新海康介さんが選ぶ、道の駅をつくる本5冊
『住宅読本』は、「居心地のいい住まいづくり」について書かれた本です。僕は瞬間風速的にいいものを提供するよりも、家族で経営することを長く続けて、それを結果的にお客様が安らげる場所づくりにつなげていければと常々考えています。この本でとくに共感したのは「住み継ぐ」ことについて語った部分。長く住み継がれて地域の風景となじみ、地域の人には安心感やノスタルジーを、旅人には地域の魅力を伝えていけるホテルを時間をかけてつくりたいという思いを新たにしました。駅や道の駅にも、きっと似た性質はあるのではないでしょうか。
『ヨーロッパ退屈日記』は伊丹十三さんが、独特のユーモアと科学者のように鋭い視点で語った、旅についてのエッセイです。この本を読むと、旅する人が持っていたいルールやマナー、心構えが理解できますし、それがわかるともてなす側も気持ちよく行動ができるのではないかと思います。より楽しく、充実した旅をするための一冊です。
『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』も読みやすい旅のエッセイ集です。村上春樹さんならではの巧みな表現で、この本の村上さんのようにアイラ島に行ってウィスキーを飲みたくなります。アイラ島は華々しい観光地があるわけでもない。そういう場所だからこそ惹かれるものがあるということを含め、「人が旅に出たいと思うときの心情」
を何度も反芻させてくれます。
旅といったら食が欠かせません。それをしみじみと感じさせてくれるのが『酒と肴と旅の空』です。『城町アネックス』は、僕がシェフを務めるレストランを併設していますが、僕自身、旅と食はセットのほうが楽しくなるし、感動も大きいと思っているのが理由です。この本にはそれぞれの視点での感動が描かれており、この感覚は大切に覚えておきたいと思いました。
僕の祖母が経営していた旅館には画家の山下清さんが何度か泊まってくれたそうで、山下さんにはずっと親近感がありました。『山下清 The 90th of his Birth』には、山下さんが旅先で描いた絵も多く収録されていますが、そこから「こうあってほしい旅の姿」などもよく考えています。