まちをシェアする「シェア街」。その初代住民を募集するクラウドファンディングは、公開初日に目標金額であった100万円を達成するなど、この新しいコミュニティのかたちに注目が集まっている。“まちをシェアする”とは、一体どういうことなのか? 「シェア街」始動のきっかけや、現在の活動の様子に迫る。
コロナ下でも安心できるコミュニティを目指して。
「シェア街」とは、地域と世界をつなぐゲストハウス「Little Japan」が展開する、リアルとオンラインでつながる新たなコミュニティ。「シェア街」の公式サイトには、こんなふうに紹介されている。
シェア街は、シェアハウスに住む「住民」とそこに関わる「関係住民」の「まち」です。
東京の浅草橋・両国・御徒町・日本橋にあるカフェなどのリアルな「きょてん」に加え、
アプリ上のコミュニティがあり遠隔からでも住民になれます。
住民と関係住民をリアルとオンラインでつなぐ「きょてん・しごと・つうか」の3つの仕組みがあり、
「しごと」をして得た「つうか」を「きょてん」で利用できます。(「シェア街」公式ページより)
このように、シェアハウスを中心にしたリアルな「きょてん」の中で発生する「しごと」や、家賃の支払いや買い物で使える「つうか」といった仕組みを用いながら、リアルとオンラインで独自のコミュニティを築いていく「シェア街」。今回は、その主催者であり、株式会社LITTLE JAPAN 代表の柚木 理雄さんに話を訊いた。

今回、シェア街を始めようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?
直接的なきっかけとしては、このコロナの影響が大きいです。みんな外に出られなくなって、ゲストハウスのLittle Japanにも当然ゲストは来なくなってしまって。とはいえ、ここに住んでるスタッフや、ずっと長らく通ってくれている人とかが常にいたので、一緒にごはんを食べるようになったんです。コロナ以前は、Little Japanのスペースはほぼ毎日イベントをやっていたので、特に僕自身は、住んでる人や宿泊してる人とゆっくりコミュニケーションする機会がなかったんですよね。でも今回、一緒に食事する機会ができて。そのときに、外に出て行かなくても、知ってる安心できる人達だけで集まってごはんを食べることが、すごく心地よく感じたんです。これが大きなきっかけになったと思いますね。
なるほど。「シェア街」には “街”という言葉が入っているものの、そういう安心できる人とのつながりを作ることを目指して始まったものなのですね。
そうですね。コロナで社会全体が暗い状況にある中で、ワクワクするような取り組みを作りたいと思ったのもあります。同時に、Little Japanに旅行者が全然来られなくなってしまったので、これからは長期の宿泊やシェアハウスにしていこうっていうのを考えていて。そのときに、「ただのシェアハウスにするんじゃなくて、これまでやってきたセレクトショップやコワーキングスペースとあわせて、ひとつの街に見立ててみよう」というふうに考えたんです。
その発想がとてもおもしろいですし、ワクワクしますよね。
でも実は、それ自体はコロナがなくても考えていたことだったんです。
そうなんですか?
