気軽に、無理なく空き地活用。農のある都市型ライフスタイル「さかのうえん」

気軽に、無理なく空き地活用。農のある都市型ライフスタイル「さかのうえん」

坂の町・長崎市で、空き地を活用して農園を楽しむ「さかのうえん」プロジェクト第2弾。農のある暮らしと若者を受け入れる地域住民のリアルな声とは。

坂の町中に生まれた、元・空き地の農園


日本国内の中でも、町や生活に斜面が溶け込む坂の町・長崎市。車が入れないほど狭い路地や、密集した家屋の間を縫うような階段は圧巻の風景である。また、人口流出が2019年に引き続き2年連続でワースト1位の長崎市。特に、特定の地区や町ごとの小さな単位で話を伺ってみると、人口減少や高齢化率、空き家、空き地の問題は、身近に差し迫った深刻な課題となっている。


今回の舞台は、長崎市中新町。かつては、密集した家屋の中には銭湯などもあり、造船業に従事する働き盛りの住民で賑わう坂の町だった。今では、生活に不便な斜面地で暮らす人口は減少、若い人はほとんどが平地に移住。一昔前まで200世帯ほどが暮らしていたが、今では50世帯弱にまで減少している。高齢化率の進行は40%以上にまで及ぶ地域だ。


さかのうえん俯瞰


そんな坂の町のメインストリートにできた、小さなコミュニティ・ガーデン。普段は中新町以外の場所で暮らす若者が、週末にお世話をしにやってくる。側を通る人が「暑かね〜!実っとる?」なんて声を掛けてくれるほど、畑に面した通りは多くの地域住民が使用する生活の道のようだ。この日は、5月頭から育て始めた夏野菜を収穫。


育てているのは、トマト・枝豆・なす・とうもろこし・きゅうりなど。実った作物をみんなでワイワイと収穫。農園をやるにあたって、収穫の作業はやはり嬉しい時間だ。今年は梅雨が長かったこともあり、湿気で枯れてしまったり、収穫のタイミングを逃してしまったりなど、中には残念ながら失敗してしまった野菜もあったみたい。若者が挑戦する初めての農作業、失敗もご愛敬。


トマトの収穫


畑仕事をしていたら、元・中新町自治会長の西川さんが奥さんと一緒にやってきた。農園のお世話にやってくる若者に、道具を貸してくれたり、野菜の育て方を教えてくれたりなど、暖かくサポートをしてくれる存在。畑を動物から守るためにいつの間にか周囲にネットを設置してくれるほど、積極的に関わってくれている。


若者と西川さん


どうして若者の手助けをしてくれるのか?西川さんに尋ねてみた。



さかのうえんが始まるきっかけは、1人の大学生の存在

家の中ではなく、町の真ん中で


農作物が育つこの場所は、かつては雑草が生い茂る空き地。元々は酒屋が建っていたのだが、数年前に廃業、建物は解体されて空き地となった。その後は、ゴミが不法投棄される、虫が出ると言って、特に子どもや女性はこの空き地の前を通りたがらないような場所に。西川さんは、息子さんと一緒に1年に2回ほど草刈りをするなど管理を請け負っていたが、常に綺麗な状態を保つのは簡単なことではなかった。


阿多さん


そんな時に現れたのが、大学生の阿多さんだった。空き家活用で地域活性化をやってみたいと、中新町に移住してきた阿多さん。自治会に加入し、地域の困りごとをお手伝いするなどして、地域コミュニティの中に入っていった。しかし、住民からすれば、いったい何が目的なのか?普段何をやっているのか?と疑問に感じる部分があり、阿多さん自身もそれは課題に感じていたとのこと。空き家活用と謳って家の中に居ても、その様子をSNSで発信しても、すぐ近くの地域住民にはかえって伝わらない。


それならばと、家の前にある空き地の草刈りでもしてみようかと思い立った。家の中にいるより、外に出た方が地域住民の目に触れることができるのではないか。そんな素直な気持ちで、当時自治会長の西川さんに相談し、草刈りの道具を借りてボランティアで空き地を綺麗にしてみた。すると、作業時間が夕方の帰宅時間と重なったこともあってか、地域の人たちがたくさん声を掛けてくれたのだ。ありがとうと、感謝の言葉をもらった。


あれ?空き家活用するより、空き地の草刈りをした方が、地域のためになってる?


