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特集 | 未来をつくるキーパーソンに聞く 指出総編集長インタビュー

次世代に託したい未来への関わりしろ ─2025年 大阪・関西万博─。

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輝かしい未来を描いてみせたアジア初の大阪万博から55年。
2025年、『大阪・関西万博』が開催される。なにを目指し、どんな万博となるのか。「日本館」を出展する経済産業省の博覧会推進室室長の滝澤豪さんと、弊誌編集長で日本館の基本構想の作成に関わった指出一正が語り合った。
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大阪・関西万博の会場は、四方を海に囲まれた人工島「夢洲(ゆめしま)」。海と空が感じられる場所が未来社会のショーケースとなり、人類共通の課題を解決するための新しいアイデアが創造・発信される。(写真提供:2025年日本博覧会協会)
目次

新しい万博の姿を示す。

指出 私も万博に関わらせていただいていますが、「なぜ今万博なのか?」と感じている人も多いと思います。

滝澤
 過去の万博の多くは、自国の素晴らしさを世界に発信する、いわば国威発揚型でした。その流れを変えたのが『愛・地球博』(2005年)。「自然の叡智」をテーマに、グローバルな課題を採り上げたエポックメイキングな万博でした。『大阪・関西万博』も、新しい万博の姿を提示するものになればいいなと思っています。

指出
 そこで掲げられた全体テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。どのような思いが込められているのでしょうか。

滝澤
 ここでいう“いのち”は、人間のものだけではありません。無生物も含めた地球上に存在する、ありとあらゆるものが輝く世の中をつくるためにはどうすればいいのかを、みんなで考える万博にしたいという思いが込められています。『大阪・関西万博』は、おそらくポスト・コロナで初めて開催される万博。コロナ後の未来社会をきちんと世界に見せたいですね。

指出
  「未来社会の実験場」というコンセプトもすごく響きました。

滝澤
 未来社会を体験していただく場でもありたいので、交通や環境・エネルギーなど多様な分野で少し先の未来を切り取り、体験できる「未来社会ショーケース」事業も実施します。多くの人に来場していただき、テーマに沿ったさまざまな体験を通して、一人ひとりが行動を起こせる仕組みをつくっていくつもりです。

指出
 SDGsや気候変動など、世界が共通して取り組むべき課題は多い。万博はその解決策を日本から発信する格好の機会になります。『ソトコト』的には、みんなで考える、みんなで行動するという、市民参加がすばらしいと感じています。

滝澤
 社会課題がグローバル化し、価値観が多様化するなかで、課題は政府だけでも、企業だけでも解決できません。地域に根ざした課題、地球環境問題、海洋プラスチック問題、LGBTQ、ウェルビーイングなど、いろいろな課題に関わる、あるいは関わろうとする人々が、自らの周囲でアクションを起こすことで世の中はよくなります。万博が、そのきっかけになれば思っています。

指出
 『ソトコト』でも「関係人口」や「関わりしろ」というキーワードで、社会の課題に取り組む人々を紹介しています。そのなかには、幼い頃に『愛・地球博』で地球環境について考え、今ローカルプレイヤーや温暖化に取り組む活動をする方々がけっこういます。万博が人を育てているなと感じます。2025年の万博後に万博チルドレンが増えるといいですね。
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経済産業省 商務・サービスグループ 博覧会推進室 室長 滝澤 豪さん

人と人とをテクノロジーでつなぐ。

指出 僕は日本館の基本構想を検討・策定するワークショップに参加させていただきました。そのときにキーワードとして挙がったのが「関係人口」と「関わりしろ」。誰もが関われる部分があることが大事であり、「いのちと、いのちの、あいだに」という日本館のテーマに通底しているマインドだと思っています。

滝澤 委員のみなさんの想いがこもった基本構想になったと思っています。地球規模の課題を解決するためには、人類は多くのいのちのなかで生かされていることをあらためて考えなければならない。そのためには、岩や山など無生物にもリスペクトを欠かさず、自然と人間が共生するという日本の精神文化が役に立つことを伝えたいですね。

指出
 過去から未来へつなげてきた“水平方向”へのいのちのリレーがあり、いっぽうで人間を含む万物の間には、“垂直方向”へのいのちの相互作用がある。未来へ向かうためには、“水平方向”と“垂直方向”、両方でいのちのバトンをつなぐことが大事だと思います。さて、このテーマに沿った日本館、どんなものになるのでしょうか?

