大型客船や観光客で賑わう長崎市大浦地区は、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言発令で経済的な大打撃を受けた。この状況を受けて、大浦地区周辺のまちづくりに取り組む若者が立ち上がり、地域の飲食店を支援しようと「長崎山手応援隊」が結成されている。
育んできた地域とのつながりを、支援に活かしていく。
毎年約700万人の観光客が訪れる観光都市・長崎市。
中でも、年間200隻以上のクルーズ客船が停泊する港付近の大浦地区は、日常的に多くの外国人観光客で賑わっている。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大と、それによる緊急事態宣言による自粛要請などが重なり、周辺のお土産屋や飲食店に甚大な影響が及んだ。

この状況を受け、大浦地区周辺でまちづくり活動に取り組む若者有志が動き始める。
地域に住みながら、斜面地の課題である空き家の活用や、地域コミュニティへの参加を実践している岩本諭さんなどを中心に結成された「長崎山手応援隊」だ。(以下、応援隊)
活動のスローガンは「GO!GO!山手」。
大変な状況にもネガティブにならず、常に前向きな気持ちで地域を応援するとともに、この機会に様々な新しいチャレンジに取り組んでいきたいというメッセージを込めた。
「山手」とは、大浦地区を含む東山手エリアや南山手エリアなどを総じての愛称だ。

岩本さんは左から2番目
「長崎山手応援隊」公式Facebookページはこちら
https://www.facebook.com/nagasakiyamate/
応援隊には、この大浦地区で暮らす人もいれば、住む場所は違えどイベントやまちづくり活動で地域に関わったことのある人なども。特に中心メンバーは、毎年9月に開催される地域の一大イベント「長崎居留地まつり」の実行委員でもあった。大浦地区エリア一帯がイベント会場となり、各地で雑貨市やコンサート、展示会、ワークショップなどの催しが行われるお祭り。2019年の同イベントでは、初の試みとして、夜の飲食店回遊を促進する呑み歩きラリー「長崎居留地BAR−GAI(バル街)」を、若手メンバーで企画・運営していた。

初挑戦の企画実現に向けて、地域の飲食店に足繁く通いお店の方とコミュニケーションを取った運営メンバー。初めは警戒心を持たれていたが、当日の大きな反響を実感したお店の方からは感謝の言葉をもらえるようになっていた。この時から育まれていた多くの飲食店とのつながりが、今回の応援隊を結成する原動力となる。
顔を合わせながら、丁寧に広げていく応援の輪。
応援隊の活動はまず現状のヒアリングと情報発信からスタートし、様々な支援策へと展開していった。
活動の概要は以下の通り。
①現況調査
飲食店に対する影響調査、テイクアウト・デリバリーメニュー等のヒアリングを行い、Facebookページにて情報を発信
②「GO!GO!山手メニュー」
テイクアウト・配達を行なっている店舗情報をまとめた情報誌を作成し、5月5日(GO!GO!の日)に新聞折り込みで周辺世帯に配布
③「GO!GO!山手カード」
販売価格5,000円で5500円分利用できる金券カードを発行し、店舗の資金繰りをサポート
④「山手チャンネル」
YouTubeチャンネルを開設し、より顔の見える形で活動の紹介や発信を行う
⑤「GO!GO!山手ショップ」
周辺店舗のテイクアウト商品を購入しやすいよう、地元スーパーの協力を得て、地域住民が買い物に訪れる時間帯に特設ショップを設け、販売会を実施
支援活動が目に見える形で地域住民に伝わっていくのは②以降となるが、一番最初の①現況調査を無くして応援隊の方向性が決まることはなかった。
岩本さんは、まずは当事者の声に耳を傾けることの重要性を主張した。

客足の減少度合いや、テイクアウト対応可能かどうかなどを情報収集していった。
「動き出そうにも、まだどんな状況かもわからないし、今の現状に困っているかどうかも店舗によっては差があるかもしれない。応援する(地域住民)側も事業者の生の声を聞くことで、馴染みのお店が困っているなら助けなくちゃ!という気持ちになる。それが自然な流れだと思います。」と岩本さん。
また、いま各地で起こっているテイクアウト普及の運動は、「おうちで食べられる美味しい料理をテイクアウトすること」と「困っているお店を助けること」の2種類の目的に分かれてしまっているのではないかと指摘。
岩本「僕たちはテイクアウトの流行を作りたいのではない。あの時お世話になったお店が潰れて欲しくないから集まっているんです。だから、エリアを顔のわかる範囲である大浦地区に限定しています。」

情報がある程度集まってきたら、応援隊は次の段階に移っていった。
SNSでの発信は、地域で暮らすお年寄りや接点のない人には届きにくい。
地元住民が地域を応援する構図を描くためにも、“リアル"な情報、支援の仕組み、商品購入の機会を次々に創っていく必要があった。


チラシはイラストや顔写真をつけて店舗紹介を行い、親しみの持てるデザインで作成した。掲載店舗も、配布後に注文が増えたりなど効果を実感しているとのこと。
しかしそれでも、観光客がゼロになってしまった今では、未だ店舗の経営状況は厳しいことに変わりなかった。
いよいよ行き詰まってきたある飲食店経営者が、自分の所属する地域コミュニティのLINEグループにSOSのメッセージを投げた。それを受けて、応援隊はよりダイレクトに店舗を応援する仕組みを考案。地域内の飲食店で使用可能な、先払い制の金券カードだ。

店舗の常連やファンが直接的に支援できるシステムで、なんとか今の状況を切り抜けられるようにサポート。導入するかどうか、多くの人が購入してくれるかどうかは店舗次第だが、顔の見える関係性が濃厚であるほど効果をもたらすものだ。導入した店舗からは、このおかげで資金繰りが助かっているとの声が挙がっている。
他にも、より効果的に商品の販売促進を図るために、地元スーパーの協力を得てお弁当の販売会を実施するなど、SNSだけに頼らないリアルな支援の輪を広げていった。

「地域に愛される」=お店を守るセーフティネット。
ただ、支援活動を進めていく中でも、その手が届かなった飲食店もある。
メンバーが地域巡回中に、いつの間にか閉業してしまった店舗があるという報告が。
それには様々な要因があるだろうが、まちづくりに取り組む岩本さんには今回の件で少し見えてきたことがあった。
岩本「観光客に依存しすぎるのはリスクがある。地元の人もよく通う愛されるお店だったら、このような状況もなんとか切り抜けられるかもしれません。」
「それに、本当にどうしようもなくなった時にヘルプを出せる人がいるか。例えば、災害が起きた時に助け合える関係性が、地域内で築けているかどうかと同じこと。動いてくれる人がどれだけいるかは、やっぱり普段からのコミュニティとの関わり方によって変わってくると思います。」

住民と地域が協力しあう元気な姿が伝わってくる。
地域のことは住民が応援する。
今回のように、いざそうせざるをえない状況になった場合には、普段からの顔の見える関係性やコミュニティへの関わり方が、お店を守るためのセーフティネットになり得る。
「地域に愛されるお店」を地域で守っていく。「長崎山手応援隊」の活動を通して、大浦地区にはそんな支援の輪が広がっている。