高知市を流れる鏡川。その流域を編集の視点で捉えることで自分らしい関わり方を見つけようと、流域内対象の講座「高知・鏡川 RYOMA流域学校」と流域外対象のオンライン講座「エディットKAGAMIGAWA」がそれぞれ行われ、いよいよ最終発表会となりました。
目次
外から鏡川流域との関わり方を考える
流域外対象の講座「エディットKAGAMIGAWA」の最終発表会はオンラインで行われました。1人5分ずつの持ち時間で12名の受講生が発表します。発表後にはメイン講師『ソトコト』編集長指出一正さんと講座メンターのかずさまりやさんから講評がありました。
トップバッターは、講座のムードメーカーとして受講生を盛り上げてくれた甲 (かぶと)守弘さん。「I need “YOU” along 鏡川‼︎‼︎」というタイトルで日本仕事百貨などの事例を挙げながら、流域外に発信する手段とアイデアとして発表してくれました。情報の受け手には鏡川流域を知らない人から関心が強い人までを想定をしていて、情報発信をする編集者としての視点が素晴らしかったです。
「自分らしい」・「積極的」の2つのMVPを受賞した高知県出身・埼玉県在住の比留間優子さんの発表タイトルは「Petit ケンミンショー<高知-土佐山>in川越」。自分が住んでいる地域と鏡川流域の土佐山地域をつなぐというアイデアで、既に川越の古民家ゲストハウスで土佐山ジンジャーエールを販売することを交渉済み! 講座を通して「私たちに一体何ができるのか」という問いに向き合い続けた比留間さんだからこそ具体的ですぐに実行できるアイデアにつながったように思いました。
神奈川県から受講してくれた吉武恵美子さんの「まちの清流でリフレッシュ」。この”まちの清流”という言葉が非常にキャッチーで編集長の指出さんをはじめ受講生の心を掴んでいたように思います。ずっとやりたかったけれどハードルが高いと感じていた「食レポ」。動画やFacebookを駆使することで無理のない「自分らしい関わり方」を見つけて、吉武さん自身も発表しながら鏡川との関わりを楽しんでくれているようでした。
「飲める川の故郷を訪ねて」。吉武さんと同じくキャッチーなタイトルを発表してくれた城所壮汰さん。自身のインドネシア滞在での経験を踏まえて水質に着目。酒文化の高知県らしく「呑める川」というタイトルで横展開をしていくといいのでは、と受講生の会話のなかでブラッシュアップされていて、受講生同士の横のつながりができていることを嬉しく感じました。
「食」に着目したのは永原真幸さんと和田みどりさん。永原さんからは前回のフィールドワークで訪問した『夢産地とさやま開発公社』の生姜を使ったジンジャーエールからヒントを得た「ショウガフェス」や生姜をカクテルにした「鏡川バー」。和田さんからは食べるだけではなく調理することにも価値を見出し、高知の郷土料理を実際に作って発信するという関わり方を発表してくれました。観光業界でも高知は「食」が魅力とされていて、流域外の人たちを巻き込むのに外せない要素です。
東京都から参加してくれた山口亮(まこと)さんは「河原で屋台」「こども交換留学」という2つのアイデアを発表してくれました。前回のフィールドワークで黒笹慈幾さんが話してくれた上流域と下流域で物々交換をするというアイデアを、ものではなく子ども達の交換留学という形で取り入れる。同じく前回のフィールドワークで『土佐山学舎』の竹崎優子校長が幼少期から地域で楽しいことを体験させるという部分にも通ずるものがあり、講座で学んだことをしっかりと自分らしい関わり方にして発表されていて「地域の編集力」を感じました。
「モザイクアートを作る」という斬新な企画を発表してくれた鵜久森晃央さん。SNSで共同アカウントを作り発信するという若者目線での企画。地元の高校生なども巻き込んで実施できるととてもいいと感じました。
「明日からできることを考える」という視点で発表してくれたのは、高知市の隣接市に住む高田佳乃さんと、大学生の浅田彩音さん、新潟から参加してくれた江龍田崇大さん。高田さんは何かを始める時に一番大切な自己分析という気づきを、浅田さんは地域課題にアプローチできるファッション編集者になりたいという目標を、江龍田さんは高知の歴史講座にさっそく申し込み自分の興味・関心のあることから高知を知るという発表をしてくれました。
内から鏡川流域との関わり方を考える
2日後に高知市内の「オーテピア高知図書館」で行われた「高知・鏡川 RYOMA流域学校」の最終発表会。オンラインからの参加も可能で、発表を終えた「エディットKAGAMIGAWA」の受講生も視聴できる形で行われました。
「高知・鏡川 RYOMA流域学校」では1人6分ずつの持ち時間で15名が発表。その後、メイン講師『ソトコト』編集長指出さんと講座メンターの奥川季花さんから講評がありました。