滝澤
 2022年3月末まで開催されるドバイ万博の日本館は、日本の歴史や文化、技術を最新テクノロジーで紹介しつつ、地球規模の課題に対する解決のアイデアを来場者が投稿できる参加型になっています。この流れを大阪・関西万博にもつなげていきたいと考えています。

指出
 まったくの偶然なのですが、ドバイ万博のテーマ「Connected Minds, Creating the Future」は、僕たちが関係人口を英語で表現する「Connected Mind」と通ずるところがあります。関係をつくり、参加することでSDGsを自分ごととして考えることができます。

滝澤
 そして、心と心、人と人とがつながることをテクノロジーが可能にしています。日本館は誰にでも門戸を開き、みんなでつくる万博を実感できる場になります。

指出
 多様な主体がテクノロジーを介して話ができる時代だからこそ、“みんな”という言葉をリアルに感じることができます。

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『ソトコト』編集長 指出一正

みんなでつくる万博に。

指出 参加型になる万博。その動きはすでに始まっています。ソトコトも日本館とのコラボとして、25年以降の未来を担う若い世代がオンラインで集まり、地域の未来を語り合う「万博未来編集部ローカルツアー」を実施しています。ほかにも万博開始前から、多くの人が関わることができる仕掛けがあると聞いています。

滝澤
 先ほども言いましたが、今の社会課題の解決には多くの人に関わっていただくしかありません。そのためには開催前からさまざまな活動を通して、多くの人に当事者になってほしいと考えています。「TEAM EXPO 2025」プログラムやソトコトの活動など、さまざまな関わりしろを見えやすくしています。ぜひ万博をツールとして、「自分の周囲の課題を解決するためになにができるのだろう」と考え、“万博の関係人口”になっていただきたい。社会の課題を“自分ごと”として考え、行動する人々が開催前から関わり、一緒に世の中をよくする方向に動いていければ、すばらしい万博になると思います。そういう意味では、万博本番が「オフ会」になるくらいに事前の活動を充実させたい。万博をきっかけに、いい循環が生まれ、世の中もよくなるムーブメントを起こしていきたいと考えています。

指出
 今号の特集は「まちをワクワクさせるローカルプロジェクト」。万博は、まさにそんなプロジェクトになります。万博がみんなのローカルプロジェクトになれば成功ではないでしょうか。

滝澤
 ローカルでもありながら、真の意味で万博が世の中の役に立つ。これこそが新しい万博のあり方だということを世界に発信していきます。

指出
 万博で、自分ごととして未来に関わることが楽しいとみんなが思ってくれることを願っています。

大阪・関西万博の関わりしろ①「TEAM EXPO 2025プログラム」

万博は見るだけのイベントではない。自分が主人公として万博に参加できるのが「TEAM EXPO 2025」プログラムだ。いろいろな人たちでチームを組み、未来に向けた活動を行う参加型のプログラム、「共創チャレンジ」がすでに始まっている。メンバーたちと一緒に一つでも多くの身の回りの課題を解決して、「あ! ちょっと社会がよくなった!」というワクワクする体験を増やしていこう! その積み重ねが、万博とその先の未来につながっていく。

「共創チャレンジ キックオフミーティング =未来への宣言=」

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「共創チャレンジ」をテーマにした初のトークイベント。トークセッションと4つの「共創チャレンジ」の紹介が行われた。

Hello! TEAM EXPO 2025 Meeting

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共創パートナーの『大日本印刷』が、「共創チャレンジ」をサポートする共創パートナー同士の交流を図るイベントとして、2021年4月から定期的に開催。

EXPO PLL Talks「シギノ産官学万博企画会議」

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共創パートナーの『西尾レントオール』が展開する、万博のテーマに関連する活動を行う実践者たちが語り合うオンライントークイベント。

次ページ:大阪・関西万博の関わりしろ② つくりたい未来の地域はなんですか?「 万博未来編集部 ローカルツアー ONLINE」

大阪・関西万博の関わりしろ② つくりたい未来の地域はなんですか?「 万博未来編集部 ローカルツアー ONLINE」

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日本館と『ソトコト』のコラボで開催される「万博未来編集部ローカルツアー ONLINE」。2025年の大阪・関西万博に向けて、若い世代が集まり、地域の未来について語り合った。
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エリア編集長とゲストクリエイターが関西2府4県の全6回を持ち回りで参加。
 “関わりしろ”がたくさん用意されている大阪・関西万博。「万博未来編集部ローカルツアー ONLINE」もその一つで、関西の2府4県で開催されるオンラインのイベントだ。それぞれのエリア編集長とゲストスピーカーとともに、関西圏からの参加者みんなで「つくりたい地域の未来」の姿を考えていく。
1回目の開催は大阪。エリア編集長は、仕事と生き方の新しい関係を考え、次世代のハローワークを運営する『HELLOlife』代表理事の塩山諒さん。ゲストスピーカーとして、日本館の基本構想の作成メンバーも務めたキュレーターの田中みゆきさんと弊誌編集長・指出一正が参加した。公募で集まったのは、関西在住で10代から30代の約20人。学生や社会人など職業はさまざまだが、自分たちの暮らす地域に関心がある。

