カレーづくりは、ものづくり。デニム屋さんがつくる、やさしいスパイスカレー。(岡山・児島)

カレーづくりは、ものづくり。デニム屋さんがつくる、やさしいスパイスカレー。(岡山・児島)

"おいしさ"の押し売りではなく、食べる人に寄り添う。受け手を思いやり、その一皿に、喜んでほしいという願いを託して・・・。自分の正解を突き詰めながらも、決して受け手を無視しないカレーづくりは、まるで「ものづくり」のよう。岡山県児島の瀬戸内の海辺で、やさしさに満ちたカレーに出会った。

若きデニム屋さんがつくる、スパイスカレー。


昔から、衣料の原料「綿花」の栽培が盛んで、繊維の街として栄えた岡山県倉敷市児島。この街は、国産ジーンズ発祥の地でもある。


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すぐそばに瀬戸内海が広がる、海街の児島。海の塩を多く含んだ土地の土壌は、米作には適さない環境であったため「綿花」の栽培がはじまったという歴史的背景が。

児島の美しい海辺で、ものづくりとカレーづくりにひたむきに取り組む、ひとりの男性がいる。「itonami」というデニムブランドを手掛け、そのほかにも、小さな宿とカフェ・ショップを併設した複合施設「DENIM HOSTEL float」を運営する、島田舜介さんだ。


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島田さんらが営む「DENIM HOSTEL float」。小さな宿はデニムの藍色溢れる空間。瀬戸内海を一望できる特等席がお気に入り。
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デニムブランドを立ち上げた、通称デニム兄弟。右側が弟・島田舜介さん、左側が兄・山脇耀平さん。

DENIM HOSTEL float」のカフェでは、ランチタイムにカレーを提供している。半年ほどかけて作り上げたスパイスカレーは、「カフェのカレー」と呼ぶのは申し訳ないほどの本格カレー。岡山の奥地でこんなにおいしいカレーを食べられるとは!と、はじめて食べた時は意表を突かれ、甚く感動したのを覚えている。


看板メニューの無水カレーは、手間ひまかけた本気の煮込み。


カレーのメニューは、無水チキンカレーとキーマカレーの2種類。どちらもほどよい辛さでドライなテイストが特徴。特に、無水チキンカレーは、チキン・スパイス・野菜を10時間程煮込んでつくる、半年の研究の集大成。チキンは煮込みの過程でホロホロにほぐされ、繊維状に。この一風変わった鶏肉の食感が、たまらなく美味しい。醤油ベースの味付けとココナッツミルクが絶妙なバランスでなり立ち、無水でつくるため、野菜と肉の旨味がギュッと凝縮されている。


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ほろほろの極限。繊維状になったチキン。

もうひとつのメニューはキーマカレー。シナモンをたっぷり使い、その甘さとスパイスのピリッとした辛さ、トマト缶のジューシーさが舌の上で溶け合う。はじめて食べる人には、ぜひ両方味わって欲しいので、『あいがけカレー』をおすすめしたい。


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チキンカレーとキーマカレーの『あいがけカレー』。上にトッピングされた副菜も絶品。

カレーづくり=実験。


昔からカレー好きで、色々なお店のカレーを食べ歩いてきた島田さん。数年前旅先で出会った感動的なカレーにインスピレーションを受けて、このカレーを考案したそう。「もともと、“凝り性“な性格なので、カレーも追求しがいがあってハマっていきました。大学時代、化学を専攻していて、ずっとマニアックな研究をしていました。思えば昔から、数字を見るのが苦ではなかったり、はかって、まぜて調合して、どんな結果になるのか。“実験“が好きでしたね。」


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そんな彼の内側にある好奇心と探究心が、カレーづくり、そしていまのデニムづくりにも息づいているのを感じる。半年かけたカレーの開発の際には、スパイスの種類を制限してみたり、変える部分・変えない部分を意識的に持ち取り組んだという。(まさに化学の実験!)自身のブランドのデニムづくりの際も、工場の生産者と一緒になりデニムの伸縮率など、細かい数字をチェックし調整する。


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瀬戸内の海に浮かぶような、スパイスカレー。海とカレーの掛け算は、心身ともに元気になる。

今後、つくりたいカレーはあるかと尋ねると「瀬戸内らしいものを使って、フィッシュカレーをつくりたいのだけれど、自分の中でまだバチっと決まらない。」と語る。島田さんの研究は、まだまだ続いていくのだろう。次なる研究成果発表会を、密かに心待ちにしている。




デニムときどきカレー。受け手を想い、つくられた“やさしいものづくり“のある場所で。


スパイスカレーといえば、各店のクセが存分に現れた、個性派カレーが多いのも魅力のひとつだ。一方、島田さんのつくるカレーは、個性はしっかりありつつもとっつきやすい味で、スパイスカレーにあまり馴染みがない人も、美味しく食べられるのではないかと感じる。

「ここは、王子が岳という山の登山口にあり、登山客が行き交う場所です。地元の方や、ご高齢の方などが訪ねてきてくれることも多い。スパイスカレーなので、本来ならもっと辛くてもいいのかもしれないけれど、辛さやスパイス感が強すぎないようにしています。お客さんからの声を聴きながら、これからも改良は続けたいです。」


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登山、ボルダリング、パラグライダーなどを楽しめる「王子が岳」。

料理人というのは、自分の中の確固たるおいしいを突き詰め、表現していく人が多いように思うが、島田さんはあくまでも『食べる人の目線』に寄り添う。
「受け取ってくれる人がいての、ものづくりですよね。」

取材中に彼の口からこんな言葉が飛び出した。『生産者の思いを届けたい』という想いのもと、島田さんとその兄弟である兄・山脇耀平さんとで2015年にデニムブランドを立ち上げた。デニムを通じて、ものづくりの作り手たちの想いを、丁寧にお客さんへと届けている。彼らの取り組みからは、どうしたらデニムを手にする人が愛着を持ち続けてくれるかを、真摯に考え続けていることが伝わってくる。


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受け取る人の暮らしにまで想いを馳せ、寄り添ってくれる、“やさしいものづくり“のある場所。島田さんのつくるデニムとカレーの共通点をこっそり見つけた気がして、なんだか、嬉しくなる。この場所へ訪れてカレーを口にするたびに、豊かな気持ちになる理由が、わかった気がした。


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DENIM HOSTEL float」で過ごす、おいしくて豊かな時間。

 

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