが起き、地場産業や地域文化の活性化につながります。新しい技術や考え方が持ち込まれることで、新しい雇用や習慣、文化が生まれるなど、いわゆる「社会的インパクト」が発生しやすいことも「関係人口」のメリットと言えるでしょう。前述した「関係人口の具体例」も、「社会的インパクト」が起きた事例として見ることができます。
-「移住する」よりも「関係人口になる」ほうが、柔軟でアクションを起こしやすい
人口減少時代にあって、移住者を獲得し人口を増やすことは容易ではありません。日本全体で人の数が減っているので、人口獲得の裏には地域間で人を奪い合うという側面も含んでいます。また誘致プロモーションも含めて労力がかかるので、うまくいかなかったときの徒労感は決して小さくないでしょう。地域にもよりますが、移住者の誘致は施策として難易度が高いと感じている自治体も多いのが現実です。
一方、「関係人口」の場合は「移住」よりも「持続的な関わり合い」に重きがあるため、移住することが絶対条件ではありません。訪れる人たちと「いい関係」「協働関係」を持ち続けることが重要なので、地域にとっても人にとっても比較的負担は少ないと言えます。関係性が続けば最終的に移住や二次拠点化の決断に至るケースも多く、コミュニケーション不足に由来する移住者と地域のミスマッチも防げるなど、無理・無駄の少ない施策として注目されています。
- 「関係人口」は、観光が不得手な地域でも創出できる
「地域に関わりたい」と願う人は潜在的に多く、彼らの自己実現(マイプロジェクトの遂行×地域課題解決)に繋がる場や機会(関わりしろ)があれば、観光が不得手でも「関係人口」を創出することができます。
高知県・津野町で実施された「地域の編集学校 四万十川源流点校」は、その好例として見ることができます。
- 社会やコミュニティの一員であるという、自分らしい「粒立ち」が得られる
「関係人口」になる個人の側から見れば、たとえば、東京都練馬区に住んでいれば「人口72万分の1」の人間でしかないところが、中山間地域に行けば「人口3千人分の1人」や「人口2百人分の1人」になれます。つまり、人口の少ない地域に行くほど一個人の存在感(重要性)はより増すのです。地域の課題に対して何か小さなアクションを一つでも起こせたら、その人を起点に良い影響が生じやすいのが小都市の特徴で、そこで「関係人口」になれたら、社会のために活躍できている実感(存在感の粒立ち)が得やすくなるでしょう。
「関係人口」でよく聞く悩み
「関係人口」のメリットはさまざまですが、反対に実施や検討の段階で、さまざまな悩みや不安を抱えている自治体もあるようです。ここでは、これまで『ソトコト』に寄せられた悩み・相談をいくつか紹介します。
人口減少や少子高齢化に伴い地域の人手不足を懸念していて、関係人口は地域外の人が関わるということで注目していますが、まず地域内でつながりをつくれる人が大事だと思っています。そのような人をどう増やしたらいいかわからない。
関係人口の施策を考えるとき、まちの魅力を打ち出そうとすると他のエリアに埋没してしまう可能性が高いと感じてしまう。どうオリジナリティを出せばいいか悩んでいます。
私たちのまちに来て関係人口になって欲しいという思いはあるけれど、そもそも、地域の魅力をどう伝えたらいいかわかりません。
関係人口を増やすにあたって、迎える側のまちの人が抵抗することもあるのではないかと心配しています。
※ 上記の質問・悩みに関する答えは、こちら ⇓の 記事で読めます。
「関係人口」の創出には「関わりしろ」と「関係案内所」が重要
「関わりしろ」とは、誰もが関わりたくなるような余白のことです。アイデアを提供する余地もないくらい完璧な状態よりも、不完全で解決策を講じたくなるような余白のある状態の方が「自分ならこんな変化を加えて、もっとおもしろくできます!」といった積極的なアイデアを誘引しやすく、よその人が自発的に関わりやすいオープンな状態になることができます。
たとえば、福岡県那珂川市の玄関口である博多南駅前ビル、通称「ナカイチ」は1階から4階まで、状況や過程に合わせた「関わりしろ」の仕掛けが満載です。
特に2階のカフェとイベントスペースでは、「ローカルプロジェクトに参加するまでの積極性はまだないけれど、そういう雰囲気のところの近くに身を置きたい」という野心や活力のある若者たちが、好きなだけ気軽にそこにいられる心地よさを意識的につくり出しています。「関わりしろ」のあるナカイチのような場所は、人と人との偶発的な出会いを広げ、地域との関わりを必然的に生み出す「関係案内所」であり、「関係人口創出」に有効な仕組みです。