「経済地理学農村地域論」を専門に、明治大学商学部で教鞭を執る中川秀一さん。ゼミ活動では学生たちと実際に日本の地域に赴き、関係人口にも通じる研究・調査を行っています。今回は、大学生をはじめとした若者や、彼らと向き合う立場にある人たちにおすすめしたい本を選んでいただきました。
*今回の選書人は、それぞれの分野で関係人口に向き合い、関係人口を理解するうえで大切な活動をされている11名の方々です。これから関係人口を受け入れるみなさんや、今まさに地域と関わり始めた人がよりよいアクションができるように、おすすめの本を選んでいただきました。
選者 category:大学生

大きな自然災害や公害に見舞われた地域で暮らしを再建しようと奮闘してきた人々の取り組みや、石川県の都市と農村で起きている地域づくりについて紹介されています。地域から日本の未来を考えさせてくれる本です。
みんなでつくるまちづくりワークショップ ─ファシリテーションの「かきくけこ」/長曽我部まどか著、筒井一伸著、今井印刷刊
ワークショップと一口に言っても、主催者と参加者によっていくつものパターンがあること、また短いワークショップの時間の間にも段取りがあることが説明されています。非常に実践的な内容が書かれた一冊です。
経済地理学」とは何か簡単に説明をすると、企業や資本など世界の経済状況を土台に、産業を中心にした国土をどのように編成していくかを考える学問です。ですが近年では、経済をもっと広く捉えて私たちの生活のなかにある経済活動が重要だとする新たな潮流も生まれています。私が専門とする「経済地理学農村地域論」は後者の観点で過疎をはじめとする農村の問題を考えていくもので、コミュニティ経済を大事なテーマとして学生たちに教えたり、彼らと一緒に農村地域のフィールドワークを含めた研究をしたりしています。
大都市の大学に通う学生たちも、日本の地域が抱える問題を感じ取り、関心を寄せています。そうしたときに地域に対してどのようなまなざしで向き合うべきか、若者にもその手がかりをわかりやすく与えてくれる本として選んだのが、『きみのまちに未来はあるか?』です。キーワードになっている「根っこ」とは歴史、文化を含む地域の多様性ある個性のこと。この本は、「根っこ」によって育まれてきた日本各地にある暮らしやその価値を、単純な尺度で一律に理解するのではなく、それぞれの地域の個性を踏まえて考えることや、現在、地域が抱える問題をどのように感じとり「自分自身の問題」として位置づけるか、という問いに向き合うことなど、地域に関わるうえでの大切な心構えや姿勢を示してくれます。私はゼミに入ったばかりの学生たちとともにゆっくりと読み進める、最初の本にしています。
『みんなでつくるまちづくりワークショップ』は、話し合いを円滑に進める手ほどきが書かれた本です。鳥取大学での実践例が紹介されていたりと、とても簡潔にわかりやすく書かれています。私のゼミ活動では、学生が地域づくりに参画しながら進めるプロジェクト型の研究を行っています。小さなプロジェクトでも、計画を立て実践していく過程ではプロジェクト参加者の意思疎通や合意形成は欠かせません。リーダーがメンバーの意見を聞いたり、グループの意見をまとめたりするときの進め方として、この本に書かれているファシリテーションの手法を参考にするように指導しています。
プロジェクトの一環として学生たちが主催者となり、地域のことをより深く理解するために町や村の人たちの思いを聞いたり、一緒に地域について考えるワークショップを行うことがたびたびあります。そうしたときにこの本は役立っています。
地域の力 ─食・農・まちづくり
大江正章著、岩波書店刊

経済地理学とは何か ─ 批判的立地論入門
中澤高志著、旬報社刊

TAKE BACK THE ECONOMY
─AN ETHICAL GUIDE FOR TRANSFORMING OUR COMMUNITIES


photographs by Jiro Matsushita text by Ikumi Tsubone
記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。