島根を知り、島根とつながることで自分らしい地域との関わり方を考える連続講座「しまコトアカデミー」。11年目の今年は初めてオンライン講座と現地インターンシップのハイブリッド構成で実施。あらゆる立場の受講生が、それぞれの視点で島根を楽しみつつ交流を深めていきました。
関係人口育成講座の先駆け、これまでの軌跡。
これまでの受講生はおよそ260人。しまコトがきっかけで島根に移住した人や、受講を通じて見つけた島根や地域との関わり方を実践する人もいるなど、その後の暮らしに影響を受ける人が少なくありません。
半年の時間をかけて、島根への想いを醸成していく。
第1回、第2回はオンライン講座で、初めて出会う受講生同士の自己紹介から始まり、その後メンターへ相談しながら自分が関心のあることと島根でできそうなことの接点を探していきました。
最終発表会では、全受講生が講座を通して考えた今後の島根との関わり方を「しまコトマイプロジェクト」として発表しました。マイプロジェクトの多くは、今日からすぐに実践できそうなことや、好きなことと島根を掛け合わせたこと、これまでやってきたことの延長線上にあるようなことなど。今回の講座でつながった受講生同士が協力して挑戦できそうなプロジェクトもありました。夢物語のような壮大なものではなくて、長くゆるく島根と関わり続けられる方法を模索し、等身大の自分を大事にしたマイプロジェクトばかりでした。
11年目の新たなチャレンジ。
受講生には、島根に住んでいる人、何かしらのかたちで島根に関わったことがある人、今回初めて島根と接点を持った人など、様々な立場の人がいます。島根との関係も、興味関心の範囲も異なる41人が「島根」をキーワードに集まり交流することで、それぞれが自分らしい島根とのつながりを考える時間となりました。
2020年、2021年は「コロナ禍でできるつながりづくりを」とオンラインで実施しましたが、今年はオンラインに加えて3年ぶりに現地インターンシップも実施。インターンシップ中受講生からは、「オンラインで顔を見ていたけれど、実際に会うと『これで本当に知り合いになれた』と実感できるね」なんて声があちこちから聞こえました。全国から気軽に参加できるオンラインの手軽さを残しつつも、直接顔を合わせなくては得られないコミュニケーションの熱量を感じ、関係を深めることができました。
また、オンラインでのグループワークは講座ごとに行いましたが、現地インターンシップは講座の枠を越えて、一緒に島根を巡りました。そのため、講座横断的な交流も生まれ、講座が終了してからもオンラインでの集まりやリアルでの再会が展開されています。
「しまコトファミリー」という新たなコミュニティへ。
受講生のことば
東京講座 三玉璃紗さん
特に印象に残ったのは、現地インターンシップで訪問した石見銀山生活文化研究所で聞いた三浦類さんの「新たに創るものは、できるだけ土に還るものでつくろうとしている」という言葉。元々環境問題に関心があったこともあり、環境負荷の少ない生活を実践し、土に還る循環の中に存在する心地良さを取り戻していくことで、自分らしく生きていけるのではと思うようになりました。
また、島根と小川町にある手漉き和紙が、日本でユネスコ無形文化遺産に登録されている和紙3つのうちの2つであることを今回初めて知り、マイプロジェクトとして「土から生まれ土に還る和紙雑貨のブランド」を立ち上げたいという夢が生まれました。和紙についてはまだまだ知らないことばかり。それぞれの和紙の特徴を学んだり、生産地を訪ねて職人さんと交流したり、夢の実現に向けて歩みを進めていきたいです。
関西講座(島根県吉賀町在住) 円山洋輔さん
あちこちを転々として暮らしてきたため、ふるさとといえる場所がないことをコンプレックスに感じることもありますが、それは自分の強みでもあると思っています。外と中の視点を両方持つ自分が都市部と島根をつなぐことで、一層島根が楽しい場所になってくれたらと願っています。
しまコトでの大きな収穫は、気の合う仲間とたくさん出会えたこと。知らない世界を知ること、新しい知識を得ることが好きで、講座が終わってからも島根県内外に受講生に会いにいっています。今後はその体験を文章にまとめ、web上にアップしていく予定です。自分自身が楽しむのはもちろんですが、それを読んだみんなも楽しんでくれたり、その人に会いに行ったり、どんどんつながりが広がり島根全体が盛り上がっていく未来をイメージしながら活動しています。