元々の活動の始まりは、2012年に「芸術家の村」というNPO法人を立ち上げて、その翌年に日本橋でシェアハウスをスタートさせたのが最初でした。私自身、他でも空き家を活用した場づくりやコミュニティづくりに取り組む中で、ひとつでそれなりの規模があればビジネスになるのですが、ひとつひとつが小さいとそれをビジネスにしていくのは非常に難しいと感じていました。あと、やっぱり場所としての魅力も、その1店舗だけリノベーションされて、たとえば、きれいでおしゃれなカフェが出来上がったとしても、そのためだけに訪れるほどの魅力にはならないんじゃないかとも思っていて。それで、空き家を活用していくにあたって、一帯の地域として面的に利用していきたいっていうのは、活動の当初から思っていたことではあったんです。
長年かけて温めてきた構想だったんですね。
そうですね。事業を始めたばかりの段階では、そんなふうに複数物件をやるのは難しかったですが、これまで8〜9年くらいかけて少しずつやってきたものが、今集まってきて。それでようやく次のチャレンジに取り組めるかなって思えたんです。

住民とともに作る「シェア街」の仕組み
「シェア街」の仕組みとして、まちの中で「しごと」があったり、独自の「つうか」が使えるのもおもしろいですよね。
これも、「シェア街」の構想を具体的に考えていくなかで生まれた仕組みです。「しごと」に関しては、やっぱりコロナの影響が大きくて。私の周りでも職がなくなってしまった方がいたり、Little Japanの住み込みスタッフの希望も増えている実感があったので、実際に求人を出してみたら応募も多くて。それで、このまちの中で仕事を作れないかと考えたんです。そこでさらに「つうか」という仕組みを作って、このコミュニティの中だけで経済を回していこうというのを目指しました。なので、どちらかといえば、やや閉鎖的な要素ではあるんですけど。でも、コロナの中でも、すごく愛されているお店はそんなに影響がなかったとか、むしろ売上が増えているとかも話に聞いたりして。誰かが「ここは残したい」「通いたい」と思うところは残って、そうじゃないところはなくなっていくのかなと思ったときに、ちゃんと選ばれる場所になっていきたいなと思って、こういう仕組みを作りました。
たしかに、自分と繋がりが深いお店やコミュニティは続いてほしいと思いますよね。あと「シェア街」は、「関係住民」という関わり方ができるというのもおもしろいです。
「関係住民」は、“関係人口”の影響を受けて作っている言葉で、実際にシェアハウスに住むことは難しいけど、「シェア街」を利用できたり、まちづくりに関われるのが「関係住民」です。本格的なオープンは9月を予定していますが、それまでに住民になってくれた方とは、「シェア街」を作っていく過程も一緒に楽しみたいですね。オープンしてからも、そういう関わり合いはずっと持ちながらやっていきたいなと思っています。
住民が自ら「シェア街」を作っていくことができるんですね。
新しい「きょてん」のアイデアも、住民からもらったりします。今、住民の中から出てきたもので進みそうなのがジムですね。筋トレが好きな人たちが多いので、ジムも作りたいねって話しています。
それは、やりたいと思った方が中心になって進めていくのですか?
そうですね。ただ、その仕組み化はちゃんとやりたいなと思ってます。今はゲームみたいな、クエストっぽい感じでできたらおもしろいなと思ってるんです。たとえば、「新しいきょてんを作りたいなら、仲間は3人集めてから来てね」とか。ものによって、こういう条件を満たしたらできるよっていうことを決めて、それから進めてもらうのをイメージしていて。それで、実際に「きょてん」が出来上がって進み始めたら、「シェア街」の「しごと」として運営してもらえればいいかなと思ってます。今、そういうゲームっぽい仕組みも色々妄想して考えているところなんですけど、どんどん膨らみすぎて、あまり打ち合わせが進まなくて(笑)。「これ現実にするにはどうしたらいいんだっけ」とか、収集がつかなくなってきてます。
楽しそうです(笑)。もう200人近い方が住民として参加されていて、関係住民もかなり増えてますよね。
最初は私の知り合いが多かったんですが、今はもう全然知らない方が増えていて。たぶん日本全国、各地で住んでいる方がおられると思います。なので、たとえば北海道で、現地にいる「シェア街」の関係住民同士のリアルな交流ができたら、おもしろいですよね。あるいは、そういう遠方の関係住民の方が東京に来る時には、「シェア街」のリアルな住民で歓迎をしたりとか、もしくはリアルな住民が関係住民のいる地域に行ったときには、またそこで住民同士交流したりとか。そういったオンラインとリアルの両方での交流を、東京に住んでいなくてもできるようにしたいと考えています。
すごい。「シェア街」を通じて、全国に仲間ができますね。