ともに生きることで 差別や偏見がない社会へ。

「つくりたい地域の未来」を描くために、まず塩山さんと田中さんが、それぞれの活動や地域への考え方を語った。
「働いても働いても幸せになれない」社会への違和感を感じていた塩山さん。「社会を変えよう」と試行錯誤するなかで気づいたのは「自分の半径5メートル、10メートルにいる人たちの意識から変えなければ」ということ。夜の街で行ったごみ拾いをきっかけに社会のなかに活動が広がり、『HELLOlife』では自分らしい生き方・働き方の実現に向けた活動を行っている。
キュレーターの田中さんは、義足の展示や視覚障害者との映画製作、ルールについて考える展覧会などの活動を通じて、「障害は世界を捉え直す視点」と実感している。「わたしの活動では、障害のある人とない人が表現をつくるという共通の目的を取り組んできました。それによって、お互いに新しい視点が生まれ、差別や偏見がなくなっていきますし、表現そのものも新しくなっていきました」。
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『HELLOlife』代表理事 塩山諒さん「一緒に時間を過ごすことから差別の意識がなくなっていきます。」
 社会のなかで生きにくさを抱える人々とともに活動するお二人。「多様な人々が、楽しく一緒に活動することで、差別はなくなっていき、そこから社会は変われると思います」と塩山さん。田中さんは、「たとえば、『手を上げて』という時に、目が見えているとみんな見本と同じように手を上げますが、視覚障害者はばらばら。見ないことで自由な解釈の余地があることに気づかされました」と体験を語る。指出も「編集部にも多様な人がいたほうがいい。マチマチに手を挙げられる自由さを大事にしたい」と語った。
では、二人が描く未来はどんなものなのだろうか。「競争に負けても差別されず、明るく、人間らしい豊かな生活を送ることができる社会」と塩山さんは描く。田中さんは「バリアフリーの設備が整っていなくても障害のある人が訪れたときに臨機応変に対応できる人を育てる社会であってほしい。目の前の困っている人のことを考えてほしいです」。
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キュレーター 田中みゆきさん「共通の目的を持つことで互いに新しい視点が生まれます。」

4つのグループで 未来の街を考える。

 この対話を受けて参加者は4つのグループに分かれ、理想の社会を構築するワークショップを行った。オンラインで共有できる白地図の上に、公共施設やエンタメ施設、ビル、住宅、さらには自然(山や川・湖など)、人、動植物など用意されたアイコンを置き、街をつくっていく。
まず参加者それぞれがまちづくりで大切にしたいものを3つ考え、そのうえで、グループ内で議論し街に展開した。琵琶湖のような湖を街の中心にしたい、ランドマークとなるドームから広がる街に海外の人を呼びたい、どこでもテントを立てる自由のある街がいい、などさまざまな意見が出て、所要時間ぎりぎりまで議論が重ねられた。
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『ソトコト』編集長 指出一正「SDGsのその先に向けてバトンを渡していかなければと思います。」
 出来上がった4つの街はまったく違う姿になり、刺激的だった。「街は舞台ですね。個性的で、どの街も住民が社会に参加できそう。その先にSDGsがあると思います」と講評する塩山さん。田中さんもどれもみな面白かったと言い、「特に、にわとりがいるとか、街中にテントで泊まれる、お化けや宇宙人に出会えるなど、その人が見えてくるディテールがよかった」と結んだ。
「みなさんセッションを楽しんでくれて、どの街にも住んでみたいと思いました。万博をもっと身近なものにできるよう、この万博未来編集部は、2025年に向けて続いていきます。万博の会場でみなさんと会える機会もつくりたいと思っています」と指出が締めくくった。集合写真に写った参加者は、みな満面の笑みだった。
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最後の集合写真は、それぞれが自由なポーズで!

4つのグループが発表した未来の街。

Aグループ

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テーマは「大阪らしいフレンドリー(=おせっかい)で安心な街」。ドームを中心にしていて、海外から人が来やすいように空港を配置。同時に福祉施設や病院を備え、貧困や高齢者の抱える課題にも対応する。いわば都市型の街。

Bグループ

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城や古民家、個人商店、豊かな自然、優秀なインフラなど日本のよさと、ロボットや工場など未来のテクノロジーを融合させた「歴史を紡ぐ新しい街」。自由さと安全さの象徴として、いろいろなところにテントが設置してある。

Cグループ

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人と人とがどう関われるのか、という視点から街を考えた。さまざまな境界が取り払われ、マウントを取り合わない「ノーボーダー、ノーマウンティング」な街を作製。境界がないので、幽霊や宇宙人とも出会える!?

Dグループ

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「癒されたい……自然と動物が関わり合う」をテーマにしたこの街は、湖を中心に美しい風景が広がる。この街では、人と動物と自然がつながり合うことで、心の余裕が生まれ、インクルーシブな街が自然に形づくられる。
photographs by HiroshiTakaoka text by Reiko Hisashima

「万博未来編集部ローカルツアーONLINE」まだまだ参加者募集中です!

京都府 2月19日(土)10:00〜12:30
エリア編集長:稲垣佳乃子さん(出版社さりげなく 代表)
ゲストクリエイター:太刀川英輔さん(NOSIGNER代表)、平田晃久さん(建築家 京都大学教授)、指出一正(『ソトコト』編集長)
https://sotokoto-online.jp/sustainability/11148

滋賀県 2月26日(土)10:00〜12:30
エリア編集長:周防苑子さん(ハコミドリ / VOID A PART 代表)
ゲストクリエイター:南澤孝太さん(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授)、指出一正(『ソトコト』編集長)
https://sotokoto-online.jp/sustainability/11147

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