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場づくり・コミュニティ

つながりを貯める暮らし。朝倉圭一

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民俗学者の柳田國男は、東北で出会った一人の老婆の言葉に衝撃を受けたという。老婆はこともなげに、「死んだらご先祖になるのだから死ぬことは怖くない」、そう語ったそうだ。

科学者、メディアアーティストとして幅広く活躍する落合陽一の新著『落合陽一34歳、老いと向き合う』は、解剖学者・養老孟司氏との対談を皮切りに、人間の「老い」と超高齢社会日本のこれからを考えた注目の論考だ。弱者を社会の外側に追いやるのではなく、身体補完テクノロジーなどを用いて、社会の一員として役割を担ってもらうという未来像は、働けなくなった老人が、囲炉裏端で孫の面倒を見ていたかつての営みと重なる。著者の描く未来像はいつも弱者に優しい、僕はそこに希望を感じる。

現代を生きる僕らは豊かで自由だけれど、老いた自分がどのような社会で暮らしているのかを想像することができない、死んで先祖になることを想像できた老婆と比べてなんて貧しいのだろう。老婆は長い間、先祖を敬ってきた。だからこそ、死後も同じように敬ってもらうことに疑いがない。老後のために僕らがすべきことは、お金の貯蓄ではなく、身近な人との深い“つながりの貯蓄”なのではないだろうか。

『落合陽一34歳、「老い」と向き合う -超高齢社会における新しい成長』

 (91116)

落合陽一著、中央法規出版刊

朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。

text by Keiichi Asakura

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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