民俗学者の柳田國男は、東北で出会った一人の老婆の言葉に衝撃を受けたという。老婆はこともなげに、「死んだらご先祖になるのだから死ぬことは怖くない」、そう語ったそうだ。
現代を生きる僕らは豊かで自由だけれど、老いた自分がどのような社会で暮らしているのかを想像することができない、死んで先祖になることを想像できた老婆と比べてなんて貧しいのだろう。老婆は長い間、先祖を敬ってきた。だからこそ、死後も同じように敬ってもらうことに疑いがない。老後のために僕らがすべきことは、お金の貯蓄ではなく、身近な人との深い“つながりの貯蓄”なのではないだろうか。
『落合陽一34歳、「老い」と向き合う -超高齢社会における新しい成長』
朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
text by Keiichi Asakura
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。