愛媛が生産量全国一位の「ツタンカーメンも食べた」世界最古の栽培植物はスーパー食物だった

愛媛が生産量全国一位の「ツタンカーメンも食べた」世界最古の栽培植物はスーパー食物だった

紀元前7000年から栽培されている世界最古の穀物と聞いて、何を思い浮かべますか?その一つが大麦です。古代エジプト、ツタンカーメン王の墓の副葬品としても納められていました。大麦は脱穀時に皮が取れやすい「はだか麦」と、取れにくい「皮麦」とに分かれます。はだか麦は古くから日本でも水田や畑作の重要な裏作物でした。このはだか麦、国内では雨の少ない瀬戸内地方が栽培に適していて、実は愛媛県が34年連続で生産量日本一。愛媛県にもはだか麦が黄金色一面に広がる「麦秋」が存在するのです。今回その栄養価からスーパー食物として注目される「はだか麦」についてお届けします。

ツタンカーメンも食べた世界最古の穀物


世界で最も古い栽培植物、作物はなんでしょう。
その答えのうちの一つは、大麦です。


人類が農業を始めた歴史を紐解くと、紀元前9500年ごろにまで遡ります。
地中海とメソポタミア川に挟まれた中東のレバント地域では麦類や豆類の始祖となる作物が収穫されていました。
そして紀元前7000年ごろから栽培が始まり、古代エジプトのツタンカーメン王の墓の副葬品としても納められたのが大麦です。


ツタンカーメンと麦


大麦の一種「はだか麦」国内生産量一位は愛媛


大麦は脱穀した際、皮が容易に取れるかどうかで二つに分類されます。
取れやすいものを「はだか麦」と呼び、取れにくいものを「皮麦」と呼びます。


また実る穂の列の数の形状の違いから、二条大麦と六条大麦とに分かれます。
皮麦のうち、二条大麦は主にビールや焼酎用に使用され、六条大麦は雑穀として米に混ぜたり、押し麦や麦茶として食されます。


はだか麦で二条のものは品種が少なく、日本で栽培されているものはほとんどが六条のものです。
六条大麦同様麦飯や、特に麦味噌の原料などに使われてきました。


大麦の分類


一般に二条大麦、六条大麦と言えば「皮麦」のことを指しますが、農水省の統計では麦の生産量として、小麦・二条大麦・六条大麦・はだか麦と4種類の統計が取られています。


このうち、はだか麦は湿害や寒さに弱いため、国内では雨の少ない瀬戸内地方が栽培に適していて、実は愛媛県が34年連続で生産量日本一。全国シェア34%を誇ります。


麦四種の国内生産量(上位2位)
小麦   764,900t(北海道471,100t、福岡54,900t)
二条大麦 121,700t(佐賀34,400t、栃木31,000t)
六条大麦 39,000t(富山7,180t、福井7,160t)
はだか麦 14,000t(愛媛4,910t、香川2,230t)
(平成30年農水省統計より)


ちなみに小麦の生産のシェアは北海道が圧倒的ですが、二条大麦は佐賀や栃木、六条大麦は富山や福井で生産が盛んです。


はだか麦(撮影:愛媛県西条市)
はだか麦(撮影:近藤優依 撮影地:愛媛県西条市)

愛媛産はだか麦の変遷


愛媛県では長らくはだか麦の生産が盛んでした。
愛媛県農林水産研究所HP「麦よもやま話」によると、大正2年には過去最大の作付面積44,000haでしたが、先の平成30年農水省統計では1,810haにまで減っています。また収穫量も過去最大だった昭和29年の99,000tから比べ1/20ほどとなっています。


はだか麦の用途も大きく変わりました。
大正初期には9割が主食用だったのに対し、現在では7割が麦味噌用、2割が主食用の押し麦、残り1割が麦茶や焼酎に使用されています。


これらは昭和30年代に国内の米生産が増加し、主食としての需要がなくなってしまったことが要因です。

さて農林水産省の食料・農業・農村政策審議会「食糧部会資料(令和2年3月31日開催分)」によると、2016年以降健康志向等を背景に大麦およびはだか麦の需要が増加しているとしています。