最近住み始めた方も、1〜2ヶ月くらい「シェア街」に住んだら、ホステルパス(※)を使って全国を回って、関係住民の人と交流しに行きたいですって言ってましたし。そういうことが本当に生まれたら、おもしろいなと思いますね。
※ホステルパス・・・提携する全国のホステルが泊まり放題になる、Little Japanが提供しているサービス。

それから、オンラインイベントを開催されているのも拝見しました。そういうイベントなら、遠方にいる関係住民でも参加できますよね。
そうですね。遠方の関係住民の方だとなかなかリアルな交流はしづらいと思うので、少し距離ができてしまうんじゃないかということも考えました。アプリ上のオンラインコミュニティに加えて何か仕組みが必要だなと感じていて、そのひとつとしてオンラインのイベントを増やしていきたいと思ってます。早速7月は、オンラインで酒蔵見学のイベントを2回開催します。

先日はオンラインで第1回目のシェア街会議が開催されたと伺いましたし、本当に今まさに、住民の方とともに「シェア街」が作り上げられていますよね。定員もすぐに満員になったりして、住民の方もすごく積極的なのを感じます。
そうですね。シェアハウスの内覧案内や掃除といった運営面はLittle Japanのスタッフにやってもらっていますが、「シェア街」に新しい要素を付け加えていくみたいなところは少しずつ住民に関わってもらってます。でも全然、僕は住民の方にとって普通に暮らしやすい場所にしたいので、あんまり凝りすぎて暮らしにくくなっても嫌だなと思ってて。あくまで住民にとっては日常生活の中の暮らしやすい場所として、ただ住んでもらうだけで全然構わないと思ってます。そういう新しい「きょてん」を作るとかも、やりたい人がやってればいいかなと。
なるほど。「シェア街」の仕組み自体、すごく新しいかたちのまちづくり、コミュニティづくりだと思うのですが、今後、他の地域にも展開していく構想などもありますか?
今回の「シェア街」自体は、自転車15分圏内で「きょてん」を作っていくルールにしているので、それを拡大するつもりはないですし、自分で他の地域に別の「シェア街」を作るということも考えていないです。ただ、本当にリアルな自治体と姉妹都市とかになれたらおもしろいなと思ったりはしていて、そんなお話もちょっとしてたりはするんですけど。そういう姉妹都市みたいな感じでふわっと広げるとか、あるいは関係住民の人がそれぞれの場所でもリアルに交流するとかっていうのはやっていきたいですね。もし他の地域でも真似したいと思ってやってくれたら嬉しいですし、そこでまた姉妹都市とかになれたらおもしろいかもしれませんね。
柚木さんは、この「シェア街」という新しいコミュニティを通して、どんなことを実現したいと考えているのでしょうか?
僕は子どもの頃海外に住んでいたのですが、日本に帰ってきたときに、同調圧力的な、みんなと同じことをしないといけないっていうのがすごく嫌で。そういう日本を変えたいと思って国家公務員になったんですよね。そういった考えの中で言うと、地方都市でも同じような都市を大量に作るのではなくて、特定の誰かにとってすごくいい場所、いいコミュニティ、いいまちをひとつひとつ作っていきたい、という思いがすごくあります。
たとえば、「子どもがたくさんいたらうるさい」と言う方もいます。僕は「子どもがうるさいのは当たり前だ」と思っているので気にならないですが、「うるさい」と言うのもわかるんですよね。そのふたつの見方を、無理に一緒にしようとするのが今の日本の状態だと思っていて。でもそうではなくて、お互いにとって良いのは分けることだと思うんです。コミュニティを作るっていうのは、僕の中では選択肢を増やしていくことだと考えています。
「シェア街」も、大きなスペースがどーんとある、というのではなく、小さな「きょてん」の集まりであって、その時々の気分に合わせて「今日はここにいよう」って選べるようにしたい。そういう「シェア街」自体が、誰かの選べる選択肢になってもらいたいですね。そんなふうに特色があるコミュニティや集まりをたくさん作って選べるようにすることが、社会が豊かになっていくということなんじゃないかなと思って活動しています。
なるほど。たしかに、日本ではいろんな人の中間をとって、なんとなくみんなが納得するようなものにすることが多いですよね。
シェア街の中でも、作りたい「きょてん」に対して意見がぶつかった場合に、その異なる意見をなんとなく一緒にして中途半端な場所を作るんじゃなくて、それぞれ分けて作ったほうが良いとか。そうすることで、住民にも自分が選びたいほうを選んでもらう。何か曖昧なものを作るよりも、ちゃんとそれぞれが選択できるコミュニティにしたいですね。そして、そういうコミュニティやまちづくりが、日本でも増えたらいいなと思っています。