島根講座 高橋椿太郎さん
高校生の時に病気で言語障害などの問題を抱え、授業についていけず不登校になりました。復学を目指して入った宍道高校という通信制の学校で、さまざまな事情から学びたくても学べない状況にある人や、学びを諦めてしまった人が多くいることを知り、自分の中で「学び」が大きなテーマになりました。
以来、学校で一律に実施されるのとは違う「自分らしい学び」を大切にしながら、幸せな暮らしを考え実践したいと活動しています。しまコトも、地域に根差しつつ自分らしさを大切にする暮らしを送る人たちと出会いたくて受講しました。
島根で活動する先輩たちは、あたたかい人ばかり。多様な暮らし方や考え方に触れることができ、しまコトならではの刺激をたくさん受けました。
今後も、暮らしや学びへの考えを深め実践していくために、島根での起業を考えています。人生に大きな影響を与えてくれた宍道高校とも関わりを続けていきたいです。
運営陣からのことば
主催 公益財団法人ふるさと島根定住財団 持田大樹さん
受講生の皆さんや今後受講を検討している人には、しまコトを受講したからと言って「島根に深く関わり続けなきゃ」と重荷に感じてほしくないな、と思います。自身の生活拠点や生活スタイルに無理のない範囲で、受講前より島根が気になるようになったり、ふとした時に島根のことを思い出したり、島根で得たことを他の場所で生かしたり。そんな風に、ゆるくふわっと「しまコトファミリー」に加わってもらえると嬉しく思います。
事務局 株式会社シーズ総合政策研究所 奥崎 有汰さん
しまねをキーワードに、暮らす人や土地、講師・メンター、そして受講生同士との出会いを通じて、一人ひとりが自分らしい等身大の関わり方を見つけていけるのが、しまコトの醍醐味です。受講生が多様な価値観や思いに触れられるような講座を目指し、内容を深化させてきました。
今期は、受講生同士がとても楽しく深く繋がっているのが印象的です。修了後もコミュニケーションが活発に行われていますし、マイプロジェクトの実践もすでに始まっています。仲間のプロジェクトに参加したり、参加できなくても県外から応援したりと盛り上がりを見せています。こういった関係がずっと続く仲間と出会えることもしまコトの魅力だと思います。
島根は自分の未来を見つけるためのフィールドとして、とても豊かな場所です。多くの仲間や先輩との出会いを通じて、自分の世界が広がっていきます。
メイン講師 『ソトコト』編集長 指出一正
今年はプライベートも含めてたくさん島根に足を運んだ年でした。島根の持つゆるやかな雰囲気から生まれる心拍数は、自分の心拍数と合っているから、安心して訪れることができます。そういう場所があることがありがたいし、しまコトを受講した皆さんもきっと同じ気持ちじゃないかな、とも思います。
関係人口は、結果ではなくプロセスを楽しむ行動で、それは人生も同じ。一人ひとりがライフスタイルの中で地域と楽しく関わることが、ご飯を食べるのと同じくらい自然なことになっていく未来を想像しています。
東京講座メンター 株式会社シマネプロモーション/NPO法人てごねっと石見 三浦大紀さん
その土地の雰囲気、文化、そこに暮らす人の考え方などに触れながら自身の思考の範囲を広げていく。そこにしまコトの魅力があります。島根を通じて自分を見つめ直すことで、自分自身の解像度を高め、自分にとってちょうどいい地域との関わり方を見つけていけるはずです。
島根が気になるなら、だれでもしまコトへ。
「インターンシップから帰ってきてから、天気予報で毎朝島根の天気もチェックするようになった」と話す受講生がいました。さりげなく日常の中に島根が息づいていく。今後もしまコトを通じて、そんな人が増えていくはずです。「地域活動に興味があるけれど最初の一歩が踏み出せない」「島根とつながってみたいけれど、どんな方法があるのかわからない」――しまコトは、そんな人たちをあたたかくゆったりした雰囲気で受け入れるコミュニティであり続けるでしょう。