空き地の草刈りの様子


町の景観も良くなるし、草むらから虫は出てこなくなる。捨てられるゴミも減る。道具さえあればお金もかからない。こっちの方がいいじゃん!きっかけはとてもシンプルだった。それから、もっと他の空き地も綺麗にしていこうと、「空き地開拓プロジェクト」として、のちに農園となるこの場所の整備にも手を付け始める。1人で作業をする時もあれば、SNSで呼びかけて仲間を募ることもあった。


元々、用途が見つからない空き地をどうしたら良いものか、困っていた西川さん。整備してくれる阿多さんにも、この場所を好きに使ってもいいと伝えていた。一緒に空き地整備をする仲間内で、「農園をやろう」と提案があった。


開墾


初めは道具の使い方も分からなかったが、西川さんに教えてもらいながら、見様見真似で空き地を開墾。中新町の「さかのうえん」プロジェクトが始まった。 そして、この小さな菜園をきっかけに、少しずつ周りの住人が巻き込まれていくことに。


なんと、西川さんの息子さんも感化されて、畑を始めてしまったのだ。阿多さんの畑のすぐ奥に開墾し、次から次へと育てたいものが増えては、2つ3つと畑が増えていった。さらには、奥さんも昔やっていた畑仕事を再開することになり、農園の目の前に住む人は毎朝水やりをしてくれた。雑草が生い茂る空き地が、いつの間にか住民が集まるコミュニティ・ガーデンになっていたのである。


さかのうえん俯瞰、西川さんの畑


みんなが無理なく関われる形が「さかのうえん」だった


実は、阿多さんの空き家活用プロジェクトは1年という期間を経て終了する。空き家の居住環境や、金銭面など、様々な要因があった。大学生がこなすには決して簡単ではない障壁があったのだ。


一方で、空き地開拓プロジェクトは無理のない範囲で、学生でもやれることができた。加えて、たくさんの地域住民がその姿を見て、自分も空き地活用に参加する人、彼女を応援する人など、良い連鎖反応が生まれていた。西川さんの息子さんは、畑仕事など今まで一度もやったことが無かったが、今では出勤前の早朝6時ごろに水やりをしているという。見事なはまり具合である。


畑仕事をする息子さん


農園のお世話にやってくるよそ者・若者は、毎度友人や興味がある人を連れてくる。勤務先の保育園で畑をやっており、野菜の栽培に関する知識がある人。別の斜面地で空き家・空き地活用で農園を始めようとしている人。みんなで初めての収穫を経験し、夏野菜を手にして喜び分かち合っていた。町の負のイメージを抱えていた空き地に、住民が行き交うしか無かったこの町に、楽しさを求めて地域内外の人が集い始めていた。


西川さんに、阿多さんや若者たちに対して、どうしてそこまで気にかけてくれるのか。改めて尋ねた。


西川さん「彼女が一声かけてくれたら、空き地の草刈りや地域行事の人手が足りない時に、すぐに何人も集まった。全く若者の気配が無かったこの地域に、ですよ。すごく感謝しています。この繋がりだけでも残しておきたい。力になれることはやってあげたいですし、もっと頼って欲しいなとも思います


西川さん


空き家活用や地域コミュニティに入っていくことの難しさをリアルに描いたまちづくりの在り方。でも、無理のない範囲で関わり続けられるさかのうえんが残った。阿多さんがこの地域から去った後でも、中新町のさかのうえんは、色んな人を巻き込んで動き続けている。もちろん、彼女自身もこの地域と農園には通い続けているのだ。


まちづくり、地域活性化は、無理をしてまでやることではない。楽しみながら、マイペースに続けられることが、本当の意味で長い関係性を築くことができるようだ。また、それには「よそ者・若者の挑戦と失敗を許容できる地域」であることが大前提として求められる。プレイヤー側に必要な要素に目が行きがちだが、受け入れる地域側のスタンスもよく理解しておきたい。


さかのうえん、奥の斜面を入れて

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