「自分らしい」・「積極的」などのMVPを受賞したのは窪田良雅さんの「meる観光」と「あなたの推し○○をマッピングする」。見る、観る、看るなど地域に対して「みる」角度を段階的に考えるアイデアと、観光資源を自分たちで見つけてマップに集約するというアイデアです。指出さんからは「昔はこうだったと若者に押し付けないこと、自分たちで観光資源を見つけさせることが地域の未来を考えていくうえで大切なこと」と講評がありました。大学生の窪田さんが中心となって幅広い世代を巻き込み地域を盛り上げてくれることを期待しています。
同じく「自分らしい」のMVPに輝いた八田裕子さん。最終発表会の会場でもある「オーテピア高知図書館」で勤務していることを活かして、本だけでなくチェアリングの備品貸し出しを提案しました。京都の鴨川が若者や地元の人に自分ごとにされているように鏡川と地域の人をつなぐアプローチだと感じました。
上流と下流での交流を促すというアイデアで発表してくれたのは八田大輔さんの「かがみ川”交響”交通」、和田好文さんの「トンボ見つけてコインをゲット‼︎」、井倉俊一郎さんの「龍馬も泳いだ鏡川上流『鏡吉原そうめん流し』の復活プロジェクト」です。「エディットKAGAMIGAWA」受講生の山口さんと通ずる着眼点を感じました。また、講評では指出さんと奥川さんが「かがみ川”交響”交通」というネーミングを絶賛!キャッチーな言葉は多くの人に関心を持ってもらう大切な要素で、企画内容と同じくらい重視している点も素晴らしく思いました。
既に流域内に住んでいて、場を提供することを強みにした橋詰辰男さん、林明保さんの発表。メンターの奥川さんからは自身の経験をもとに場所や機会を提供してくれる地域の大人がいれば若者が地域課題にアプローチしやすい、地域に必要な大人であると講評していました。
情報発信という視点では岡崎孝生さん、藤原麻希さんからの発表がありました。岡崎さんは動画、藤原さんは話・文字、というそれぞれ興味のある表現での発信方法を提案しました。「食」というカテゴリでは大下宗亮(そうすけ)さん、角田(つのだ)憲彦さん、岡林雅士さんが発表。人が共通して興味を持ちやすい「食」にどのような価値を加えて提供するのか、観光やキャンプなどそれぞれ自分の事業や好きなことが編み込まれていて実現する日が楽しみです。
講座前に鏡川流域で古民家を購入したばかりという永野正和さんは、まず自分がこんな生活をするという視点を中心にお話してくれました。「ジャンプインマップ、その後」という鏡川上流域で飛び込みができる場所をマッピングするというアイデアはぜひ窪田さんのマッピング案のなかで実現してほしいです。設計士をしている山本効さんと永野さんは流域の場づくりとして小屋作りの計画が進んでいるそう。さっそく受講生同士が協力してアクションへつなげていることも素晴らしいと感じました。
「子どもたちに自然に触れる機会を与えたい!」。教育の視点で子どもたちが自然から離れてしまっていることを危惧しているという岡林篤志さんは子どもたちに向けたアウトドア事業を主催する心意気を語ってくれました。これを受けて、メンターの奥川さんは高知では5分の1程度しか学校林を使えていない可能性がある旨を指摘。社会全体で子どもたちを育てていくなかでうまく活用できていない資源をどう活かしていくかが課題となりそうです。
最後にこの講座を主催した高知市から「まちのコイン」というスマートフォンアプリを使った取り組みについて発表がありました。まちのコインは地域の「つながりづくり」のためのコミュニティ通貨。鏡川流域の加盟店・団体が発行したチケットを通じて、環境に良い活動をしてポイントをもらったり、もらったポイントを使って楽しい体験ができるという利用すればするほど、流域内外の人がつながっていく仕組みです。最終発表会の受講生のアイデアもまちのコインを通して活用できればと提案しています。
既に神奈川県や同じ四国の香川県でも取り組みが始まっていて、地域ごとに通貨の呼び名が異なります。高知市の通貨は受講生の投票で「ぼっちり」という名称に決まりました。土佐弁で「ちょうどいい」という意味。2022年3月から導入される予定で、受講生と鏡川流域との関わり方が一つ増えたように思えます。もちろん、受講生に限らず鏡川流域とつながりたい人は誰でも利用できる仕組みです。
フィールドワークから2週間後の発表という短い時間の中で、どれも素晴らしい発表でした。流域内の「高知・鏡川 RYOMA流域学校」、流域外の「エディットKAGAMIGAWA」、どちらの受講生からも鏡川流域と関わりたい、地域課題にアプローチしたいという気持ちが溢れていました。アイデアに優劣はなく、関心を寄せることが地域とつながる大切な一歩だと感じました。これで今回の講座は終了ですが、鏡川流域との自分らしい関わり方を見つけた受講生たちにとって、これからが流域関係人口の始まりです。新型コロナウイルスの影響により全員で鏡川流域に訪れることはできませんでしたが、講座にかかわらずぜひ高知に、そして鏡川流域に訪れてほしいです。受講生同士、流域内外で横のつながりができたことで新たに生まれるであろうコミュニティや取り組みに期待しています!
photographs & text by Mariya Kazusa