大麦やはだか麦には健康に関わるどんな効果があるのでしょう。


注目されるはだか麦の「β-グルカン」


近頃発酵食品が人気ですが、それと似たものに発酵性食物繊維があります。

発酵食品はその名の通り、発酵した食べ物をそのまま体内に取り込むのですが、発酵性食物繊維は大腸の中で腸内細菌のエサとなって細菌を活発にする一方、菌に食べられることで発酵して短鎖脂肪酸となり、腸内環境を整えてくれるのです。

食物繊維は水溶性と不溶性とに分かれますが、水溶性食物繊維はほぼ全てが発酵性食物繊維です。


さて大麦は、玄米の3倍、白米の20倍とも言われる食物繊維を含みます。

食物繊維の中でも特に水溶性食物繊維である「β-グルカン」を多く含んでいて、動脈硬化やガンの予防、血糖値の上昇を抑える効果があると言われています。


さらにβ‐グルカンは、大麦穀粒の中心部分に多く含まれているため、加工しても効果が変わりません。


はだか麦を含む大麦には、粘り気の性質から「うるち麦(粘りが少ない)」と「もち麦(粘り気が強い)」の品種に分かれますが、「うるち麦品種」よりも「もち麦品種」が、そして大麦よりもはだか麦が「β-グルカン」を多く含むとされています。


これらのことから大麦・はだか麦は注目されるべきスーパー食物と言っても過言ではありません。


スーパー食物・はだか麦全国一位愛媛では


最後にはだか麦生産量全国一位の愛媛県での取り組みを紹介します。


みかんや柑橘類のイメージの強い愛媛県ですが「麦秋」を感じさせる一面黄金色の麦畑が広がる地域があります。

はだか麦の生産は特に、西日本最高峰・石鎚山のお膝元である西条市と、県庁所在地・松山に隣接する松前(まさき)町と東温(とうおん)市とで盛んに行われています。


収穫を前にしたはだか麦。背後には西本最高峰・石鎚山も(撮影:愛媛県西条市)
収穫を前にしたはだか麦。背後には西日本最高峰・石鎚山も(撮影:近藤優依 撮影地:愛媛県西条市)

各市町とも地元産の食材のはだか麦の消費を促そうと広報誌やホームページで特集を組み、地元飲食展や料理研究家と作ったはだか麦料理のレシピを紹介するなどしていますが、松前町では特にはだか麦を使ったおやつや料理を提供するお店を認定する「はだか麦認定店」という取組を行っています。


また昨年2年12月には、町内の大規模商業施設である「エミフルMASAKI」敷地内にある産直市「まさき村」を「はだか麦の里 まさき村」に名称変更。町の特産品「はだか麦」を全面に出してリニューアルしました。


その他、はだか麦を含む麦類が2年連続で豊作となり供給過多となっている状況もある中で、県内の有力企業が社員食堂ではだか麦を利用開始したり、大手コンビニチェーンのローソンがはだか麦入りのおにぎりを県内で販売するなど、官民共同での消費拡大、PRに取り組んでいます。


またはだか麦は麦焼酎にも活用されますが、県内の野村高校では地元蔵元と共同で自ら栽培したサツマイモを原料に、はだか麦のこうじを使用した芋焼酎を開発しました。


一方松山市内のクラフトビール醸造所DD4D BREWINGでは、はだか麦を使用した「麦のワイン」と呼ばれる長期熟成し、アルコール度数の高いビール、バーレーワインをクラウドファンディングを活用してリリース。
300人近くが支援し、目標金額の8倍となる約240万円を集める結果となりました。


このように県内では健康食品という側面からも、また独特の風味を求める向きからも改めてはだか麦が注目され、全国一位の特産品であることを広くPRしているのです。


麦味噌みそ汁で愛媛を味わえる


いかがでしょうか。愛媛県には意外な生産量一位の食物がありました。

はだか麦は様々な料理やお菓子、新しい加工品などで味わうことができますが、個人的なオススメは愛媛県民の各家庭で作られている麦味噌の味噌汁です。


お味噌汁


一般的に愛媛は甘い味付けが多いのですが、甘口醤油が合う魚がよく獲れることや、はだか麦から作られる麦味噌が主流であることが影響しているようです。


米の不足をまかなった麦で作られ、田舎みそとも言われる麦味噌。


甘くて優しい素朴なスーパー食物「はだか麦」の味噌汁で、みかんとはまた違った愛媛を味わえるはずです。